表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盤上最強は剣を持たない  作者: sorerunoa
リトアにて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/40

第40話

石畳が弾け、黒い瘴気が噴き上がる。

広場の中央に穿たれた穴は、まるで大地の傷口だった。そこから伸びる“腕”は、腕というより影そのもの。輪郭が定まらず、しかし質量だけはある。掴まれた石像が、粉々に砕けた。


「きゃああああッ!」


悲鳴が四方に散る。レイが即座に叫ぶ。


「セイン、右側の避難誘導! エルド、結界で被害範囲を限定!」


「任せろ」


セインが剣を抜き、群衆の間に飛び込む。


「広場から離れろ! 建物の陰に入れ!」


混乱する人々の前に立ち、迫る影腕を一閃。


火花のような黒い粒子が散る。


「……硬いな!」


金属を斬った感触ではない。斬撃が“吸われる”。

エルドは既に詠唱に入っていた。


「結界魔法第三層《六界壁》」


六角形の光壁が展開し、広場中央を囲む。

影腕が叩きつけられ、火花のような魔力が弾ける。


「災度Ⅱだが質が悪い! 実体と霊体の中間だ!」


レイが穴の縁へ駆け寄る。覗き込んだ瞬間、背筋が冷える。


「なんだあれ、核が深い」


穴の奥、闇の中に、脈打つ“球体”がある。心臓のように、どくり、どくりと。その鼓動に合わせ、影が増殖している。


「放置すると災度Ⅲに上がるよ!」


セインが影腕に掴まれかけ、体勢を崩す。


「ちっ!」


すかさず、レイの詠唱が走る。


「攻撃魔法第四層《光断剣》」


光刃が影腕を断ち切る。影は悲鳴のような音を立て、霧散するが地面からさらに三本。


「増えてやがる!」


エルドが分析する。


「核が魔力を吸収している! 人の恐怖も糧にしているな!」


レイの目が鋭くなる。


「なら、短期決戦だね」


セインに視線を送る。


「俺が道を作る。核を叩くよ」


セインは一瞬で理解した。


「時間は?」


「三十秒」


「十分だ」


セインが踏み込む。足元の石畳が割れる。


「《断罪・黒月》!」


闇を纏った剣撃が、影腕をまとめて薙ぎ払う。広場に黒と白の閃光が交差する。エルドが両手を広げる。


「補助魔法第二層《刻緩》」


時間減速の補助術式。影の動きが、わずかに鈍る。


「今だ、レイ!」


レイは穴へ飛び込んだ。闇の中、圧力が増す。

耳鳴り。視界が歪む。核が、こちらを“見る”。

そして、脳裏に囁きが走る。


救うのか? 切り捨てるのか?

一瞬、前世の記憶が重なる。

三千か、十万か。

レイは歯を食いしばる。


「違う」


掌に魔力を集中。


「犠牲前提じゃない。全部救うんだ」


核が影の槍を放つ。


レイは回避せず、真正面から受け止める。


「防御魔法第三層《転理》」


光と闇を反転させる。


影槍が光へと変換され、核へ跳ね返る。


核が軋む。


「まだ足りない……!」


上から、セインの声。


「レイ!」


次の瞬間、セインが穴へ飛び込む。


「一人でやるな!本気を出せないなら私たちを頼れ」


背中合わせになる。エルドの声が響く。


「二人の魔力を同期させろ!」


レイが即座に理解する。


「セイン、剣を貸して!」


「あぁ!」


レイは剣に触れ、魔力を流す。闇属性の刃に、光を重ねる。


「行くよ」


核が脈動を加速させる。影が暴走する。地上では結界が軋み始めている。


「《冥光断》」


光と闇の交差。二人の力が一点に収束。核へ突き刺さる。

閃光。

轟音。

一瞬、世界が白く染まった。


崩れ落ちる影。

脈動が止まる。穴の奥で、黒い球体がひび割れ、砕け散った。レイとセインは同時に地上へ跳び上がる。エルドが結界を解除。広場に、風が戻る。


静寂の後、歓声が上がった。


「助かった……!」


「魔物が消えたぞ!」


母親が子どもを抱きしめる。商人が涙を拭う。

セインは肩で息をしながら言う。


「今のは上出来だな」


レイは空を見上げる。


「うん。でもまた少し目立っちゃったかも」


誰も死んでいない。その事実が、胸に重く、そして温かく残る。

拍手の中、ゆっくりと人垣が割れた。豪奢な衣を纏った男が現れる。背後に武装兵。鋭い目。


「見事だ」


低く、通る声。


「私はこのリトアを治める行政監、ヴァルディスだ」


エルドが小さく舌打ちする。


「面倒になりそうだな」


ヴァルディスはレイをじっと見る。


「その術式……見慣れぬ構造だ。どこの学院の出身だ?」


レイは一瞬だけ迷う。エルドが自然に前へ出る。


「流浪の魔術師だ。所属はない」


ヴァルディスの目が細まる。


「所属がない? それほどの力で?」


周囲の兵がわずかに警戒を強める。ヴァルディスは微笑む。だが目は笑っていない。


「興味深い。是非、詳しく話を聞きたい」


セインが小声で言う。


「目付けられたな」


レイは小さく息を吐く。


「何もしないよりは良かったと思ってる。後悔してたんじゃ意味ないし」


「それは否定しない」


セインがため息を吐きながら、レイから受け取った魔剣を腰に差す。

ヴァルディスが続ける。


「今夜、館に招待しよう。断る理由はないはずだ」


遠くで鐘が鳴る。街は救われた。

だが、新しい“歪み”が、静かに三人を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ