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「だからね、何度も言ってる様に……」
「あたしは今日が服の受け取り日だって聞いてるの! ここの主人がしょっぴかれようが知ったこっちゃないわ!」
背の恐ろしく高い、翡翠緑の旗袍を着た、抜ける様に肌の白い女が捲し立てている。
「あたしはあたしの服が欲しいの!」
「それ以上騒いだらね、小姐」
四十路とおぼしき巡卒は、慇懃だがひやりとした響きを含んだ口調で言った。
「あんたにも署までご同行を願うことになるよ」
言い終えると巡卒の腰の辺りで何かがカチャリと鳴った。
「ねえ、お巡りさん」
翡翠緑の旗袍は打って変わって、餌をねだる猫じみた声になった。
「中に入って服を取るくらい、いいでしょ?」
女が白玉じみた歯並びを見せ、流し目を送ると、耳飾りの真珠もちらりと揺れる。
「あんたの欲しがる様な物は端から無いさ」
巡卒は蚊でも追い払う風に手を振った。
「ここは仕立屋じゃなくて、下手人の隠れ家だったんだから」