表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
上海リリ  作者: 吾妻栄子
12/50

<12>

「ちょ……」


私は思わず口に手を当てたまま、固まった。

何なの、これ?


"Evening,Miss.Bai,"


私の驚きをよそに扉の外に進み出ながら、男は片手でひょいと帽子を取る。


洋服を着て洋人の言葉を口にはしているが、帽子を取った顔は、分厚い眼鏡の小柄な中国人の男だ。


"Evening,Mr.Ye,"


蓉姐も笑顔で私には分からない言葉を男に返す。


「新しいお女中ですか?」


男が目を蓉姐の襟足辺りに泳がせたまま今度は中国語で問う。


「何なら、僕がそんなのよりもっといいメイドを紹介しますよ」


男は飽くまで蓉姐に目を注いだまま顎で私を指し示すと、黄色い歯を見せて笑う。


そこで、私は初めて自分が話題にされていたのだと気付いた。


「親戚の子を引き取りましたのよ」


蓉姐の声と共に私は肩を押されて、開いた扉の向こうに入る。


「この通り女所帯ですから、私たち、女中は不要です」


蓉姐は笑顔でそう告げると、入ってきた扉の内側にあるボタンを押した。


また扉がゆっくり閉まって、黄色い歯を剥き出したまま固まっている男は姿を消した。


「ふん、身の程知らずのチビ鼠が!」


扉が閉まるが早いか、蓉姐は私の肩から手を引っ込めて、吐き捨てた。


「チビ鼠」って、また私のこと?


そうビクついた次の瞬間、床が持ち上がる様な感触が起きた。


「この部屋、どうなってるんです?」


泣きそうになるのを必死で堪える。


こんな、小さな箱みたいな部屋からいきなり人が出てきたり、床が急に持ち上がったり、もはや建物全体がお化け屋敷としか思えなかった。


「これはエレベーターよ」


真っ赤な唇に猫の様な目の女が振り向いた。


「こいつに乗ると、階段なしで昇り降りできるの」


急に、部屋全体がガタンと揺れて止まった。


「三階よ、降りましょう」


蓉姐の言葉を待ちかねた様に、扉がまたゆっくり開いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ