表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
上海リリ  作者: 吾妻栄子
9/50

<9>

蓉姐は立ち止まると、通りを走ってくる空の人力車に手を上げた。

車夫が足を止めるが早いか、緑旗袍の切れ目から白い脛を覗かせてひらりと飛び乗る。


「乗って!」


車上から飛んでくる声に、慌てて隣に乗り込む。

人の引く車に乗るのは初めてだ。


静安寺せいあんじ通りまで」


蓉姐が早口で告げると、車夫は駆け出した。

風が寒い程吹き付ける。

私は荷物ごと吹き飛ばされない様に、背筋を伸ばした蓉姐の脇で縮こまった。


いつの間にか夜になっていた街の中を、人力車が駆け抜ける。


列車から見た風景は田畑や川をひたすら速足で繰り返すだけだった。


しかし、ここではまるで祭りの様に色とりどりの灯りが目の前を通り過ぎていく。


この街は不夜城だ。

というより、昼より夜に眺めた方が、きらびやかで美しい。


一度見入ってしまうと、自分が蘇州の田舎から出てきた文無しであることも、素性の知れない女に付いて車に乗っていることも忘れて、目で追い続ける。


手を伸ばせば、目の前を過ぎていく星の様な灯りの一つくらいは、捕まえられそうな気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ