アトラース・の変な異世界夢
これは私が取り組んでいるもう一つの物語です。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
法城は、自分が生き物ではなく、道具に近い存在なのではないかと思うことがあった。
高校二年の春から、時間は彼のものではなくなった。模試、偏差値、進学実績。両親の言葉は、彼の将来を思っているという形をしていながら、いつも刃のように正しかった。
数か月後には大学入試がある。
この修学旅行は、彼にとって「休暇」ではなかった。
それは、長い労働に連れて行かれる前に、鎖を少しだけ緩めてもらった奴隷に与えられる、最後の外気のようなものだった。
空港の天井は高く、光は白すぎた。
人々は流れ、声は意味を失い、案内表示だけが冷静だった。
そのとき、法城は彼女を見た。
黒い肌。長い脚。異様なほど豊かな胸。
周囲の空気と明らかに質が違っていた。
彼女は現実というより、広告や夢の断片のようで、ここに存在していること自体が場違いだった。
(……誰だ?)
外国の女優か、モデルか。
そう思った瞬間、彼女が自分たちと同じ搭乗口に向かっていることに気づいた。
同じ便だった。
機内は、修学旅行特有の浮ついた声で満ちていた。
法城は窓側の席に座り、イヤホンもつけず、ただ雲を眺めていた。
離陸してしばらくしてから、異変は起きた。
金属が悲鳴を上げるような音。
次の瞬間、衝撃と、熱。
誰かが叫んだ。
誰かが祈った。
法城は、ただ考えていた。
(俺は……何をしたかったんだろう)
勉強して、点を取って、認められて。
それだけで終わる人生だったのか。
炎が視界を覆った。
酸素が薄れ、思考が溶けていく。
(全部、親のためだったな……)
それが、彼の最後の記憶だった。
――次に目を開けたとき、空は見たことのない色をしていた。
紫とも灰色ともつかない空。
空気は重く、音が遠い。
法城は硬い地面の上に横たわっていた。
体は、なぜか無傷だった。
「……ここは……」
起き上がろうとしたとき、隣に人影があることに気づく。
あの女だった。
空港で見た、あの異様に美しい黒人爆乳の女性。
彼女もまた、困惑した表情で周囲を見回していた。
「あなた……名前は?」
低く、落ち着いた英語訛りの日本語だった。
「法城……法城ほうきろ」
彼女は一瞬、彼の名前を反芻するように黙り、そして言った。
「私は、ステファニー・アダムスよ」
その瞬間、法城の胸に、引っかかるものがあった。
(……知ってる)
ステファニー・アダムス。
世界的に有名なアフロアメリカンのジャーナリスト。
貧困、紛争、忘れられた土地を渡り歩き、人々の声を記録し、世界に伝える女。
なぜ、そんな人物が、修学旅行の飛行機に?
問いを口にする前に、法城は周囲の異様さに気づいた。
木々の幹は、人骨のように白く、枝は関節のように歪んでいる。
緑色の豚が歩いていた。皮膚はアボカドの果肉のようで、鈍い光を帯びている。
そして――
遠くの地平線に、巨大な影があった。
金属でできた鷲。
羽毛の一枚一枚が装甲のようで、下半身は大地に埋もれている。
それは、倒れた神か、壊れた兵器か。
あるいは、この世界そのものの象徴か。
ステファニーは静かに言った。
「……少なくとも、地球じゃないわね」
法城は、返事ができなかった。
彼はまだ、自分が生きているのか、死んでいるのかすら、わからなかった。
このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードもすぐにアップロードします。




