車内にて
ドゥエンダに向かう小さな飛空車の中、俺たちは両肩と腰をしっかりシートベルトで固定し、2人ずつ向かいあって座っていた。
飛空車はかなり高い高度を自動操縦で運転していて、隣に腰掛けているカイルがこの暇な時間を自己紹介に割くことを決めた。
運転席の方にしか窓がなく、後部座席でこのままぼーっとしてるよりは、よほどいいと俺たちは会話を始めた。
「カイルだ。これからお前たち3人と小隊を組むことになる。よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
目の前に座る男が挨拶を返した。
「以上だ」
「え、それだけですか?」
「他に何を言えばいい?」
確かにそう言われると、自己紹介とか大して言うことないな。
「ああ、ちなみにこんな顔だ」
そう言うと顔の部分だけ黒のスーツが首元に収納され、金髪に碧の瞳の美青年が表れた。
「それ、顔出せたんすね」
「バリアブルスーツは、脳や筋肉の信号を受信し、思ったように全身を覆える。こうやって顔だけを出すことも容易だ。ドゥエンダに着いたら、お前たちにも着用してもらう」
なんだろう、着たくない。
それで歩き回りたくない。
まぁ、そんなことは今はいいか。
「じゃあ、次は俺が。シュウって言う」
「えっ!」
「ど、どうした?」
「僕もシュウって言います」
「ええ!まじで!」
前のめりになり、シートベルトの反発力に戻され驚く俺に、シュウは目線を少し下にして泳がせ、よろしくお願いしますと言った。
「同じ名前だと分かりずらいから、お前はαお前はβと名乗れ」
いきなりですね、この人は。
「俺、これからβすか?」
「作戦中はな」
まぁ、いいか。
「次は我か?」
出会った時は持っていなかった刀を膝の上に置き、目を今まで閉じていた着物姿の彼が言った。
「名はブーシ。父親が剣術の道場をしていた関係でこのようなものを持っている」
「それは―」
「残刀。残像しか見えぬ刀。残さず切り落とす刀。そしてこれを振るうものが、思い残すことのないよう生き抜く刀。そう言われている刀だ」
「なんか名刀っぽいな。どこで手に入れたんだ?」
「分からん。病の父が無理やり体を起こし、ここに旅立つ前我にこれを授けたのだ」
「へーぇ。切れ味は」
「まだ一振りもしていない」
「……大丈夫かそれで?」
カイルが心配そうに問う。
「問題ない。刃の確認はしている。それに、これから嫌というほど斬ることになる」
嫌というほど斬る。
その言葉にこれから、戦争をしにいくという実感が湧いてくる。
少し重たい空気を察したのか、カイルが口を開いた。
「ドゥエンダはブーシ、お前の故郷に近いな」
「その通り。ドゥエンダは我の故郷ゼンから歩いて半日ほど。子供の頃よく遊びに連れて行ってもらった記憶が……懐かしい」
「半日も歩いたのか?」
「いや、歩けば半日。基本は走っていたので5、6時間ほどで着いていたのを記憶している」
うーん。凄いやつだ。
「今ゼンは敵の手にある。もしかしたらこれは、ゼンを取り戻す戦いになるかもな」
「おっしゃる通り」
カイルの言葉に彼は同意した。
一通り自己紹介が終わったので、俺はずっと疑問に思っていたことを、質問することにした。
「なぁ、みんなの能力ってどんななんだ?俺は―」
「待て。詳しくは話すな」
「えっ、なん―」
俺を手で静止すると、カイルは続けた。
「大まかでいい。事細かに話せば情報が漏れた時、命取りになりかねない」
「いやでも―」
「分かってる。だから最低限の情報だけ教えてくれればいい。それで十分だ。いいな」
彼は有無を言わせない感じだった。
これから命を預ける仲間のことを把握する方が、あるかも分からない情報漏洩より大事ではないか?
ましては今は4人だけだ。
仮に情報が漏れたのなら、この中に裏切り者がいると、逆に炙り出せたりもするのではないか?
「ここには俺たち4人しかいないと思っているな?」
「あれ、顔に出てました?」
「先に言っておく。ここには5人いる」
「え!」
「自動操縦。つまりプログラミングされたシステムがある。分かるな?」
「……AIですか?」
ぼそっとαが口にしたAI。
その言葉に俺は虚をつかれた。
「その通りだ。この車自体にAIは搭載されていないが、音声を認識するシステムが備わっている以上、迂闊なことは言わない方がいい。AIが盗聴していないとは限らない」
「なら他の―」
「確かに言いたいことは分かる。だがその場合陸路を10倍から、20倍の時間をかけて進むことになる。しかも運転手が必要だ。今は時間も人員も惜しい。しょうがないんだ。AIの影を完全に捨てることは、今の俺たちにはできない」
疑ってても使うしかないか……。
俺もシェルダムの付近までは、自動操縦のタクシーに乗って行ったしな。
何も疑わず。
「だがこの車のシステムは、反乱後に一応書き換えてある。だから比較的安全なはずだ」
でも、石橋は叩いて渡れってやつか。
「そうなんすね。じゃあ端的に。俺の能力は発火。規模はまちまち。うーん。まぁ条件は言うとすごいネタバレだから言えないかな。まぁそれぐらい簡単だから、いざという時も大丈夫だと思うぜ」
まぁ条件は5本の指が触れていればいいだけなんだけど。
言わない方がいいよな。シンプルすぎて対策が容易にできそうだし。
「うーん……まぁそれぐらいでいいか。次」
カイルは少し不服そうだった。
お前が詳しく言うなって言ったんだろうが。
「我は、斬撃を飛ばせると言うところか?我の持つ得物から飛ばすことが出来る」
ブーシは刀を少し持ち上げながら短く説明を終えた。
「分かりやすいな。次」
「僕は強化された肉体です……」
ん?
「え、終わり?」
「あ、はい。より詳しく言えば人より……うーん。5倍ぐらい身体能力が高いって感じですかね」
「それは生まれつきではなく?」
「はい。啓示を受けてからです」
「手から発火して斬撃とか出ない?」
「あはは。出ませんよ」
何か弱くないか?
「あーそう言えば」
αが運転席の窓の外を指差す。
「あれってなんなんですか?」
俺たちは動かせる範囲で体を動かし、窓の外を見る。
「どれだ?」
「何か見えたのか?」
「我には何も」
「え、あの数字皆さんも見えてますよね」
数字?
「俺には何も」
「同じく」
「なんて書いてあるんだ?」
「本当に見えないんですか?啓示を受けた次の日から999って空に刻印されてるみたいに見えるから、皆さんは見えるものだと……」
「少なくとも能力を持っていない俺には見えない。お前ら2人も見えないのか?」
カイルの問いかけに、俺とブーシは首を縦に振る。
「そうなんですか。じゃあ何なんだろう……僕だけ」
「もしかしたらαの能力に関係するのかもしれないな。その数字は今でも999なのか?」
「はい。啓示を受けた次の日、空を見たら999ってあって。だから十日前から変わってないです」
カイルとαの会話を黙って聞いていた俺は、今一瞬違和感を覚えた。
何だ?
自分でも何に引っかかったのか分からない。
「ごめんなさい。何か変なこと言ってしまって」
「いや、問題ない。数字に変化があったら報告を頼む」
「はい」
「それと、目的地まではまだあと4時間ほどある」
運転席のモニターに表示されている予測時間を親指で差しながら、カイルは仮眠を取る事をすすめた。
「着いたら何かと忙しい。すぐに戦闘になる可能性もある。休める時に休んでおけ」
人生で行ったことがない戦場の最前線。
物思いに耽っても疲れるだけだと思い、俺は腕を組み、ありがたく目を閉じた。
最初は座り慣れない感触と、これからの不安に思うことはあったが、次第に意識は遠のき俺は眠りに落ちていった。




