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この星の記憶  作者: 神常神


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想定外

建物の影からカイルは颯爽と走り出た。

それを待っていたかのように、複数の影が彼を追って地面をなぞる。

空には20から30程の、翼の生えた紫の人型が飛んでいた。

手には穂先(ほさき)が3つに分かれた長い槍を持ち、口元はニタニタと笑っている。

誘い出す為に先行したカイルはもちろん応戦準備をしていたが、その目は見開かれ予想とは違った展開になっていることは明らかだった。

それは彼の想定を、超える光景だったからだろう。

次の瞬間ビューンと音を立てて()()()が降り注いだ。

応戦しようと足を止めたことが、この攻撃を避けるという選択肢を殺してしまっていた。

しかしカイルを襲ったのは槍に貫かれる衝撃ではなく、呼吸が止まるほどの腹部への衝撃だけだった。

ずざあああああぁぁぁぁ!!

カイルは公園内にα()と共に横たわっていた。

咽せ返り、えずきながらもカイルは身を起こし、自分がαに救われたこと理解した。


「くたばれ化けものおお!」


それと同時にβ()とブーシの2人が空中に向かい、攻撃を開始していることも確認する。

βは銃、ブーシは刀から()()()()()()を飛ばしているようだった。

不意をつく形でβの銃は2匹程度を(ほふ)った。

しかしすぐにその弾は避けられるようになり、魔物たちはニタニタと向き直ってくる。

が、1匹また1匹と胴体を真っ二つに落とされる光景が、魔物たちの笑みを消していく。

理解はできないが、ブーシが振る刀から攻撃されていることを悟った魔物は、ブーシに狙いを定めて一斉に襲いかかった。

しかし彼に辿り着く前に、今度は背中を撃たれ落とされていく。


「背中から撃たれる気分はどうだよ!おい!!」


カイルが怒りの様相で、マシンガンのように弾を撃ちまくる。

一発一発が拳大(けんだい)程の大きさの弾が、魔物を生き物から肉塊に次々と変えていく。

すると魔物は高度を上げ射線を切るように、周辺の建物の上に勢いよく姿を消していった。

その間にβとブーシは魔物の死体を警戒しつつ、道路を渡り2人と合流した。

するとカイルが体を丸めて横になっているαに、苦しそうに声をかけているのが分かった。


「すまない、俺のせいで」

「大丈夫……です」


息も絶え絶えのα。

それもそのはずで、彼の右足()()()()()()()していた。

そう。先ほどの槍の雨はカイルを貫くことはなかったが、αの足を道路に()()()()にすることには成功していた。


「早く、早く地下へ!」


3人が歪んだ表情で固まっていると、必死の形相でαはそう(うなが)した。

カイルはその言葉にハッとし、βにバッグから治療キットを取り出すよう命じた。


「これか?」

「ああ。お前ら2人は辺りを警戒してくれ」


治療キットを受け取ったカイルは注射をαに打つと、慣れた手つきで応急処置を終え立ち上がる。


「ブーシ、案内してくれ。俺がαをおぶる。後方の警戒はβ、任せたぞ」


彼の指示を了承した2人は頷くと、ブーシは記憶を辿りつつ先導を始める。

背は高いが葉の生えていない、エネルギーの感じない木々の影。身を隠すには心許ない中、ネチョネチョとした道を行く。

さっきの奴らが追跡してきていないか?

そんな風に空を目で見やりながら、2分ほど歩き彼らは足を止めた。


「あれだ」


ブーシがそう言った視線の先には、そこだけ泥を被っていない、人1人が降りていけそうな幅の鉄製のハッチが地面にあった。


「あの下に少しの空間がある」


ブーシがハッチへ近づこうとすると、カイルがそれを止めた。


「待てっ。妙だ、泥がかかっていない」


一瞬その言葉で足を止めたブーシだが、また歩みを進める。


「仮にここに敵がいたとして、もう他の選択肢はないであろう?どのみち倒すなら今やる。β、我がハッチを開ける。分かるな」


その言葉に覚悟を感じたカイルは言葉を返さず、βはバッグを置き前に出る。

βが入り口を覗き込めるような形で銃を構えると、ブーシは一気にハッチを引っ張り開けた。

ギィィィと少し重そうな音を立て、出来た暗闇の穴をβは銃越しに覗き込む。

そこにはハシゴがあり、底は見えない。

そして敵の姿も確認出来ない。


「俺が先行する。αを頼む。傷口に泥が付かないよう気をつけろよ」


カイルがおぶっていたαをβに預ける。


「…ごめん、足手纏いになって」

「バカが。気にすんな」


カイルは銃を構え中を覗く。


「意外に深いな。底まで7、8メートルぐらいか」

「見えるのか?」

「スーツの性能だ。幸いハシゴは下まで続いている。俺が降りて安全が確認出来たらα、お前自力で降りてこれるか?」


扉の幅同様、地下への穴は人をおぶって降りれるほどはない。


「大丈夫です。多分さっきの注射、痛み止めですよね?効いてきました」

「すまない。頑張ってくれ」


カイルはそう言うと頭から穴にダイブした。

彼以外は驚いていたが、彼からすればハシゴを丁寧に降り足元を危険に晒すより、頭から銃を構え落下した方が、安全と考えたのだろう。

衝撃や手からの着地は、スーツの性能で何とかなる判断だった。

しかし、そこから約1分半ほど何の音沙汰も無かった。


「遅くないか?」


3人は顔を見合わす。


「なぁ、この下ってそんなに広いのか?」

「いや、変わっていなければそこまで―」

「大丈夫だ!降りてこい!」


不安が大きくなっていた3人に、地下から彼の合図があった。


「ふー。心配させやがる。行けるかα?」

「大丈夫」


βはαをハシゴに上手く下ろすと、αはゆっくりと手の力と片足を頼りに降りていった。

残った2人は辺りの警戒に集中する。

だが少ししてβがあることに気づく。


「と言うか、もう俺たちも降りてっていいんじゃないか?」

「確かに。αが降りれれば、我らが上にいる必要はない。むしろ身を晒していては、敵に見つかるリスクが高くなるか」

「よし降りよう。ブーシ先に行ってくれ。俺はあのバッグを拾っていく」

「了解」


2人は警戒を止め、ブーシはハシゴを降りβはバッグを拾いにいく。

その最中(さなか)βはすっかり指示を待つだけになっている自分に、少し苛立ちを覚えていた。

しかしその気持ちの乱れが、警戒心を緩めていた。


「ああ。泥がついちまった」


バッグについた泥を払いつつ、βはハシゴに戻る。

そんな彼の背後では、彼の耳には届かない小さな声が発せられていた。


「ふみゃふみゃってか〜?」

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