第13話
草原を離れ、整えられた街道に出た頃には、太陽は完全に昇っていた。道幅は一定、舗装も均一で、補修の跡すら計算された配置に見える。
「ここから先は、明確にアークレインの管理下だな。標識、距離杭、魔力誘導石。全部が規格通りだ」
エルドが周囲を見渡しながら言う。
先を歩く魔導士の男、中央研究局所属の実働員は、振り返らずに答えた。
「無駄を省いた結果だ。迷う人間が減る」
レイはふと、この男の立ち振る舞いからくる疑問を投げかける。
「感情の迷いは?」
「数値化できないものは、判断基準に入らない」
即答だった。
レイは男の背中を眺めながら歩く。
歩幅、速度、周囲への警戒、どれも乱れがない。だが、どこか陰があるようにも感じる。
(戦闘向きの思考だ。でもどこか違和感があるんだよなあ)
「ところで俺たちと同行する理由は?」
レイが声をかける。
男は歩みを止めず、淡々と答えた。
「魔物の討伐後、この周辺の安全確認が必要だった。加えて」
一瞬だけ、視線が横に流れる。
「お前たちは、アークレインへ行くのだろう?監視だ」
「なるほど、ついでってことね」
「効率的判断だ」
男は指を立てる。
「行商人は土地勘と物資を持つのはもちろんだが、お前は魔力制御が異常に精密だ。暴発の兆候もない。普通の行商人にこんな奴はいない」
エルドが苦笑する。
「随分、よく見てる」
「任務の内だ」
「そして、お前。魔力を一切感じない。ただの魔力無しの少年なのか、あるいは.....」
その言葉に、レイは軽く肩をすくめた。
「小さな村出身の非力なクソガキさ。警戒するだけ無駄だと思うよ。まあ利害は一致してるし、気が進まないけどアークレインまで同行、でいい?」
「.....問題ない。到着後は解散だ」
最初から、別れは予定されている。そこに感情の余地はない。
道中、魔物との遭遇はなかった。それ自体が、アークレインの管理能力を示している。代わりに目についたのは、監視塔と魔力測定柱。人が見ていなくても、国が“見ている”。
「息苦しそうな国だね」
レイの呟きに、魔導士は首を傾げた。
「秩序がある。危険が少ない」
「自由は?」
「効率が落ちる」
「……即答だな」
「議論の余地がない」
だが、レイは気づいていた。
その速すぎる返答の違和感に。
(迷いがないように見えるけど、裏を返せば自分に言い聞かせてるようにも聞こえるね)
昼過ぎ、街が見えた。石造りの外壁。
無駄な装飾はなく、機能性だけを追求した構造。
門の前では、兵と魔導士が連携して入国者を処理している。
「ここで別れる。私は報告がある」
魔導士は立ち止まり、振り返った。
「そういえば名前、聞いてなかったね」
レイが言うと、男は一瞬だけ躊躇し、答えた。
「……セイン」
それだけで十分だと言わんばかりに、踵を返す。
「また会うことは?」
エルドが尋ねる。
セインは立ち止まらず、背を向けたまま答えた。
「会う理由がない」
その背中が、人の波に紛れていく。
街門をくぐりながら、レイは静かに息を吐いた。
「……アークレインにピッタリの人間だね」
「あぁ、わかってはいたが冷たい奴だ」
エルドはそう言って、街を見上げた。
「この国は、ああいう人間を量産する」
レイは頷く。
(そして切ることも、躊躇わない)
一旦の別れ。だが、これは終わりじゃない。
アークレインという国で、彼らは必ず同じ局面に立たされる。
巻き込まれる準備は、もう整っていた。
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