エステルの気持ち
今回は非常に短い上に、主人公の視点ではありません。
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前話にて新たなスキルを獲得していたのにガドウのステータスを出していませんでしたので追加しました。
また、前話にて新たに獲得したスキルの名前を【魔力転化】から【魔力転移】に変更しました。
目が覚めると見慣れない天井が視界に入った。
「えーっと、ここは?」
「あ、良かった!エステルさん目が覚めたんですね!」
そう呟くと横から聞き慣れた元気な声が聞こえて来た。
「うん?この声はリリア?」
目が覚めて間も無いため、まだ微かにボーッとする頭を回転させてゆっくりと声の聞こえて来た方向を向く。するとそこには自分と同じような形状のベッドに座っているリリアの姿があった。
「まだ頭が上手く回らないんで、すまないが状況の説明を頼めるかな?」
リリアの姿を確認した私は取り敢えず今の状況の説明を求めた。
「ああ、それはですねーー」
「おや?漸くギルドマスターのおめ目覚めのようですね。調子はどうですか?」
それに答えようとしたリリアのセリフを遮り、真面目そうな目をした白衣の少女が現れた。
「ああ、キュレアか。てことはここは医務室でいいのかな?」
リリアのセリフを遮り現れた白衣の女性は、キュレアと言い、このギルドの医務室に勤めている妖精族の可愛いらしい少女だ。
妖精族と言ってそれなりの数があり、私はその中のエルフ族と言う攻撃魔法に特化した種族だが、このキュレアはピクシー族と言う回復魔法に特化した種族である。他にも鍛治を好んで行う為、身体強化魔法に特化したドワーフ族や、彼等の派生で道具作りが得意なノーム族と言う種族もある。他にも少数だがエルフ族の派生でそれぞれ風、水、火の魔法に特化したシルフやウンディーネ、サラマンドルと言った種族もある。
まあ極めて少数な種族も含めるともっとたくさんあるが、大体有名なのはこれらだろう。そして、これら全てを纏めて妖精族と呼ぶ。
妖精族とは総じて寿命が長く、その中でもエルフ族は特に長い寿命を持っている。事実今生きているエルフ族中には最高齢は3000歳を超えている者もいる。
「うん、大分頭の方もスッキリして来ているようですね。
ここはギルドマスターの言う通り医務室ですよ。お二人は気絶していましたので、一先ずはベッドで休ませていました。先程修練場の方から凄い音が聞こえましたが、あれが原因ですか?」
私はキュレアの質問にあからさまに目を泳がせてしまった。だってあれは完全に私のせいだし……
「あ、いや、その……まあなんだ、あの音の原因は私だと思う……」
「やっぱりギルドマスターでしたか……まあこのギルドであれだけ派手な音を出せる方はギルドマスター以外いませんしね……何があったかは知りませんが、少しは自重してくださいよ?」
「面目無い……」
うーん……どうも私はキュレアには逆らえないだよね……優秀な奴なんだけど、それが逆に何とも言い難い雰囲気を醸し出していると言うか、何と言うか……
「あ、そう言えばガドウ君はどうしたんだい?」
「ん?貴女方を運んで来た銀髪の子ですか?それならあそこにいますけど……ってあれは何をやっているんでしょうか?」
キュレアの指差す方向に目をやると、そこにある窓の向こう側の庭で先程私と闘った際に使っていた武器を地面に突き立て、その上でバランスを取っている異例の新人君こと、ガドウ君がいた。
「ガドウさん……何をしているんでしょうか?」
「さあ?でもバランス感覚が凄まじく良いのは分かるね」
私につられるようにしてガドウ君がいる方向を見たリリアが、首を傾げていた。
ガドウ君は私達の視線に気付いたのか、チラリとこちらを見た。その際一瞬目が合うが、直ぐに興味を無くしたのか元の訓練(?)に戻ってしまった。
にしてもこうして見るとやはり彼の容姿は凄まじく整っているな。私も容姿にはそこそこ自身があるが……彼と釣り合うかと言われると少し悩む。……ってなんで私は彼と釣り合えるか否かを考えているんだ!確かに私の好みは私より強くて私の事を守ってくれる人だが、彼は人間族だぞ!エルフ族の私とは寿命と言う問題があるだろう!で、でもやっぱり私だって一人の女性だし、理想の男性像ってものもあるわけでごにょごにょ……
「彼が貴女方二人を同時に抱えて来た時はびっくりしましたよ。突然来て「頼んだ」の一言だけですもん。取り敢えず症状は魔力枯渇だけで外傷は無いようでしたので魔力回復の魔法と安らぎの魔法を掛けて寝かしておきましたけど……」
「あ、ああ……今回は迷惑かけたようだね。改めて言わせて貰うよ。申し訳なかった。取り敢えず私はもう大丈夫だから執務室に戻るとするよ。リリア、後で執務室に来るようにとあそこのガドウ君に伝えておいてくれないか?ここからだと姿は見えても声は届かないからね」
「分かりました!ではキュレアさん、結構寝ちゃってたみたいだし私も受付に戻りますね!ガドウさんへの伝言もありますし、ここら辺で失礼させて頂きます。ありがとうございました!」
そう言って元気良く戻って行くリリアを見送り、私もそろそろ戻ろうかと立ち上がろうとした時、キュレアがとんでもない事を言って来た。
「ギルドマスター、いや、エステル。貴女あの子……ガドウ君と言いましたか?彼の事好きになっちゃったんじゃないですか?」
リリアが去り、2人きりになった時、キュレアが急に馴れ馴れしく語り掛けて来た。
「なっ⁉︎にゃんの事かな⁉︎///」
その突然の質問に不覚にもテンパってしまい、思わず言葉を噛んでしまった。
「貴女は本当に昔から嘘が下手ですねぇ。その反応だけで丸分かりですよ?」
そう、私とキュレアはかなり昔から付き合いが有り、かつては一緒に組んで冒険者をしていた事もあったのだ。
「うう〜///リリアがいた時の真面目なキュレアはどこ行ったんだ……///」
「ふふふ、私は公私をしっかり分けているだけですよ?でも彼、貴女の好みに完全に一致しているじゃないですか。良かったですね、自分より強くて自分の事を守ってくれる男性が理想の男性像のエステルさん?」
「いじわるだな君は……」
かつて調子に乗って好みの男性像を語り合ったのを今更ながらに後悔した。キュレアはこう言う事は絶対忘れないなからなぁ……
「でも彼は人間族ですよ?私達妖精族とは寿命が違います。それは理解しているのですか?」
唐突に突き付けられる現実に私は表情を曇らせてしまう。
「それは……分かっているよ……確かに私は彼を好きになってしまった。でもこの気持ちはきっと一過性のものさ。時間が経てば薄れて行く軽いもの。だから彼に気持ちを伝えるつもりは無いよ」
「そう……貴女がそう決めたならそれでいいじゃないですか。あ、ほらほら貴女も早く執務室に戻った方がいいですよ。リリアちゃんがガドウ君に何か伝えていますよ。と言うか彼、何かまた変な事してますね?」
「ああ、そうだったね。じゃあまた今度食事でも行こうか。じゃあ私はこれで……ってガドウ君はやはり面白いな」
執務室に戻ろうと急いでベッドから起き上がり、ついでにチラリとガドウ君の方を見てみると、何故か今度は武器の上で指たて伏せをしていた。修行熱心なのはいいけどあれは何の意味があるのだろうか?にしても改めて見ると本当にガドウ君はかっこいいな……ってダメダメ!このままじゃまたさっきと同じ状態になってしまうでは無いか!
私は再び頭に過った内容を誤魔化すかのようにして駆け足で執務室に向かった。その際後ろからキュレアのクスクスと笑う声が聞こえて来たが、彼女はそう言う奴だし一々突っかかってちゃ切りが無い。
そんな事を考えながら、私は執務室の扉を開いた。
はい、と言うことで今回はエステルさん視点でした。
次回から主人公視点に戻るので宜しくお願いします。




