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盤上最強は剣を持たない  作者: sorerunoa
理の国の終幕

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35/40

第35話

食事を終える頃には、部屋の空気も少しだけ軽くなっていた。重苦しさが消えたわけじゃない。ただ、前へ進むしかないと全員が理解しただけだ。


レイはゆっくりと立ち上がる。まだ体の奥に鈍い重さは残っている。それでも昨夜よりは、確かに動ける。


「……よし」


短い一言。それが出発の合図になった。


セインはすでに荷を整えている。無駄のない動き。エルドはというと、いつの間にか包みをもう一つ増やしていた。


「非常食、水。あと換金しやすい小物。旅は準備が八割だ」


「商人って本当に抜け目ないよね」


「褒め言葉として受け取っておく」


軽口を交わしながら、三人は部屋を出た。


宿の外に出た瞬間、空気の違いがはっきりと分かる。均一化の下では感じなかった、生きている街の匂いがあった。


焼けた鉄の匂い。

湿った石畳。

遠くで泣く赤子の声。

誰かが怒鳴り、誰かが祈り、誰かが笑っている。


レイは立ち止まり、街を見渡す。


「なんか意外だね」


「何がだ」


「もっと混乱してると思った」


確かに不安はある。だが暴動は起きていない。

人々は戸惑いながらも、自分で考えて動こうとしている。


セインが低く言う。


「均一化に従っていただけで、思考まで失っていたわけではない」


エルドが肩をすくめる。


「むしろ商売的にはチャンスだな。“自分で選ぶ”ってのは金が動く」


「そこに行き着くのすごいよね」


「生き方の問題だ。商人としてのな」


三人は歩き出す。


中央区へ近づくにつれ、街の変化はよりはっきりしていく。掲示板の前に人だかり。役人たちの慌ただしい往来。祈るように塔を見上げる老人。


そのどれもが絶望などでは無く、前を向こうという姿勢が感じられた。


レイはぽつりと呟く。


「よかった。俺のした事は間違いじゃなかったって思える」


セインは肯定する。


「ああ。終わったのは仕組みだけだ。ここにいる人間は、まだ生きている」


レイは小さく笑った。


「うん。それなら、きっと大丈夫だ」


少し間をおいて、セインが口を開いた


「1つだけ気掛かりな事がある。あの白ローブの男がいなくなった今、上層部はどうなると思う?縋ってたものが無くなったわけだが…」


セインの問いにレイは少し思考を巡らせてから答える。


「…たぶん、上層部のお偉いさん方の記憶を弄られてると思うから、あの男の存在が無かった事になってるかもしれない。あいつが使っていた魔法は俺と似た様なものだからね。足跡を残す様な事はしないと思うよ」


「なるほどな。その辺も含めて、今夜あたりに話を聞かせてくれ」


話を一度終わらせて、少し先を歩いていたエルドに追いつく。やがて、都市外縁の門が見えてくる。厚い石壁。長く閉ざされてきた外への道。


だが今日は違う。門は開いていた。

検問はある。

混乱もある。

それでも人の流れは止まっていない。


外へ出る者。

中へ入る者。

迷いながらも、世界は動き始めている。


門の前で、三人は足を止めた。振り返れば、アークレインの街並み。均一ではない光に包まれた都市。レイは静かに目を細める。


「これで、良かった」


誰に向けた言葉でもない。セインが答える。


「ああ」


エルドも続く。


「少なくとも、止まってるよりはな」


短い沈黙。そして。


レイは前を向いた。


「行こう。次はヴァルガルドへ」


武の国。そして、まだ見ぬ歪みが眠る場所。


セインは無言で頷き、エルドは口笛を吹く。


三人は同時に一歩を踏み出した。


アークレインの空は、新しい一日が始まっていた。そして物語は、次の国へ進む。


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