第1話
初作品になります。主人公最強が好きな主がこんな主人公最強いいなと思いながら書いていきます。暖かく見守って頂ければ幸いです。どうぞよろしくお願いします。
ノール村――大陸北東端、三大国家から遠く離れた孤立した村。
南には深い森、北には急流の川が村を取り囲む。外界からの人の行き来はほとんどなく、村人たちは自然と共存し、静かに暮らしてきた。
そんな平穏も長くは続かなかった。
森の奥から、灰色の影が迫る。灰哭、人型に近いが、顔は曖昧で口だけが裂け、泣き笑いのような声を上げる魔物だ。
「きゃあっ!」
井戸に水を汲みに行っていた子どもたちの悲鳴が響き渡り、村人たちは動揺する。
川沿いでぼーっと川を眺めていた15歳の少年、レイも慌てて立ち上がる。
見た目はだらしなく、切れ長の目に長くボサボサの黒い髪。手足をバタつかせ、転びそうになりながら叫ぶ。
「やべっ!逃げろって!」
だがその目の奥は冷静そのものだ。森の地形、灰哭の数、村人の位置――すべて把握する。
レイは、これが災度Ⅱ(脅威)ランクの灰哭であることを瞬時に理解した。明確な殺意を持ち、村から犠牲を出してしまう危険度――対処を誤れば人命に直結する。
(群れは30体。最近の豪雨の影響で川が増水してるからそれを利用して始末するか。子どもや高齢者は安全な位置に誘導しないとね)
レイは声を張り、村人を誘導する。手を引き、軽く押し、危険なルートに近づけないよう指示する。
灰哭の群れが村の中央に迫る。
村人は混乱し、互いにぶつかるが、レイは叫ぶ。
「そっちじゃない!こっちだ!」
橋の手前に差し掛かると、レイは指示する。
「みんな!橋の両端を荷車と木箱で塞いで!灰哭は真ん中を進むしかなくなる!」
若者たちは戸惑いながらも素早く動く。荷車や木箱を橋の両端に押し込み、橋の中央ラインを作る。橋の板は一部腐って弱く、踏み外せば川に落ちることをレイは知っていた。
「灰哭は中央を進ませて!板が弱いところに誘導する!」
やがて灰哭の群れが、橋へ雪崩れ込んできた。
泣き笑いの声が重なり合い、耳を裂く。
曖昧な顔の裂けた口が、ぎちぎちと音を立てて開閉する。
「来るぞ……!」
誰かが叫んだ瞬間、先頭の灰哭が跳ねた。
人間と変わらない大きさの体が、異様に軽やかに橋へ踏み込む。
ドン、と板が軋む。
「止めろ!」
「近づくな!」
棒を突き出した村人の腕を、灰哭が払いのける。
爪がかすり、皮膚が裂けた。
「うあっ……!」
血の匂いに反応したのか、後続の灰哭が一斉に騒ぎ出す。
泣いているのか、笑っているのか分からない声が、橋を満たした。
「下がれ! 無理に止めるな!」
レイの声が飛ぶ。
「押すな、誘導しろ!中央だ! 端に寄せるな!」
先頭の灰哭が一歩、また一歩と進む。
腐った板が悲鳴のような音を立てる。
――バキッ。
板が沈み、灰哭の足が一瞬空を切った。
次の瞬間、後ろから押し寄せた仲間とぶつかり
灰哭は体勢を崩した。
裂けた口から、甲高い声が漏れる。
「ギィ――!」
体が横倒しになり、一部の板が抜け
ドボン。
灰色の体が、激流に飲み込まれた。
「落ちた……!」
だが、終わらない。
二体目、三体目が躊躇なく踏み込んでくる。
仲間が落ちたにもかかわらず、止まらない。
「まだ来るぞ!」
「怖ぇ……!」
灰哭は学ばない。
だが、数で押すことを知っている。
「慌てるな!」
レイの声が鋭くなる。
「同じ場所だ!弱い板に乗せ続けろ!」
村人たちは歯を食いしばり、棒を構え直す。
震える手で、灰哭を押し、逸らし、進路を限定する。
バキッ。
ドン。
ギシギシ――。
次々に板が沈み、灰哭が滑り落ちる。
水しぶきとともに、泣き笑いの声が一つ、また一つ消えていく。
最後の一体が、橋の中央に立った。
仲間の姿はもうない。
それでも灰哭は、裂けた口を大きく開け、前に進もうとする。
「……来るな」
誰かの呟き。
次の瞬間、板が完全に砕けた。
灰哭は声を上げる間もなく、川へ落ちていく。
濁流に巻き込まれ、灰色の体が沈み、見えなくなった。
川の音だけが、残った。
村人たちは息を切らし、互いに抱き合い、涙を流す。
「ふう……危なかったな」
「でも、レイの指示のおかげだ」
レイは肩を震わせ、怯えるが、目の奥は冷静そのものだった。
「これで……被害は最小限のはず……」
誰も知らない――この少年が、限られた中で灰哭を川に落とす順序、板の弱い場所、村人の動かし方まで完璧に指示していたことを。
だがレイの心には、前世での自分の影がちらつく。
「くそっ、思い出したくなかったなあ……」
今はただの少年が戦わずして村を守った。
読んで頂き、ありがとうございます。
少しでもいいなと思って頂けたら★やフォローお願いします。




