第10話
二人は並んで歩き始めた。
荷馬車は完全には直らなかったが、車輪の傾きは応急処置でどうにかなったらしい。
エルドが手際よく縄を締め直し、馬をなだめる様子を、レイは横目で眺めていた。
(やっぱ慣れてるな)
ただの行商というより、旅そのものを生業にしている人間だ。危険への反応も、状況判断も早い。
「さっきの魔物、よくあんな静かに追い払えたな」
歩きながら、エルドが言う。
「普通なら武器を振るか、逃げるかだろ」
「俺武器持ってないし、逃げるもなあって感じ」
レイは軽く答える。
「災度Ⅰなら、刺激しなければ向こうから引くことも多いし」
エルドは小さく息を吐いた。
「……やっぱり、ただの旅人じゃないな」
「そうかな?ランクの低い敵なら誰でも対処は出来るよ」
笑って返すが、エルドはそういう事を言ってるんじゃない、とでも言いたげだ。
道はゆるやかに続き、遠くに小さな林が見えてきた。日が傾き始め、風が少し冷たくなる。
「この先に野営向きの場所がある」
エルドが指差す。
「水も取れるし、見通しも悪くない」
「さすが!詳しくて助かるよ」
二人は林の手前で足を止め、火の準備を始めた。
役割分担は自然だった。エルドが馬と荷を見て、レイが周囲を一周して戻る。
今のところ異常はなかった。
焚火に火が入ると空気が一気に落ち着き、気が緩む。
「で、旅立ったばかりって言ってたな」
エルドが干し肉を火にかざしながら聞く。
「どこから来た?」
「ノール村。辺境にある小さな村だよ」
「……ああ」
エルドは少し考え、頷いた。
「地図から消えかけてる場所だな」
「そうなの?」
「ああ。アークレイン(理の国)の干渉が弱まった地域だ。放置されてた」
レイは何気ないふりで耳を傾ける。
「アークレインって、そんな感じなんだ」
「効率優先だ。価値がないと判断されれば、守られない」
淡々とした口調だった。
「逆に、価値がある場所は徹底的に管理される」
「それは人も同じ?」
「もちろん」
エルドはそう言って、火を見る。
「だから、国境付近は生き残るのが上手い村しか残らない」
レイは焚火を見つめたまま、頷いた。
(やっぱり、記憶通りかな)
だが、断定はしない。まだ情報が足りない。
「エルドは、ずっとこの大陸を回ってるの?」
「十年以上だな」
「長いね」
「まあな。その分、各国の色んな事を知ってる」
彼は笑った。
「国ごとに考え方もルールも違う。昨日の常識が、今日は命取りになる」
レイは、その言葉を噛み締める。
(だから、知る必要があるよね)
焚火がパチリと音を立てる。
「俺さ……」
レイは独り言みたいに言った。
「村から出た事ないし、色んな国を見て回りたくなったんだ」
エルドは何も言わず、続きを待つ。
「それ以上でも、それ以下でもないよ」
「そうか。じゃ命を助けて貰った礼だ。案内係やってやるよ!」
「いいの?俺の行き先に合わせる事になっちゃうよ?」
エルドは干し肉を一つ差し出す。
「俺は行商人だ。旅人みたいなもんだからな。旅仲間が増えたと思えばいい。」
「じゃあよろしく!」
二人は軽く拳を合わせる。
夜が深まり、星が空を埋める。
レイは寝転びながら、空を見上げた。
目的はあるが、それなりに旅を楽しみたい気持ちもある。一人より、二人のほうが見えるものは多い。この同行は偶然だが、レイにとっては幸先の良いスタートだと言える。
焚火の音だけが残り、旅は静かに次の段階へ踏み出していた。
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