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盤上最強は剣を持たない  作者: sorerunoa
見捨てられた村

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2/7

第2話

灰哭が川へと落ち、激しい水音だけが残った。

それすらも次第に遠ざかり、村には奇妙な静寂が広がっていく。


誰も、すぐには動けなかった。

終わったのかどうか、確信が持てなかったからだ。


「……み、みんな……無事か……?」


村長の声は、思っていた以上に震えていた。

その声を聞いて、ようやく村人たちは現実に引き戻される。


橋の上は無残だった。

横倒しになった荷車、散乱する木箱、踏み抜かれ穴の空いた板。

さきほどまで魔物が暴れていた痕跡が、生々しく残っている。


「待て! そこ、踏むな!」


誰かが叫び、別の誰かが足を止める。

一歩間違えれば、次は人が川に落ちていた。


「怪我人は!?」


「子ども、全員いるか!?」


声が重なり、村が一気に動き出す。

泣き声が上がり、母親が子どもを抱き寄せる。

震える手で背中をさすり、何度も名前を呼んでいた。


腰を抜かした老人を、若者が二人がかりで支える。

別の男は血の気の引いた顔で、自分の手足を何度も確かめていた。


レイは橋の端に立ち、川を見下ろしていた。

灰色の影が、水面に浮かび、ゆっくりと流されていく。

灰哭の死骸だ。


増水した流れは速い。

死骸は激流に巻き込まれ、次第に形を失っていく。


(回収不能だね……これでいい)


誰も口にはしないが、あれが再び村に戻ることはない。

その事実が、遅れて安堵をもたらした。


「……川、増水してて助かったな」


若者の一人が呟いた。

それは感謝とも、恐怖の名残とも取れる声だった。


「レイ……お前が言った通りだった」


「橋の真ん中、踏ませて正解だったな」


視線が、少年に集まる。

細い体、乱れた髪、まだ荒い呼吸。

どう見ても、戦場を指揮する人間には見えない。


橋の補修が始まる。


「この板、完全に割れてる!」


「外せ! 次踏んだら落ちるぞ!」


声が飛び交い、村人たちは自然と役割を分担していく。

恐怖は消えていない。

だが、生き延びたという実感が体を動かしていた。


レイは手を出さず、その様子を見ていた。


頭の中では、さきほどの光景が何度も再生される。


もし板が一枚多く残っていたら。

もし誰かが恐怖に負け、走り出していたら。

もし灰哭の一体が、もう少し賢かったら。


結果は簡単に変わっていた。


夜が訪れ、焚火が灯る。

揺れる炎が、疲れ切った顔を照らす。


「……もう、来ねえよな?」


誰かがそう言った。

誰も、すぐには答えられなかった。


村人たちは川沿いに集まり、互いの無事を確かめ合う。

泣き声が止み、代わりに小さな笑い声が混ざる。

時間をかけて、日常が戻り始めていた。


レイは一人、川のほとりに腰を下ろす。


「ふう……」


息を吐く。

だが、思考は止まらない。


次に来るのは何か。

灰哭より強いか。

それとも、同じ脅威が数を変えて来るのか。


森の奥に、視線を向ける。


――いる。


はっきりとは見えない。

だが、確実に意識を感じる。


橋の補修が終わり、若者たちは焚火を囲んだ。


「少年なのに、妙に冷静だったな」


「……まだ若いのに立派だよな」


好奇と尊敬の混じった視線。

レイは気に留めない。


夜空を見上げ、静かに呟く。


「次が来ても……」


声は小さい。


「もう、手は打てる」


十五歳の少年は、まだ村にいる。

だが、その思考はすでに、次の盤面へと進んでいた。

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