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盤上最強は剣を持たない  作者: sorerunoa
迫り来る真相

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第28話

アークレイン中央塔の最上層。

都市全域を見下ろす位置に存在するこの階層は、国家における意思決定の中枢であり、同時に“不要を切り捨てる刃”でもあった。


先ほどの戦闘のダメージがある程度回復したセインは報告の為、こちらに訪れていた。

重厚な扉が、低く鈍い音を立てて開閉する。

外界の気配は完全に遮断され、室内には息苦しいほどの静寂だけが満ちた。


並ぶのは三名の重鎮達。年齢も風貌も異なるが、表情には共通点がある。感情が存在しないように見える。彼らの視線の先に立つのは、ただ一人、理の国最強戦力を担う魔導士だった。


「報告を開始しろ」


命令は短い。だが拒絶も遅延も許されない、絶対の重みを帯びている。セインは一礼し、顔を上げた。その瞳からは、戦闘の余韻と疲労を無理矢理消す。ここにいるのは騎士ではない。

国家の駒として最適化された報告者だけだった。


「監視対象の少年レイとの接触任務について報告します」


わずかな間。誰も言葉を挟まない。沈黙そのものが、続きを促していた。


「結論から述べろ。過程は不要だ」


中央男が淡々と告げる。


「任務は達成。対象の戦闘能力を測定し、最終的に制圧に成功しました」


室内の空気は微動だにしない。勝利という言葉ですら、この場所では価値を持たない。重要なのはただ一つ、利用可能か否か。


「君からの少年に対する能力評価はどの程度だ?」


右の男が事務的に問う。


「近接戦闘を得意とし、高度な戦術適応力を確認。同年代の基準を大きく上回り、単独戦力として上位級に相当します」


淡々とした報告。そこに主観は含まれない。含める必要もない。レイとの約束もある。だからと言って弱いという報告は出来ない。


「ただし、国家脅威級には該当しません」


その一言で、結論の大半は決まった。左の男が静かに続ける。


「敵対性の有無はどうだ?」


「明確な敵意は確認されず。むしろ交戦時においても、都市被害の抑制を優先する行動傾向が見られました」


「つまり……」


「管理可能な範囲の戦力と判断します」


「ならば監視対象のまま維持。排除の必要性は認めない」


それだけで決定だった。レイという存在は、この瞬間、国家的脅威ではない“個人事案”へと格下げされた。それでいい。こちらから何か仕掛けようものなら、痛い目を見るのはアークレインだろう。


報告以上だったが、審議は終わらない。中央の男の視線が、ゆっくりとセインへ向く。


「次の議題に移行する。セイン」


「……は」


「お前の任務は終了した」


その言葉は静かだった。だが、逃げ場はない。セインの呼吸が、ほんのわずかだけ止まる。それでも姿勢は崩れない。


「再配置命令、という理解でよろしいでしょうか」


「違う。実質、測定任務は単発運用だ。これ以上の継続配備の合理性は認められない」


右の男も続く。


「それに、国家的脅威ではないのであれば、代替戦力で十分に充足可能だ。付け足すと、君の魔力に結晶柱が耐えられていない。これは均一化を乱しかねないのだ」


数秒の静寂。


その意味を、セインは正確に理解した。これは降格ではない。左遷でもない。静かな切り捨てだ。


「……承知いたしました」


声は揺れない。感情も滲まない。それが、この国で生き延びるための唯一の作法だった。中央の評議官が淡々と告げる。


「安心しろ。現時点で処分は行わない」





セインが退室し、扉が閉じる音だけがやけに重く響いた。再び静寂に包まれた部屋で、右の男が低く呟く。


「対象レイは、本当に脅威ではないのか?」


中央の男は机上の書類へ視線を落としたまま答える。


「報告の通りだ。それよりもセインを残しておく方が我々にとって害になりかねん。そうですよね?リード殿」


「はい。その通りです。我々の計画を進めて行く上で彼の様な強者は邪魔になります」


どこからともなく、純白のローブを纏った男が笑みを浮かべながら現れる。


「彼は今のアークレインの在り方に少なからず疑問を抱いている様でしたから。この辺りが潮時でしょう」


頷きながらリードは腕組みをする。疑問を抱いてる時点でアークレインにとっては膿だ。そして、次は例の少年だ。


「今、目先の問題は旅人の少年ですね。仲間の商人は目立った様子はないですし、放っておいて問題ないでしょう」


「ですが、セインの報告を聞く限り少年も泳がせておいてもいい気がしますが?」


右の男が顎を摩りながら唸る。他の2人も同じ意見だと言うように頷いた。


「私はそもそも彼を信用していません。少年に関しては自分の目で確かめますよ。皆さんはとりあえず待機でお願いします」


そう言い残すと、リードは音もなく姿を消した。




中央塔の外。

夜風が、静かに吹いている。セインは足を止め、

ゆっくりと空を見上げた。胸の奥にあるのは怒りではない。悔恨でもない。ただ一つの、乾いた事実。


「役目は終わりか」


小さな独白は、誰にも届かない。脳裏に浮かぶのは、白い隔離空間の中で、どこか楽しげに笑っていた少年の姿。


「負けたのは、いつぶりだろうか」


やがてセインは歩き出す。アークレインの魔導士としてではなく、一人の人間として。


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