第21話
案内されたのは、中央区画の奥。
結晶柱の制御区とは別に設けられた、簡素な石造りの部屋だった。窓はない。装飾もない。あるのは、机と椅子が二つ、それだけ。
「ここでいい」
セインが短く告げる。扉が閉まり、外の音が完全に遮断された。エルドは別室で待機だが、それもあらかじめ決まっていたかのようだ。
「事情聴取ってやつ?」
レイが椅子に腰掛けながら言う。
「形式上はな」
セインも向かいに座る。背筋は伸び、視線は一切逸れない。
「まず確認する。君は結晶柱に触れ、位相に干渉した」
「そうだね。否定はしないよ。」
セインの眉が、わずかに動いた。
「許可は?通常、その行為は都市機能への重大な侵害に該当する」
「通常ならでしょ?非常事態だったよ?」
一拍の沈黙。
「結果として、暴走は止まった。死者も出ていない。被害も最小限だ」
「もしかして評価してくれてる?」
「事実を述べているだけだ」
淡々とした口調。だが、その奥で感情が揺れているのが、レイには分かった。セインは視線を落とし、机の上の書類に目をやる。
「次だ。君は、都市魔導の構造を“知っている”前提で動いた」
「見れば分かるよ」
「違うな。見ただけで、あの調整は不可能だ。訓練を受けた魔導士でも、数分はかかる」
即座に切り返される。
「……へえ」
「しかも君は、均一性を意図的に崩した」
セインの視線が、鋭くなる。
「アークレインの根幹思想を理解していなければ、選ばない手だ」
レイは少しだけ考えてから答えた。
「理解してるから、選んだんだよ」
空気が、さらに重くなる。
「それが理解できんな。君は、理を否定しているのか?」
「否定してないよ」
レイは指先で机を軽く叩く。
「理は便利だし、正しさでもある。でも、正し過ぎて壊れる事もある」
視線を上げ、セインを見る。
「……抽象的だな。納得のいく答えではない」
「じゃあ具体的に言うよ」
レイは少し身を乗り出した。
「均一性を保つために、今のアークレインは誤差を排除しすぎた。結果、逃げ場がなくなった。今日の暴走は、偶然じゃない」
「それは調査中だ。いずれわかる」
「調査じゃ追いつかないと思うよ」
その言葉に、セインの指が止まる。
「もう内部で歪みが増幅してる。その上、誰かが意図的に干渉しているよ」
部屋の中で、結晶灯が小さく音を立てる。
「それは誰かわかっているのか?」
セインが、低く問う。
「分からない」
レイは正直に答えた。
「でも、この街の“合理性”が、前に見たものより極端だ」
「前?」
「別の場所で、似た構造を見たことがあるんだ。そこも効率的で、無駄がなくて、理想的だった。だから理を否定しないんだ。この目で見てきたからね。でもアークレインのは極端すぎる」
セインの表情が、わずかに硬くなる。
「だから、見過ごせなかった」
再び、沈黙。
セインは深く息を吐いた。
「君は危険だ。意図せず、国の中枢に影響を与える存在だ」
「そんな大袈裟だよ。前も言ったけど、ただの小さな村出身のクソガキだって」
セインは立ち上がり、扉の方へ歩く。
「今日はここまでだ」
「え、もう?」
「これ以上は、私一人で判断できない。君の処遇は上で決まる」
セインは扉に手をかけ、振り返り言った。
「拘束は?」
「今はしない」
一拍置いて、セインは続けた。
「だが、自由でもない常時監視付きだ」
「えぇーちょっと勘弁して欲しいんだけど?」
「排除対象にならないだけマシだと思え」
レイは苦笑した。
「まあ、しょうがないか」
扉が開き、外の空気が流れ込む。去り際、セインは一言だけ残した。
「忠告しておく。この国の理に深入りするな」
レイは、その背中を見送りながら思う。
(もう、とっくに入り込んでるんだけどね)
結晶柱の低い共鳴が、遠くで鳴っている。
それは、警告のようにも、呼び声のようにも聞こえた。
次は、もっと大きく動く。レイは、そう確信していた。




