8/50
<8>
「はい」
私の名前から「華」が消えた。
緑旗袍の後について角を曲がった所で、私は大看板に目を奪われた。
きっと、あれが、電影院だ。
看板には、洋服を着た若い男の横顔が描かれていた。
田舎で観た越劇の役者なんかより、ずっと男前だ。
「年は幾つ?」
「え?」
「ボヤっとすんじゃない」
振り向いた緑旗袍の顔は険しい。
「あ、はい」
私は胸の包みを持ち直す。
「十五になります」
「十五?」
相手は検分する風に私の旋毛から爪先まで見て取ると、説得の口調で言った。
「十八には見えるわ」
初めて年より大人に見られた。
「あの、」
「何」
この人は不機嫌だと露骨に顔と声に出る。
「どうお呼びすれば」
小姐か、太太か。
年の頃は二十四、五に見えるが、どちらなのか分からない。
というより、どちらでもなさそうに思える。
「ああ、」
女は面倒そうに答えた。
「蓉姐、でいいわ」
蓉蓉が姐で、莉莉は妹という事らしい。
「分かりました」
「~姐」で「~姐さん・~姐御」、「~哥」で「~兄さん・~兄貴」という年上の人に対する呼称になります。