第9話
ノール村を出て三日目。
森を抜け、なだらかな丘陵地帯を歩いていた。
道は広くもなく狭くもなく、踏み固められてはいるが、使われすぎている様子もない。旅人にとっては、特筆することのない道だった。
レイは欠伸を噛み殺しながら歩いていた。
「……天気がいいと眠くなるなあ」
風が吹き、草が揺れる。青空が広がり、気持ちがいい。
次の瞬間。
ガタン、という鈍い音が地面に響いた。
音の方向を向いたレイの視界に、土煙が立ち上る。丘の向こうから、何かが転がり落ちてきた。
「……あ」
荷馬車の車輪が石に取られ、バランスを崩したらしい。馬が悲鳴を上げ、馬車は横倒しになる。
遅れて、人の叫び声が聞こえた。
「うわっ、大変だ……!」
レイは反射的に走り出していた。
丘を回り込むと、荷馬車の脇で男が倒れており、
馬は暴れ、積荷が散乱し、その隙を縫うように動く影を見つける。
災度Ⅰ、獣に近い魔物が三体が見計らったように近づいてきた。
「……タイミング悪いなあ」
レイは距離を測る。男は不意の事故に混乱しているのか、逃げる事が出来ないようだ。
選択肢は少ない。
レイは大きく腕を振り、地面に石を叩きつけた。
乾いた音が響き渡り、魔物の視線が一斉に向く。
「こっちだよー」
逃げる“素振り”だけを見せる。
二体が反応した。もう一体は、倒れた男に向かおうとした。
レイは舌打ちし、馬の前脚を狙って石を投げる。
馬が暴れ、魔物が弾き飛ばされる。
「隠れて!」
男が必死に転がり、荷馬車の陰へ入る。
残った魔物は混乱し、動きが雑になる。そこを狙って、レイは斜面を使って距離を取り、視界から外れる。
数分後。
魔物は興味を失い、丘の向こうへ去っていった。
レイは息を整え、倒れている男の元へ戻る。
「……生きてる?」
「……ああ。助かった」
男は苦笑しながら起き上がる。三十前後、日焼けした顔。服は地味だが、道具の扱いが慣れている。
「偶然通りかかっただけだから、気にしないで」
「偶然にしちゃ、判断が早すぎるだろ」
レイは肩をすくめる。
「運が良かっただけだよ」
男は名を名乗った。
「エルドだ。行商みたいなことしてる。この大陸をぐるっとな」
その言葉に、レイは「へぇ」と相槌を打った。
(って事は色々知ってそうだね)
「俺はレイだよ。旅人だけど旅立ったばかりなんだ」
荷馬車を起こしながら、エルドは続ける。
「そうなのか。因みにこの辺は理の国の境目だ。道は最低限整ってるが、助けは来ない」
「さっきのも、誰も見てなきゃ死んでた」
事実だったが、レイは何も言わなかった。
日が傾き始めた。
「……なあ」
エルドが言う。
「しばらく一緒に行かないか。礼もしたいし、道案内もできる」
レイは少し考え、笑った。
「いいよ。俺も世界情勢とか疎いから色々教えて欲しいな」
理由は、それで十分だ。情報を持つ人間が、偶然手に入った。それに2人になれば、いろんな場面で選択肢が増える。
そんな状況にレイは内心ほくそ笑んだ。
旅は、静かに次の局面へ進んでいく。
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