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巡卒はそれだけ言うと、ヒビの入ったガラス戸の奥に消えた。
「おーい、何か見付かったか?」
「弾薬がありました」
翡翠緑の旗袍は暫くガラス戸の前に一人棒立ちになっていたが、急にペッと唾を吐いた。
「あれが一番いい柄のやつだったのに、手付金まで丸々ドブに捨てて…。」
女は猛然と身を翻す。
踵の高い靴音をカツカツ鳴らして、急速でこちらに近づいてくる。
私が右に退くか左に避けるか決める前に、思い切りぶつかって道の脇に撥ね飛ばされた。
「あいたた……」
落とした弾みにお針道具の包みが解けて、中身が散乱した。
裁ち鋏、糸切り鋏、縫い針、待ち針、刺繍糸、木綿糸。
私は砂埃を払うのも忘れて、手当たり次第に拾い集める。
鋏や糸の他には、今まで刺繍した巾。
金魚、青竹、白鶴、朱鷺、桃花、紅梅、緋牡丹、そして茉莉花。あと一枚……。
「芙蓉!」
一間離れた所に落ちていた巾に私が手を伸ばした瞬間、雪の様に白く細長い指を持つ手がふわりと代わりに拾い上げた。
「芙蓉」
翡翠緑の旗袍はそう言うと、拾い上げた巾の刺繍に目を凝らした。
「それ、」
返して下さい、と言いかけて私は口ごもる。
遠目にも何となく洋人じみた顔の女とは感じたが、間近に見ると、女はまるで猫目石の様な、茶色の勝った緑色の目をしていた。
と、その目がこちらに動いた。
「これ、あんたが作ったの?」
「あ、はい」
私は返してくれと言うのも忘れて、頷いた。