第7話
翌日の夕方、レイは全員を集めた。
「じゃ、今夜の話ね」
気楽な声だが、目は真剣だ。
「逐影ってさ、喧嘩弱いくせに追いかけるのだけは得意なんだ。追いかけて背後から仕留めるって感じ」
「だから逆にする」
地面に指で円を描く。
「村の中央に大きな焚火を焚く。全員、焚火のそばから離れずに逐影と対面する形で待機」
「武器は持ってていいよ。使うかどうかは、俺が決める」
不安そうな声。
「……それで襲ってきたら?」
「それはね、あっちが相当テンパってるってこと。逃げない獲物に突っ込む時点で、逐影はもう間違えてる。あいつはね、追いかけられるのは苦手なんだ」
ニヤリと背筋がゾッとするような笑みを皆へ向ける。
夜。
森の奥で気配が動く。逐影は近づくが、村は静かだ。
レイが小声で言う。
「今、めっちゃ見られてる」
「誰がビビるか」
「俺はやらかさねーぞ」
「やらかした人が最初に食われるよ」
誰かが息を呑む。
「冗談だよ。…半分は」
しばらく睨み合いが続いた。
「やっぱり対峙してると動かない、いや動けないみたいだね。たぶんもう少しで向こうが我慢出来なくなると思うから、みんなこのまま動かないでね!」
レイの声に村人達は静かに頷く。
北側で音がした。逐影が睨めっこに痺れを切らしてきたのだろう。
レイの指示が飛ぶ。
「動いたね。さて、サクッと罠にかけちゃおう。今から一回だけ逃げるふりをするけど、走らない、外に出ないように」
「北側の人、合図したら大げさに一歩だけ下がってね。逐影は、一番派手に動いたとこしか見ないから雑で助かるよ、ほんと」
逐影がじりじりとにじり寄る気配が近づいてくる。それを感じてか、村人たちの額に汗が滲み出る。
「今!」
合図。
北側の村人が、一斉に一歩下がる。
逐影は誤認した。
逃げた。
逐影の足が地面に沈み込む程のスピードで迫りくる。そして柵を越えた。
「はい、来た!」
即座に叫ぶ。
「火、消して!」
数人がかりで準備していたバケツの水を焚火へぶっかける。
あたりが真っ暗になり、数メートル先しか見えなくなった。
全力疾走してきた逐影の動きが止まる。逃げるはずの人間が誰も走っていない事に気づいた。
その瞬間、レイが誰にも聞こえないように呟く。
「アポリシス(魔力解放)、オプタシア(透視)」
レイの視界が回復する。今なら森の奥深くまで見渡せる。逐影が止まったその隙を見逃さなかった。
「網、お願い!」
着地地点付近に待機していた網班が油を含ませ重くした網を逐影に投げる。
「はい、明かりつけて!」
各々松明に火をつけて辺りが明るくなった。ヤツの姿が露わになる。
ジタバタと網から脱しようと暴れているが、油が絡みついて滑り、簡単には抜け出せない。
「じゃ仕留めちゃおうかー。持ってる武器で攻撃していいよ!喉、柔らかいからね!」
村人の剣、槍等の武器が次々に突き刺さる。
「グエェエオウエェ!!」
痛みからか、怒りからか、逐影は初めて声を上げた。段々と動きが無くなってくる。
やがて1人の村人が核を貫いた。
逐影はビクンッと体をうねらせ動かなくなった。
「悪いね。追いかけっこはここまでだよ」
沈黙のあと、誰かが言う。
「……勝った?」
「うん、勝ち」
レイは動かなくなった逐影に目をやりながら言った。
「逐影は逃げる人しか狩れないから、逃げなきゃ勝てる。だから強かったわけじゃないよ。対処法を知らないと厄介だから災度Ⅱの上位ランクってだけ」
そう言って笑う。
火が揺れる。
逐影は、もう動かない。
「アキネーシア(魔力封印)」
レイは静かに唱える。
ノール村は、生き残った。




