表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盤上最強は剣を持たない  作者: sorerunoa
旅は道連れ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/40

第8話

朝霧がノール村を包み込んでいた。

夜通し焚かれていた火の匂いが、まだ空気の中に残っている。湿った土と木の香りが混ざり合い、村は静かに目を覚ましつつあった。


レイは荷物を背負い、村の外れに立っていた。

中身は少なく、着替えが一組、乾いたパン、簡単な道具、それだけだった。この村で過ごした日々を思えば拍子抜けするほど軽いが、不要なものは持たないと決めていた。


橋のほうを見ると補修された板はきっちりとはめ直され、川は穏やかに流れている。森も静かだ。逐影が主だったのだろう。当分は村を脅かす存在はいない。


「……ほんとに行くんだな」


声をかけてきたのは、見張り役をしていた男だった。逐影撃退の際、一番顔色を失いながらも、最後まで槍を離さなかった男だ。


「うん。ちょっと、旅してみたくなってさ」


レイは軽く言う。深刻さはないように言葉を発した。


「村は落ち着いたし、俺なんかいなくても回るでしょ。みんなもう大丈夫だよ」


男は霧の向こうの村を見て、短く息を吐いた。


「理由は……聞かねえほうがいいか」


「言ったでしょ?旅がしたくなったんだって」


レイはいつもの、少し力の抜けた笑い方をした。


男は本心は違うだろうなと薄々感じていたが、口にはしなかった。


村の入り口には、いつの間にか人が集まっていた。子ども、年寄り、あの夜に火を掲げて立っていた若者たち。誰かが呼んだわけじゃなく、ただ、気づけば集まっていた。


「レイ兄ちゃん、どこ行くの?」


子どもの声に、レイは少しだけ考える。


「少し旅行に行ってくるだけだよ。」


「帰ってくる?」


「もちろん。ちゃんと帰ってくるよ」


子どもが良かったと笑い、空気が和らぐ。それでいい、とレイは思った。


村長が一歩前に出る。


「この村は救われた。レイのおかげだ。だが、お前がここに縛られる理由にはならない」


「うん。まあ、世界を見て、知識を持って帰ってくるよ」


レイは深く頭を下げないが、代わりに軽く会釈する。それが彼なりの別れ方だった。


森へ続く小道に足を踏み入れる。背後に気配を感じたが、引き止める声はなかった。


旅をしたくなったというのは建前だ。


本当は、確かめなければならないことがある。


思い出してしまったからだ。自分の過去にケジメをつけにいく。


それに前世の世界と、今の世界が、どこまで同じで、どこからズレているのか。

それを知らずに、戦いに戻ることはできない。


レイは霧の向こうを見つめ、小さく息を吐く。


「……まあ、ついでに旅ってことでいいよね」


軽口とは裏腹に、足取りは迷っていなかった。


ノール村の朝霧が晴れる頃、少年の姿は、森の奥へと溶けていく。建前は気ままな旅人。本音は、確かめに行く者。


1人の少年は、世界を見に行く。

読んで頂き、ありがとうございます。

少しでもいいなと思って頂けたら★やフォローお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ