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盤上最強は剣を持たない  作者: sorerunoa
迫り来る真相

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第26話

第二波の魔物が消滅してから、街は不自然なほど早く落ち着きを取り戻した。結晶柱の光は安定し、巡回兵が規則正しく配置につく。

まるで、最初から混乱など存在しなかったかのように。レイは、その“回復速度”に違和感を覚えていた。


(早すぎる。いや、混乱そのものを消したのかな)


そんな中、彼とエルドは中央区画の外れへと案内された。石畳の円形広場。四方に配置された結晶柱は、装飾ではない。魔力演算用、戦闘用の補助結晶だ。


「事情聴取って聞いたけどさ」


レイは周囲を見回し、肩をすくめた。


「これ、どう見ても演習場だよね」


エルドは一歩遅れて状況を確認し、低く息を吐く。


「……アークレイン式だな。言葉より、数値を信じる」


正面に立つ男セインは、すでに臨戦態勢だった。

魔力の流れは乱れがなく、都市魔導と完全に同期している。


「上層部の判断だ」


セインは前置きなく告げる。


「君は都市魔導に干渉した。意図的か、偶発か。

そして、どの程度まで可能なのかを確認する」


「確認方法が、これ?」


「最も効率的だ」


淡々とした声。だが、その奥にあるのは個人的興味も隠しきれていないようだ。


「拒否権はある?」


レイの問いに、セインは即答した。


「ある。だが拒否した場合、君は“制御不能の外部要因”として拘束対象になる。同行者も同様だ」


エルドの表情が険しくなる。空気が、重い。セインは構えを崩さない。だが、全神経はすでにレイ一人に向けられていた。


(測定対象。だが、測れる気がしない)


そんな感覚を、即座に切り捨てる。


「開始する」


短い宣言。同時に、魔力が爆発的に立ち上がった。


「理を定義。因果を固定。観測座標、完全同期」


詠唱と同時に、結晶柱が共鳴する。地面に刻まれた魔法陣が重なり合い、空間そのものが“戦場”として再構築される。


「攻撃魔法第六層」


セインが踏み込んだ。


「《理槍・連式》!」


光が弾ける。一本ではない。無数の“槍”が、角度と速度を変えながら一斉に射出される。避け場はない。逃げ道もない。当たる前提の魔法。


だが。


「アポリシス(魔力解放)。エクリプス・アルカナム(歴史から抹消されし魔法)」


レイは静かに告げる。


「ネメシス(乖離)」


瞬間、世界が“引き延ばされた”。


光の槍が、確かに迫っている。

だが、そこにあるはずの「必中」という概念が、抜け落ちる。槍はレイのすぐ脇を通り抜け、

彼の影すら掠めず、背後の結晶柱に突き刺さった。否、突き刺さる前に消えた。


「……命中判定が、消失した?」


セインの脳裏を、ありえない予測がよぎる。


(避けた?いや、違う。当たらなかったのではない。“当たらない事にされた”?まさか……あの魔法はっ!?)


「次」


レイが地面を蹴った。足音は一つ。だが、セインの視界には、三方向から同時に迫ってくるように映った。


「空間補正、最大!」


セインは即座に対応する。


「迎撃!防御魔法第五層《理盾・展開》!」


透明な防壁が、幾重にも展開される。

だが、


「モイラ(失効)」


短い言葉。


次の瞬間、防壁が“割れた”のではなく、

防ぐという役割を失った。


レイの拳が、防壁をすり抜ける。

衝撃が、セインの腹部に叩き込まれた。


「ぐっ!」


後退。石畳を削りながら、十数メートル滑る。


(防御が……成立していない?)


セインは即座に体勢を立て直す。


(いや、成立している。だが、その“前提”を壊されている)


レイは追わない。その場で、指を鳴らす。


「タナトス(死解)」


空気が、沈む。


次の瞬間、セインの周囲だけ、魔力の循環が極端に鈍った。呼吸が重くなる。身体が、言うことを聞かない。


(死……?いや、これは“終わり”の概念を重ねている?)


「なるほど……やはり概念魔法……歴史から抹消されし魔法か!」


セインが口元を歪める。


「へぇ。知ってるとはね。さすがと言ったところか。じゃもう少し面白いモノ見せてやるよ」


セインが危険を悟り、急速に魔力を引き上げる。


「都市魔導、出力制限解除。観測優先度を私に集中させろ」


結晶柱が悲鳴を上げる。だが、構わない。


「攻撃魔法第七層」


セインは、全力で詠唱する。


「《理裁・多重指定》!」


空が裂ける。光が降り注ぐ。複数の“裁定”が、同時にレイを捉える。存在を、意味を、位置を。

まとめて切り捨てる魔法。


レイは、深く息を吸った。


「アナンケ(静寂)」


次の瞬間。降り注ぐ光が、止まった。いや、止まったのではない。「必然として、起きなかったことになった」裁定は、成立する前に消滅する。セインは、その光景を、はっきりと見た。


(……負けだ)


膝が、自然と落ちる。都市魔導が、これ以上の演算を拒否した。結晶柱の光が、限界を知らせるように明滅する。


レイは、面白くなさそうに言った。


「セイン。本気出せてないな?いくら都市魔導にセインの魔力を登録していても出力に限界がある。本気出したら結晶柱が耐えられないんだろ?」


セインが硬い表情で頷く。


「やはりな。そういう事なら第二ラウンドと行こうか。ケノス・オリゾン(空間隔離)」


ガラスが割れたような轟音が鳴り響いた。セインが当たりを見渡すと真っ白な空間がどこまでも続いていた。


「何をした?」


レイに問う。


「現実世界と切り離した。ここは俺が作り出した空間だ。ここならセインは都市魔導に合わせる事なく戦えるし、隠し事も出来る。俺の魔法をあまり大っぴらに見られるわけにはいかないんでね」」


セインは常識離れな魔法を見せられていた為、レイの変化にようやく気づいた。


「戦闘前と雰囲気が違うな。それが素か?」


「いや、封印を解くとどうも昔に引っ張られちまうみたいでな。後は思ったよりもセインが強くて楽しめそうだったからな。興がのったのもある」


ニヤリと戦闘狂のような笑みを浮かべる。嘘は無いようだが、疑問も多くある。だが今は


「攻撃魔法第十二層。《理爆審罪裂》!」


セインの暴力的な魔力の上昇とともに空間が揺れた。眩い光がレイの足元から発生する。範囲が異常だ。そこそこの都市なら吹っ飛ばせそうな規模だ。


(やばいな。こんな猛獣をアークレインは飼ってたのか。面白い!!)


「ヒュペルビア(身体能力超越)」


レイは地面を蹴り、その場から消える。

空間が壊れそうな程の光の爆発が一体を支配する。視力、聴力が奪われるような感覚。


(私が撃てる最大火力と範囲だ。これで無傷なら勝ち目は無い)


セインは肩で息をしながら辺りを見渡す。レイの影も形もない。


「強いな。だが、相手が悪かったな」


セインの頭上から楽しげな声が聞こえ、レイが笑みを浮かべながら足を振り上げていた。


「じゃあな理の国最強。少し寝てな」


レイは容赦なく足を振り下ろすと同時に、轟音と共に空間が崩壊した。


「アキネーシア(魔力封印)」


第二ラウンドは呆気なく勝負がついた。

ただ、この後に重要な問題が待ち構えていると思うと、少しだけ憂鬱になるレイであった。

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