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盤上最強は剣を持たない  作者: sorerunoa
迫り来る真相

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第29話

中央区画の夜は、異様なほど静かだった。

本来ならば巡回兵の足音や、酒場の灯りが残る時間。だが今は違う。石畳の通りには人影がなく、窓という窓が閉ざされている。


意図的に空けられた空白。その中心に、レイは立っていた。胸の奥に残る違和感。

宿を出る前から感じていた、微かな魔力のざわめき。導かれるように歩き、気付けばここにいた。


「んー誘導された感じかな」


呟いた瞬間。背後で、靴音が止まった。


「よく気付きましたね。旅の少年レイくん」


振り返る。月光の下に立つのは、純白のローブを纏った男だった。柔和な笑み。だがその周囲だけ、空気が澄みすぎている。魔力の乱流が一切ない。完全制御の証だ。レイの指先がわずかに強張った。


「中央区画を封鎖、いや、ここって現実世界じゃないね」


「被害を最小限にする合理的判断ですよ。君も、それは嫌なんじゃないんですか?」


肯定も否定もしない。代わりにレイは問う。


「それで、あなたはどこの誰で目的はなんなのかな?」


リードは少しだけ考える素振りを見せ、そして淡々と答えた。


「そうですね。身の上は教えられませんが、目的としては不変の世界を目指して活動しています」


「不変の世界ねえ。じゃアークレインで何してるの?」


偶然、友人と遭遇したかのような感じで問いかける。男は微笑を浮かべ、諭すかのように言った。


「ここは始まりです。ここが不変の世界への第一歩となります。その準備ですよ。それにはレイくん。あなたのその都市魔道へ干渉したチカラがあれば、大きく近づくことができます。何卒、ご協力を願いたいのです」


「それは無理かな。今のアークレインのやり方はこのままいけば、国民を洗脳する事になるよね?」


空気が一段階重くなる。男から少しだけ魔力が漏れた。


「なるほど。それをわかっていますか。やはりただの少年ではないようですね。この都市魔道の仕組みを完全に理解していないと辿りつかいない答えです」


交渉は成立しない。男から禍々しい魔力が放たれる。レイは静かに息を吸った。


「魔力解放……」


右手に魔力が集束する。青白い粒子が螺旋を描き、掌に陣を刻む。


「攻撃魔法第三層。流転する蒼よ、刃となれ《水斬波》」


水刃が生成される。圧縮密度、通常の三倍。

得体の知れない相手に、エクリプス・アルカナムを使うわけにはいかない。


「やはり魔法使えますか。セインの報告は嘘でしたね。」


そしてリードの足元に赤黒い魔法陣が展開した。

詠唱は、ない。無詠唱高位術式。その事実だけで、かなりの強敵だとわかる。


先に動いたのはレイ。踏み込みと同時に水刃を射出。だが直前で軌道を三分岐させる変則制御。


「なかなか厄介ですね。小手調べではなく

、本気でいきましょう。マグリナ・ディセクタ(悪性解剖)」


リードが指を軽く振る。瞬間、空間に見えない壁が発生。水刃は触れた瞬間、霧散した。防御ではない。術式分解か。


「基礎理論は悪くないですが、粗いですね。あまり魔法を使い慣れていないような感覚ですね。フラクチャ(原理爆散)」


次の瞬間。視界が白に染まった。レイは咄嗟に地面を蹴る。爆風が背を掠め、石畳が蒸発した。


転がりながら体勢を立て直す。呼吸が乱れる。


(あれは理から外れし魔法だね……やっぱりバックには……)


エクリプス・アルカナムを使わなければ厳しい相手なのはわかった。あの魔法も規格外だ。だがこちらの手の内を向こうに知られるわけにはいかない。それでも退く選択肢はない。

再び詠唱に入ろうとしたその時、黒い斬撃が夜を断ち切った。轟音と共に男が現れる。

短めの金髪に薄く色のついたサングラス。


「……セイン。どうやってここに」


レイの声が漏れる。振り向かないまま、セインは言った。


「下がっていろ。おしゃべりは後だ。それに事情は大体わかる。アレ(エクリプス・アルカナム)を使うわけにはいかないのだろう?」


その言葉に、反論できない。リードが目を細める。


「まだ折れていなかったようですね。元、理の国最強さん」


「……元か。それを知っていると言うことはお前が黒幕か」


セインは静かに剣を抜く。かなり刀身が長い。

刃から滲むのは、闇のように重い魔力。魔剣の類いだろう。


位相昇華フェイズ・アセンション。黒滅刃」


黒霧が溢れ、空間の光を喰う。空気が震えた。刀身から黒い波が放たれ、辺りを覆い尽くした。演習場の時とは桁が違う。レイは初めて理解する。この男が、本気で戦う領域を。


「面白いじゃないですかセイン!《スリッド》(分解線)」


「《冥断絶》」


赤黒い衝撃波と黒い斬撃がぶつかり合う。爆発音が鳴り響き、空気を揺らす様な衝撃が体に伝わる。そんなこともお構いなしに、2人は地面を蹴った。

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