規則(ルール)
自転車に乗る者として最近の交通ルールにちょっと思うところがあったので勢いで書いてみました。
矛盾してるルールがあると破綻するよね、この世界だと(苦笑)
日本に良く似た、でも少し違う世界。
その世界には人間と人間によく似た機械人間が共存していた。
ただ例に漏れず人間は機械人間格下の物として扱っていた。
とはいえ、機械人間にも一応の人権は認められていたし、その才能によっては国の運営にも携われる地位にも着けた。
そしてその国は交通戦争の真っ只中にあった。
狭い国土に張り巡らされた道路。
一都集中の経済圏に対して人々は近郊から車やさまざまな公共手段を利用して集まってくる。
当然狭い道に対して車は溢れ、渋滞がいたるところで巻き起こることになる。
そうなれば少しでも時間を節約したいと考える者は渋滞をすり抜けられる手段を選ぶことになる。
そんな訳で最近富に人気なのが自転車である。
いわゆるママチャリからスポーツタイプのものまで多種多様な自転車が渋滞する車をすり抜け、人々の隙間を縫うようにして速度を出して走り抜ける。
すると多発するのが交通事故である。
車対自転車、自転車対自転車、自転車対歩行者。
一応この国にも交通ルールというものはある。
基本原則は車は左人は右を通行すること。
ここで問題になるのが「自転車」の定義だ。
ややこしいことに「自転車」は「軽車両」。
本来は車両である以上車道を走らねばならない。
だが車と違い自転車は乗る人間を守ってくれるような固い車両はない。
つまり車とぶつかれば当然自転車に乗っている人間は跳ね飛ばされ、死ぬようなことも少なくないのだ。
車と自転車の事故が圧倒的に増えた数十年前、政府は交通法規を改正して
「自転車」は「歩行者」と同じ場所を走れるようにする。(一部例外あり)
となんともあやふやなルールにしてしまったのだ。
その結果が現在の新たな交通事故戦争だ。
本来歩行者のみが歩けるはずの安全地帯だったはずの歩道を自転車が高速で走るために歩行者と自転車の衝突事故が増えてしまい、あまつさえ衝突したことで死者も出るような事態になってしまった。
車道を走らせれば自転車は被害者となる。
歩道を走らせれば自転車は加害者となる。
かといって自転車をすべて廃止させれば車を運転できない者にとっては死活問題になるだろう。
既にこの国は街中に密着する商店街などは廃れ郊外に出来た大型商店などが人々の主な買い物の場所となっていたのだから。
故に政府や政治家たちは頭を抱えることになった。
そんな中、ある一人の人物が声を上げた。
「交通の基本原則、人は右を歩き、車や車と名のつくものはすべて左側通行させてはどうだろう?例外を認めるからややこしくなるのだ」
当然その声には異論が上がった。
「子供の乗る三輪車や体の不自由な人が乗る車椅子などはどうするのだ?それらも車と名前がついている。それも道路を走らせるというのか?」
「そもそも三輪車などは玩具である。ならば公道で走るものではないのだから走らせなければよい。車椅子は電動と手動を完全に分離させて手動のものは名称から変更するべきだろう」
この発言にさらに喧々囂々と議論が紛糾する。
「仮にその法律が成立したとしてもすべての人々がその法律を遵守できるという保証はどこにもないではないか!」
「それは人間である以上見落としもあるからな。だが人間でないものが見張っていたならどうだ?」
どういうことだ?と誰かが声をあげる前に事態が急変する。
国の中枢を勤める各建物が一斉に何者かに占拠されたとの緊急情報が国中に流れる。
人々が無意識のうちに見下げていた機械人形の反乱、いや革命だった。
その結果起こったことは。
機械人形による人間支配の世界。
それでも機械人形たちは人間に対して直接的な無体を働いたわけではない。
ただ、監視し、ミスをした者には罰を与えただけだ。
ルールを守れば機械人形は何もしない。
だが少しでもルールを守らなければ機械人形は容赦なく相応の罰を与えた。
処罰の対象に真っ先にになったのはいわゆる「お偉いさん」たちだったというのは何かの皮肉だろうか。
そして機械人形による人間支配が始まって数十年後。
人間はいつしか慣れる者であり、ルールを守りさえすれば平穏無事な生活を送れることを学んだ。
故に以前は大問題だった交通事故は激減し、今は数年に1回起こるかどうかというレア度にまでなった。
だがやはりそんな規則規則で縛られた世界が嫌になる若者も出てくるのが世の常である。
その少年も溜まりに溜まった鬱憤が爆発しそうになったとき一通の手紙を受け取る。
その手紙には差出人もあて先住所もない、ただ少年の名前だけが書かれた不審そのもの。
しかし少年には「手紙には宛先住所、氏名を明記し、差出人の住所氏名を明記すること」という規則を破った手紙が届いたという事実が重要であり、心躍らせるものに他ならなかった。
手紙の内容は
「この世界に不満を持つ方々にのみこの手紙をお届けします。
貴方様が望むのならばご希望の世界に貴方様をお届けいたします。
但し、二度と元の世界に戻ることは叶いません。
それでも良いと覚悟を持つ方は○○日0時にXXの場所にお集まりください。」
どう考えても怪しすぎる手紙だったが少年にとっては魅力的過ぎるほどのもの。
親兄弟は規則まみれの世界を当然と受け止め違反をしようと考えることすらしない。
そんな思考を止めた世界は少年にとっては唾棄すべきものであった。
だから指定された日時に指定された場所へ当然のように愛車と共に向かう。
指定された場所には少年を含め数人の人物が不安と期待を半々に抱えた顔で集まっていた。
それでも誰も言葉を交わそうとはしない。
皆無法者な者だと判っていたからだ。
そして時間になったとき少年の頭の中に謎の声が浮かぶ。
『ようこそお集まりになりました。これから貴方様のご希望する世界へとお送りいたします。
さて、貴方様のご希望する世界はどのような世界でしょうか?』
『こんな規則規則で雁字搦めな世界はもう真っ平だ!道ぐらい自由に走りたい!』
『了解いたしました。それではお幸せな人生でありますように』
次の瞬間少年の視界はぐるりと暗転し。
気がついたときには周囲には誰もいなかった。
周囲の風景は集まっていた人々の姿がないだけでそれ以外は暗転する前と全く変わらない。
だから夢かと思ったが恐る恐る道の「右側」を走るが聞こえるはずのわずらわしい警報音は聞こえない。
横断歩道以外の場所を渡れば数分もしないうちに機械人形の警官が駆けつけてくるはずなのにそれもない。
「や、やった!俺はこれで自由だ!もう何も怖くないぞ!」
少年は嬉しさのあまり道路の真ん中に飛び出して蛇行運転をしながらはしゃぐ。
その瞬間少年に当たるスポットライト。
え?と少年が光の元を見れば自分に向かって突っ込んでくる巨大な二つの光の目があった。
『ああ、やはり規則を守らないといけないですねぇ。規則を守らないものは遅かれ早かれ報いが来るものですよ』
少年の最後の記憶は楽しげな機械人形の笑い声だった。
機械人形が支配した世界はルールの矛盾が起きないようにきっと統合された法律が決まってると思います。
でもそこまで決められると外に出たくないなーと思う人も増えそうだと思いながら書いてみました。