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盤上最強は剣を持たない  作者: sorerunoa
迫り来る真相

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24/40

第24話

結晶柱の鳴動は、最初は微かな違和感に過ぎなかった。街の奥、中央区画から断続的に伝わる低音。耳ではなく、骨に響く振動。


「……何か来る」


レイが低く言った瞬間、空気が一変した。

結晶柱の一本が、内側からひび割れるように光を歪める。次の瞬間、柱の根元から黒ずんだ魔力の奔流が噴き上がった。


「魔力反応、災度Ⅲ……いや、徐々に上がってるぞ!」


兵の叫びが通りに響く。魔力は形を取り、街路を覆うように広がっていく。歪んだ獣の輪郭。複数の魔力属性が無理やり縫い合わされた、不自然な存在。


「なんだコイツらは!?」


エルドが歯噛みする。


「人工的に無理矢理作られたっぽいね」


「前衛、下がれ! 魔導隊、詠唱準備!」


指揮官の号令で、魔導士たちが一斉に陣形を組む。結晶柱の補助を受けるため、足元に刻まれた都市魔導陣が淡く光る。一人の魔導士が声を張り上げた。


「魔力収束、火属性へ変換。構造固定、放て!攻撃魔法第二層《集束炎弾》!」


詠唱と同時に、空間が圧縮され、灼熱の弾丸が生成される。だが、


「反応が遅い!?」


炎弾は放たれた瞬間、軌道が歪み、魔物の表皮で霧散した。


「数式が合わない! 結晶柱の補正が逆に働いてる!」


別の魔導士が叫ぶ。魔物が咆哮する。衝撃波が街路を薙ぎ、舗装石が跳ね上がった。


「第二陣、結界展開!」


「均衡を定めよ、外界を遮断せよ!防御魔法第三層《理壁障》!」


半透明の結界が立ち上がる。だが次の瞬間、結晶柱の光が乱れ、結界が軋んだ。


「保たない!」


「このままじゃ街区ごと持っていかれるぞ!」


合理的であるはずの都市魔導が、今は足を引っ張っている。


(やっぱり結晶柱が足を引っ張ってるね)


レイの視線は、魔物ではなく結晶柱同士の繋がりを追っていた。


「エルド、少し時間を稼いで貰える?魔法、使えるんでしょ?」


「バレてたか。隠すつもりは無かったが、何をする気だ?」


「街を壊さない方法を探す」


エルドは一瞬だけレイを見て、すぐ前を向いた。


「いいけど、あんまり期待するなよ?」


彼は杖を構え、短縮詠唱に入る。


「風よ、刃となれ。進路指定、切断圧縮、攻撃魔法第二層《疾風斬》!」


鋭い風刃が魔物の脚を削ぐ。完全には止まらないが、動きは鈍る。その隙に、レイは結晶柱へと走った。


兵の一人が叫ぶ。


「待て! そこはっ!」


聞こえていない。レイは結晶柱の基部に手を置く。魔力は流さない。詠唱もしない。ただ、位相に意識を合わせる。


(都市全体が一つの式。なら、答えを変える必要はない)


ほんの僅か。均一であることを前提とした構造に、意図的な誤差を作る。


ガン、と空気が鳴った。


結晶柱の光が一斉に揺らぎ、魔物へ流れていた魔力供給が途切れる。


「魔力、減衰してる!?」


「結晶柱の出力が安定に向かってる……?」


魔物が悲鳴じみた咆哮を上げ、膝をついた。


「今だ、詠唱を通せ!」


指揮官の声。魔導士たちが、再び詠唱を重ねる。


「魔法陣再構築。魔力収束、雷属性展開。過剰分を切り捨て、貫け!攻撃魔法第二層《雷槍》!」


今度は違った。雷槍は真っ直ぐ魔物を貫き、内部で暴走していた魔力を引き裂く。魔物は形を保てず、霧散するように崩れ落ちた。


しばらくの静寂。結晶柱の光が、ゆっくりと安定していく。街に張りつめていた圧が、ようやく抜けた。


「……終わった、のか?」


誰かが呟く。


「被害報告を急げ! 負傷者の回収を最優先!」


指揮官が動き出す。その一歩後ろで、セインが静かに立っていた。視線は、結晶柱から離れようとするレイの背中に向けられている。


(詠唱なし。魔力放出なし。それで都市魔導を“調整”した……?)


セインは、確信した。


(こいつは、魔導士じゃない。だが只者ではない)


レイは振り返らない。ただ、小さく息を吐いた。


(今回はしょうがないよね)


街は救われた。だが同時に、理の国が抱えていた歪みも、はっきりと露呈した。そしてその中心に、自分が立ってしまったことを、レイは理解していた。


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