昇格試験
スランプって辛いですね。でもめげずに頑張ります!
「こちらが試験場となります。こちらでは試験に合わせた内容が用意されており、今回は魔法で創り出した魔物を相手して貰います」
リリアに連れて来られた場所は大体半径250メートルの巨大な円状の場所だった。そこには数人の冒険者と思われる者達が各々の武器を持って修練に勤しんでいた。
「こちらでは試験の時以外は冒険者の皆様の修練場となっております。今から試験を始めると言う事を伝えてどいて頂きますので、暫しお待ち下さい」
そう言ってリリアは冒険者達に向かって走って行った。
冒険者達はそんなリリアに気付くと、優し気な表情で走るリリアを見詰めていた。この反応だけリリアがこのギルドでどんな風に思われているかが分かる。
(ふむ……リリアはこのギルドでは相当好かれているようだな……)
そんな事を考えながら暫く待っていると、冒険者達の誘導を終えたリリアが戻って来た。
「お待たせしました!直ぐに始めますのでこちらへどうぞ!」
息を切らせながそう伝えるリリアに苦笑しつつ、俺はリリアに示された場所に進んで行った。すると……
「っ⁉︎……へぇ、こんな仕組みなのか……」
俺がリリアに示された場所に移動すると、その瞬間俺を囲うように俺の周囲の半径100メートルくらいに魔力で出来た透明な障壁が現れた。
「では試験を開始します!準備はいいですか?」
障壁の外から言うリリアに頷き返すと、次の瞬間目の前に人間の子供程の大きさの醜悪な顔をした生物が現れた。
「Eランクへの昇格試験の相手はゴブリンです。頑張ってください!」
リリアの言葉を合図に、ゴブリンは俺目掛けて走って来た。
「へぇ……これがゴブリンか」
そう呟き腰に指してあったシュヴァルツ・ヴァイスを素早く引き抜き、魔力を込めて引き金を引く。
ズガァン!
そんな破裂音と同時に俺目掛けて走って来ていたゴブリンの頭が吹き飛んだ。
頭を吹き飛ばされたゴブリンはそのまま魔力の粒子となって消えて行った。
「これでEランクだな?じゃあこのままDランクの昇格試験を頼む」
「え?あっ、はい!」
俺の言葉に呆然としていたリリアはハッと我に返って慌てて次の試験の準備に取り組み始めた。
「ねぇ……今何があったか分かった?」
「いや、まったく……あの新人からなんか魔力の塊のようは物が見えたと思ったら次の瞬間にはゴブリンの頭が吹き飛んでた……」
「お前もか……俺もそれしか見えなかったぜ……」
「嘘だろ?Bランクのお前でも見え無かったのかよ……」
「魔法……じゃないわよね?詠唱したようには見え無かったし……」
周囲で昇格試験と聞いて見学していた冒険者達がザワザワと何か言い合っている。そんなに驚く事でもあっただろうか?俺はただシュヴァルツ・ヴァイスに僅かな魔力を込めて撃っただけなんだが……いや、それが問題なのか……
「つ、次の試験の準備が出来ました。続いての試験はオークを倒す事です!」
そんな風に考えているとリリアの声が聞こえて来て、次の瞬間に目の前に現れたのは豚と人を足して2で割ったような魔物だった。
「へぇ、こいつがオークか……」
さっきと同じような事を呟き、これまたさっきと同様にシュヴァルツ・ヴァイスの引き金を引いた。するとやはりオークの頭が吹き飛び、そのまま魔力の粒子となって消えて行った。その事でまたもや周囲が騒がしくなる。
「つまらんな……やっぱあそこの敵達に慣れ過ぎたかな……」
周囲の騒ぎを無視しながら俺はシュヴァルツ・ヴァイスを眺めながら呟いた。
「取り敢えず次の試験を受けるとするか……リリア、次の試験を頼む!」
「あ、はい……」
リリアが何か言いた気の表情でそう答えると、今度目の前に現れたのは3匹の狼だった。
「続いての試験はブラックウルフの討伐です。ブラックウルフは群れる事で本領を発揮するので、気を付けてく「ズガァン!ズガァン!」……え?」
ブラックウルフと呼ばれた狼達はリリアが全てを話し終わる前に動き出し、連携で俺目掛けて襲い掛かって来た。なので俺もそれに対応したのだが……結果的にはリリアの言葉が終わるよりも早く決着が付いた。
こちらに向かって走って来た2匹に向かってシュヴァルツ・ヴァイスを放ち、そのまま残った1匹の前に移動してその体を蹴り飛ばした。
シュヴァルツ・ヴァイスを喰らったブラックウルフ2匹はその頭を破壊され、蹴り飛ばしたブラックウルフは俺の蹴りに耐えられず全身の骨を砕きながら空中で魔力の粒子となって消えて行った。シュヴァルツ・ヴァイスに撃ち殺された2匹もそんな仲間の後を追うかのように次々と魔力の粒子となって消えて行った。
「はぁ……ダメだ、つまらん。なあリリア、これに意味はあるのか?正直言って負ける気がしないんだけど……それはお前も薄々気付いているだろ?」
「し、少々お待ち下しゃい!」
俺の言葉にビクリと反応したリリアは言葉を噛んだ事にすら気付かず、慌てて何処かに走っていた。
「あいつ……今日慌ててばっかだな」
まあその全てが俺の所為なんだがな。
***
待つこと約10分。リリアが漸く戻って来た。しかしその傍らには見たことの無い美しい女性が立っていた。
「君が件の異例の新人君かな?中々良い容姿じゃないか」
リリアの隣に立っていた女性は俺を視界に収めると、妖艶に喋り出した。
女性の登場に周囲の冒険者は何故か騒々しくなるが、俺はその事より女性の耳が気になった。そう、その女性の耳は人間と違い僅かに尖っていたのだ。
「エルフ、か……?」
「そうだ」
そう、耳が尖っているのはエルフ族の特徴なのだ。
街を歩いている時にも何人かのエルフ族とすれ違ってはいたが、ここまではっきりと向かい合うのは始めてだ。
「私の名はエステル。エステル・フォレスティーアだ。この防衛都市アクウェリウムの冒険者ギルドでギルドマスターをやっている。よろしくね」
少しラフな喋り方で話す美しい女性ーーエステルはそう自己紹介をしながら手を差し出して来る。
俺はその手を握り返しながらも目の前に立つエステルに対する警戒を解かなかった。と言うのは、エステルから感じる魔力が尋常じゃないからだ。
俺は一年間の修行で相手の魔力をある程度なら測れるようになった。まだ何十キロも先に存在する魔力とかは探れ無いが、この至近距離なら流石に間違える事は無い。
(どう言う事だ?確かにエルフ族は総じて高い魔力を保有するらしいが、この女から感じる魔力はエルフ族の限界を軽く超えているぞ……これは、単純な魔力だけなら俺を超えているな……)
「ふふっ、そんな警戒しないでも平気だ。別に取って食ったりはしないからな」
「あんた……本当にエルフ族か?こう言ってはなんだが、あんたから感じる魔力は今まで会ったエルフ族とは文字通り桁が違うように感じるんだが?」
エステルは俺の言葉に一瞬驚いた表情を作るも、直ぐ様先程と同様に妖艶な表情に戻り、口を聞く。
「ほう、分かるのか?」
こちらを値踏みするかのような視線。その視線を少し不快に思うも、ここで怒っても何も意味を成さない。それだけでなくエステルの思い通りになってしまう。それは何か嫌だ。
「まあな……寧ろそこまでの魔力をある程度まで抑え込めると言うのに驚きだ」
「そこまで分かるなんて本当に異例の新人君だね……そうだ、いい事を思いついた」
エステルは何かを考えるような仕草をした後、ポンっと手を叩き俺に向かってニヤリと笑った。嫌な予感だ……
「新人君、提案が「お断りだ」……せめて全部言い終わった後に言って欲しいな」
エステルは不満そうにそう言うが、俺は騙されないぞ。終始ニヤニヤしている表情からろくでもない事を考えているのはお見通しだ。最も、向こうもそれを隠すつもりは無いんだろうがな。
「あんたからは何か怪しい雰囲気を感じるからな。何かを提案するなら、せめてそのニヤニヤを止めろ」
「まあまあ、そう言うな。これは君に取っても悪い話じゃないぞ。聞くだけ聞いてみなって」
俺は無言でエステルの顔を見詰める。その様子を肯定と取ったのか、エステルも話し出す。
「まあそんな複雑な事じゃないさ。私と闘ってみようじゃないか。もし元特Sランク冒険者の私に勝てたら君のランクを一気特Sランクまで上げてやってもいいぞ」
「なんだと?」
その言葉に俺は思わず目を見開いた。周りにいた野次馬冒険者やリリアも皆一様に同じように呆けた表情になっていた。
「聞くところによれば、君はここまでの試験を全部1秒も掛からず終わらせているそうじゃないか。そしてこの試験を無意味だと思っている」
エステルの言葉に再び無言でになる。その様子に満足気に頷いたエステルは、提案の内容の続きを語る。
「リリアが執務室に飛び込んで来た時は驚いたよ。それにリリアの訴えも半信半疑だったんだが……君をこの眼で直接見て分かったよ。君の強さは試験では測れない。ならば私自らが見極めた方が手っ取り早い……ってね」
エステルの言葉と同時に先程とはまた別の結界が俺とエステルを囲んで発動した。
「『転魔結界』。受けたダメージを全て魔力に与える特殊な結界だ」
「元から逃がす気は無い、と……」
俺はスッと腰の竜神刀に手を掛ける。
「ふふっ、口ではそんな事言っても体は正直じゃないか。お姉さん燃えて来ちゃった♪」
傍から見るとエステルの容姿も合わさって完全に誤解を招くような言葉だが、その体から滲み出る魔力が全てを台無しにしている。
「お姉さんだって?エルフ族が見た目通りの年齢なわけないだろうが。年増が無理矢理”♪”なんて付けるなよ。違和感しかないぞ?」
俺はそんなエステルに対して好戦的な笑みを浮かべ、挑発する。
俺も魔人となったとは言え、混沌竜と言う魔物としての本能が無くなるわけじゃない。混沌竜と言う魔物の本能……即ち強者との闘いを求めると言う思い。
「おや?それは流石に聞き逃せないな。ちょっとお仕置きしないとね」
「出来るものならやってみな」
お互いニヤリと笑い、意識をこの闘いに集中させて行く。
「精々私を楽しませてみな、ぼ・う・や」
「それはこっちのセリフだなおばさん」
さぁて……楽しませてもらおうか!