よくきたな
「寝ちゃダメだ!」
車内に響いた声に、俺ははっと意識を戻された。
「カイルさんっ自動操縦って手動にできますか?!」
「どうした?」
αの切羽詰まったような声に、俺たちは困惑する。
「変えれるか聞いているんです!」
「一応変えることはできるが―」
「じゃあお願いします!」
αの勢いに押されるように、カイルはシートベルトを外し運転席へ移動する。
「本当にどうした?」
さっきまでのどこか、ナヨナヨしている感じとは別人のようなαを、俺は宥めた。
「ごめんなさい。実は僕―」
何かを言いかけて口をぽかんと開け、αは目を見開き固まってしまった。
「おい、大丈―」
「α!いつからだ?」
ブーシの心配な声を遮り、カイルが声を荒げた。
「いつから異変に気づいたんだ!」
カイルがハンドルを握った直後、機体が急降下を開始した。
「お前ら舌噛むなよ!」
驚く俺らをよそに、飛空車はほぼ直角に降下を始める。
墜落する!
しかし機体は墜落することなく、強引に水平へ戻される。その際1度軽く地面を擦ったが、問題はなさそうだった。
俺は安堵のため息を吐き、運転席の方を見る。
窓の外はもう空ではなく地上が広がっていた。
助かった。
安堵も束の間、カイルの声が緊張の糸に触れる。
「お前らシートベルを外して、頭上の棚を開けろ」
地上スレスレを、目の前の町に向かって運転する彼はそう言った。
「敵が周りにいる可能性がある」
一瞬で空気が張り詰めた。
そんな中、αはすぐに指示に従い行動を始めた。
俺とブーシもそれを見習い行動する。
棚を開けると俺には馴染みのない、銃やナイフ、防弾ベストなどが入っていた。
「自分が使えそうなものを持て。あとベストとヘルメットはちゃんと着けろ。気休めにはなる」
「ちょっと待て。もうドゥエンダに着くだろ?今更警戒しなくても―」
「この町はドゥエンダじゃない」
「まさか!この町は!」
ドゥエンダじゃないという俺の驚きをかき消すかのように、ブーシが運転席に身を乗り出すようにしていた。
「ゼン」
ゼンだと。
確かゼンはブーシの生まれ育った町だったはず。
でもゼンは確か―。
「お前ら分かるな?もうここは魔族のテリトリーだ」
車は地面スレスレを飛行し続け、町へそのまま侵入した。
「ちょっと待て、じゃあなぜ引き返さない!」
「ダメだ!」
俺の声に被せるように否定したのはαだった。
「引き返そうとしたら、きっと敵と遭遇してしまう」
「αの言う通りだ。ここからドゥエンダまでは、荒野が続いていていい的だ」
「いや、もう一度高く飛べば―」
「もう計算した。ここからドゥエンダまでは約2、3時間。風圧や気流などを考慮したら、俺の腕では無理だ。もちろん低空でならいける。だが何もない荒野を行くなんて馬鹿なこと俺はしない。散々AIに頼ってきた弊害が今くるとはな。ハハ、笑えねぇぜ」
なんだよそれ。
「じゃあ、じゃあもう一度、目的地を変更して自動操縦に変えれば―」
「ドゥエンダと入力してここに来てしまっている。しかも途中で気づいてこの有様だ。また入力したらこの町すら超えて、もっと敵地へ突っ込むだろう。それにもう町の中だ。腹を決めろ。まずはここの敵を一掃する。後方の安全を確保してから以外、撤退はない。これは命令だ」
クソが!マジかよ……。
「βには悪いが、故郷を取り返すチャンス。我はもう」
装備の着用をしながら、ブーシがそう言ってきた。
どうやら彼の腹は決まっているらしい。
……ああーくそっ。
「俺はまだ死にたくないぞ」
「俺がお前らを死なせない。この事態を招いたのは俺の責任だ。俺の命に変えてもお前らをドゥエンダに送り届けてやる」
その言葉から少しして、車は廃墟であろう背の高いビルの、エントランスに隠れるように停車した。
エントランスは上に大きく吹き抜けており、各フロアの通路がコの字型に見える造りになっていた。
「よし、降りるぞ」
カイルが運転席からこちらに歩いてくる。
「いいか、基本的には俺の指示に従え。だが、いざとなれば直感に従え。今のお前らにはそれしかない」
彼はそう言うと、スーツでまた頭まで覆い、腰には色々装備がぶら下がっているベルトを巻き、手には大きなメカメカしい銃と、何が入っているか分からない黒いバックを持ち立ち上がった。
一方俺たちはメットとベスト。一応カイルと同じ銃はそれぞれ持っているが、俺はそれだけだ。
他にも武器は色々あったが、結局扱えないものは持たない方がいいと俺は判断した。
まぁ、あと単純に動きずらいのは嫌いだ。
一応でとった安全で、墓穴は掘りたくないしな。
ちなみにαはカイルと同じ装備がぶら下がってるベルトを追加でしていて、ブーシはもちろん刀をプラスで所持していた。
「警戒しろよ」
こちらを一瞥し車の後方にある唯一のドア、その壁面にあるボタンをカイルは押した。
シュウウっとドアが開くと、カイルはクリアリングをし近場の物陰まであっという間に移動した。
そこでも辺りの状況を確認した後、俺たちに来るよう手で合図を送ってきた。
しかし三人ともに動けない。
それもそのはずだ。
初めての戦場。
死角が多い場所とはいえ心臓はバクバクで、足が凍ったみたいになっている。
「二人とも、僕の手を握って」
「……とりあえず落ち着く感じか?」
αはスリングの付いている銃を背中に回しながら、俺の言葉に少し笑顔になる。
「違うよ。一瞬であっちまで行く。いいから握って」
俺たちはαの手を握ると、行くよの声と共に、ほぼ一瞬でカイルと同じ物陰にたどり着いた。
……何が起こった?
さっきまで辺りを警戒していたカイルでさえ、驚いて隣のαを見つめてしまっている。
「これが僕の能力。話したでしょ?」
そういや強化された肉体だったっけ。
「速すぎて……肩外れるかと思ったぞ」
「あはは」
そうだ。俺たちには能力がある。
何ビビってんだ。
落ち着こう。
俺は一度目を閉じ深呼吸する。
ほら、こんだけの余裕が俺には―
「ふみゃふみゃってか〜?」
大きな声が辺りに反響した。
「避けろ!」
カイルの声が響くと同時に、俺はαに手を引かれる。
ドゴォーン!!
理解の追いつかないなか、視界は砂煙に包まれた。
近くの物陰まで運ばれた俺は呆気に取られていたが、取り敢えずαに礼を言って、辺りの警戒にはいる。
といっても視界は砂煙に遮られているし、どっから攻撃されたのかさえ俺は気づけなかった。
くそ!また心臓バクバクじゃねぇか!
少しして視界が鮮明になってくると、さっきまで俺たちのいた場所が、大きく凹んでいるのが分かった。
「ふみゃふみゃってか〜?」
また声が響いたかと思えば、今度は飛空車に大きな玉が飛んでいき、車は爆散した。
飛んできた破片と砂煙を物陰でかわしつつ、αに声をかける。
「多分、俺らの頭の上だな」
玉の方向から俺はそう判断した。
「うん。ねぇあれ」
αの指差す方向には階段があり、壊れていなければ上まで続いているだろうと推測できた。
「攻撃は玉のようなエネルギーの塊」
「ああ、角度的に俺らの頭の上。多分4階から6階ぐらいの高さだったよな?」
「うん」
「……行くか」
「うん」
俺たちはコンクリートの階段を、忍足で登っていくことにした。
恐怖はあるが、それを打ち消す何かが体を支配していた。
今はそれに従う。騙されてろ、俺の心。
2階まで上がったところで砂煙が止んだエントランスを見るも、カイルとブーシの姿は確認できない。
やられてはいないはずだ。
心臓の鼓動を耳に感じつつ3階を通過、そして敵のいる可能性のある4階廊下を、階段を登りきらず覗ける高さで止まり、階段から確認する。
いない。少なくともこの直線上には。
通路の曲がり角にいる可能性はあるが。
俺たちは頭が覗かないよう、手すりのついている腰壁に背を預け、4階で息を潜める。
さて、どうするか?
いったん覗いて完全に周囲を確認するか?それとも上に行くか?
俺は後ろのαに、アイコンタクトとジェスチャーで相談する。
伝わるか不安だったが、俺の意思を汲んでくれたらしい。
とりあえず辺りの確認をすることにした俺は、さっきまでとは違う静けさに唾を飲みつつも、ゆっくりと顔を出す。
このフロアの曲がった先や向こう側、同じく上のフロアにも敵は見当たらない。
一応エントランスや下の階も確認するが、やはり敵の姿はない。
じゃあまだ頭の上か。
俺はまたアイコンタクトをし、上に向かおうとした。
「ふみゃふみゃってか〜」
囁くような背後の声に振り向くと、逆さまになった青色のソレと目が合った。
息を呑む間もなくソレの手から玉が発射され、気づいた時には俺はαに抱えられ、廊下の曲がり角にいた。
くそ、なんだあの化け物!
頭の処理が追いつかねー!
でも―
「助かったぜ。ありがとう」
「うん」
さっきまで俺たちのいた場所を見やると、砂煙から青色のソレは歩き出てきた。
身長が160cmぐらいの人型のソレは、目は虚空を見つめ、口は横に長く、どこかにっこりしているようだった。
「早いね」
そう言うとソレは右手を構え、手の先から玉を撃ってきた。
それを確認するや否や、また曲がり角までαが俺を抱えて避けた、が。
この動きを読んでいたのか、ソレは空中を直線的に飛んでこちらにきていた!
ヤバい!
そう思った時、ソレの上に人が降ってきて、一緒に地上へ落下を始めた。
そう、降ってきたのはカイルだった。
「よくきたな、化け物!」
ソレに突きつけられた銃から、大きなエネルギーが発射された。




