第27話
白い空間が、静かにほどけていく。砕けた硝子のように崩れた隔離世界は、音もなく消え、レイとセインの姿は再び石畳の円形広場へ戻っていた。
風が吹く。現実の空気は、ひどく軽かった。まるで先ほどの激突そのものが、世界にとって存在しなかったかのように。
沈黙が流れる。セインは仰向けに倒れたまま、動かなかった。いや、動けなかった。それほどまでに、今の戦闘の反動が酷かった。理解が追いついていない。
ゆっくりと顔を上げる。視線の先。そこには何事もなかったように立つ少年。
「……ひとつ、確認したい」
声はかすれていた。だが、震えてはいない。
「お前は……人間なのか」
レイは少しだけ目を細めた。
「一応人間だよ。セインとなんら変わらない」
軽く頭を掻く。
「ただ、俺が少し異質な存在なのは認めるよ」
冗談のような口調。でもレイの目は真剣そのものだった。
遅れて、エルドが駆け寄ってくる。
「まったく。無茶苦茶だな、お前ら」
苦笑している。だが目は笑っていない。
「街一つ吹き飛ばしかねない戦いを、あんな平然とやるな」
レイは肩をすくめた。
「吹き飛ばさないために空間を切り離したんだけどね」
「そういう問題じゃない。セインはまだしも、レイのような少年があのレベルで戦えると知られれば、良くも悪くも目を付けられるぞ」
そこは最悪、記憶を抹消すれば良いかなと思うレイであった。正直、チカラを隠しながら行動するのは神経がすり減る。隠せてるか微妙なところではあるが。
エルドは、静かに続ける。
「それで?」
「ん?」
「何者なんだ、お前は」
空気が止まる。これは詰問じゃない。逃げ場もない。仲間としても、また、止まることのない興味から聞いている声だった。
レイは空を見上げた。少しだけ遠い目をする。
「昔の知識を、少し持ってる。って言えばわかるかな?この世界の仕組みも、魔法の本質も、……そして、壊れ方も」
静かな声だった。セインの瞳が揺れる。
「まさか。前世持ち、転生者か」
「やっぱりセインは知ってるね。」
否定はしない。
「でも安心してよ。世界を壊す気はない。むしろ逆で、過ちを繰り返さない為に旅に出たんだ」
重い空気にはならなかった。レイの決意が確かなものだったからだ。そこに陰りは存在していなかった。
セインが口を開く。
「前世がどこの誰で何をしていた等は聞かない。だが、今の戦闘に関しては上に報告させてもらうぞ。これも仕事だからな」
「それは構わないよ。セインも色々と事情があるだろうしね。でも《エクリプス・アルカナム》に関しては内緒にしてくれるとありがたいんだけど?」
レイとしては、自分の前世が特定されてしまう事は極力避けたい。面倒な事に巻き込まれない為とこの魔法の存在が公になってしまうとマズイ事になる可能性があるからだ。
「安心してくれ。それは伏せて報告しよう。言ったところで上の連中は信じないし、隠蔽されるのがオチだ。それに報告しようとしても、何か対策があるのだろう?」
バレてたか。確かに、あの魔法は正直なんでもアリだ。いくらでもやりようはある。
「さあね。でもそれを聞いて安心したよ」
肯定はしなかったが、どうせわかってるだろうと思ったレイは頭の後ろで手を組んで適当に返事をした。
その後、セイン別れ、演習場を後にしたレイとエルドはアークレインの綺麗に整えられた街並みを見ながら宿屋へ向かった。宿屋へ着くとエルドからの質問責めにあったのは言うまでもない。
また空間を切り離し、エルドにはセインに話した事以上の事伝え、他言無用の約束をした。
正直なところ、レイは自分の境遇を知る人物が出来た事に嬉しさを感じていた。




