グッドラック
銃の反動でカイルの体は空中で跳ね、落下の勢いは軽減、綺麗な着地をエントランスにした。
一方青色の化け物はエネルギー弾により、地面に激しく叩きつけられ砂煙が舞う。
さらにカイルは一気に距離を詰めると、仰向けに倒れているソレの右足を踏み、今度は小さい弾を乱射した。
それはさっきの一撃とは違い反動は少なく、頭から腕の先へとなぞるようにソレを蜂の巣にしていく。
次に足をどかしたカイルは、ソレの右足も穴まみれにした。
そして最後に距離を取り、ほとんど弾け千切れたソレを、大きいエネルギー弾で地面ごと削り飛ばした。
手すりから身を乗り出し見ていた俺たちは、カイルの撤退した姿に息をするのも忘れ見入っていた。
「降りてこい」
彼のその言葉に従い、俺はαにおぶってもらいひとっ飛びでカイルの元へ降りた。
「カイル、容赦ないな」
「魔族ってのはゴキブリみたいにしぶといからな」
「というか、この銃そんな使い分けできんだな」
まじまじと自分の銃を見つつ、そう呟いた。
俺が学校で銃を習った時は、こんなたいそうな銃じゃなかったからな。
「いや、残念だがこのスーツを着ていないと、威力の調整はできない。お前らが使う分には威力は固定されていて、まぁ、俺が最初に撃ったエネルギーの塊みたいなのは撃てない」
そりゃ、残念。
「そのスーツって実際どうなんだ?着心地とか性能とかさ」
「着心地はいい」
いいんだ!
「性能は身体能力の向上。武器の性能の最大化。今みたいにな。他にも色々あるが、今はそんなことはいいだろ。それより場所を変えるぞ。他に敵がいたら音で寄ってきてるはずだ」
「あのぅ、ブーシ君は―」
ドゴオオオォォーン!
αの声を遮り、さっき登った階段のある方、6階部分が激しく崩れ落ちた。
すると砂煙の中から、さっきの青い化け物の上半身だけがエントランスに落下してきた。
ベチャン……。
床に転がっているソレは、こちらを確認すると手を構え、狙いを定める仕草を始めた。
「あいつ、まだ生き―」
俺が言い終える前にカイルは距離を詰めると、再び足でそいつを上げた腕を踏んで地面に固定した。
「てめえ、さっきの奴か?」
「ふみゃ、ふみゃってかー?」
意味のわからない言葉を言って笑うソレを、彼はまた蜂の巣にしていく。
そして今度もある無数の肉片となり、千切れ飛ぶまで弾は放たれた。
「α、β、ブーシ、とっとと移動するぞ」
その声に反応し、俺たちの登った逆サイドの階段部分から、ブーシは姿を現した。
「そこにいたのか」
「ブーシには俺が背中を取られた時のために、身を潜めておいてもらった。助かった」
「礼には及ばん。それよりも、あれを見ろ」
ブーシが見る方向に皆視線を向ける。
すると青い小さな物体が、壁を伝っていくのが見えた。
「また復活するぞ」
マジかよ!
「なるほど……早く移動するぞ」
ブーシに預けていたバッグを受け取ったカイルは、足早に入り口へ歩き出した。俺たちも急いで後に続く。
「倒さないのか?」
「これ以上この場に滞在するのは危険だ。不死身の奴と他の魔物、同時にとなると流石に骨が折れる。今は身を隠せる場所を探すのが先決だ。ブーシおまえはこの町の出だ。この辺りで身を隠せそうな場所はないか?」
「この建物が我の思っているビルなら、近くに大きい公園があるはず。そこには水道を管理する為の地下室がある。そこに隠れれば」
「その地下室への入り口は目立つか?」
「いや、我が子供の頃たまたま遊んでいて発見した場所だ。入り口も当時ですら枯葉を被っていて、室内は蜘蛛の巣がかなり張っていた」
「公園……地下室か。しかしまぁ、探して彷徨うよりマシだな。一旦そこで落ち着こう。案内してくれ」
辺りを警戒しつつ、俺たちは建物を出る。
ブーシを先頭に、カイルの支持する方向をそれぞれが警戒しつつ、建物の影を伝うように移動する。
5分ほど足早に歩くと、公園の入り口が見える位置に到達した。
「待て」
「どうしたんだ?」
公園を道路一つ挟んだところで、カイルが皆を止めた。
「今影が道路を横切った」
「え、鳥じゃないのか?」
俺には分からなかった。
「いや、ここは魔族のテリトリーだ。生き物がいるなら、それは間違いなく魔族だ」
「さっきの奴か?」
「いや」
カイルが頭上や辺りを注意深く観察し始め、それに倣い俺たちもキョロキョロと辺りを見る。
一見何もいない。
「大丈夫じゃないか?」
「ねぇ、僕ずっと思ってたんだけどさ、静かすぎない?」
「それは俺も思ってた。こんなに敵がいないのかって」
生唾を一つ飲み込み、俺は感覚を研ぎ澄ます。
「……誘い込まれたか?」
そうボソッと呟いたのはカイル。
すると彼は俺たちを集め小さな輪になり、小声で指示を出してきた。
「いいか。俺が先行して飛び出す。何もなければαは2人を抱えて全力で俺のところに来い。それぐらいできる力はあるよな?」
「はい。でも2人抱えるとなると、そんなに早く動けないかも」
「大丈夫だ。多分2人抱えても、俺より早い」
そう言って彼は俺たちに背を向ける。
「だがもし俺が攻撃された場合、俺が敵を引きつける。その間に公園に侵入して、地下に潜れ」
「っ―」
俺が口を開くのを手で制すると、カイルは腰のベルトに刺していたナイフを取り出した。
「入り口は分かりづらいんだろ?」
「ああ」
「入り口の付近にこれを落としといてくれ」
俺は彼からナイフを受け取った。
そして続けてバッグも俺に預けてきた。
「あともし、公園内に敵がいたら全力で戦え。身を隠すのは諦めろ」
えっ!
「じゃあ……幸運を祈る」
彼はボソリと呟いた。
「俺自身にも」




