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猫じみた不思議な色の目が、私の解れたお下げ髪から垢じみた薄青の綿入れ、継ぎの当たったズボンに穴の空いた靴の爪先まで素早く見て取った。
「家出娘ね?」
大きな茶緑の目がにいっと細まる。
「あ、はい」
私は馬鹿の様に同じ返事を繰り返す。溝鼠にでもなった気がした。
「宿はどこ?」
相手は再び白芙蓉の刺繍に目を戻して問う。
「まだ、探してません」
「この辺りは木賃宿でも何やかやとぼったくられるし、」
白い指が巾を裏返して芙蓉の裏地を撫でる。
「一人旅の娘なんてうっかり変な宿に入ったら、無事に一晩明かせるかもんだか」
「あの、」
「ああ、ごめんね」
私が言い掛けると緑旗袍は、うっかり忘れていたといった風に巾を差し出した。
「じゃ、さよなら」
ふわりと蓮に似た香りが匂ったかと思うと、緑旗袍は背を向けて通りを歩き出した。
「あの、」
私は柔らかな香りを追い掛けた。
「何」
緑旗袍は踵だけ細く高い靴の足を止めて振り返る。
「お宅に泊めていただけませんか」
「うちは宿屋じゃないのよ」
緑旗袍はまた歩き出したが、先程より緩やかな歩調だ。
「それじゃ、お宅で使って下さい」
「家出娘なんでしょ?」
緑旗袍はまた振り返ると、悪戯っぽく小首を傾けた。
「ここは危ないから、おうちに帰んなさい」