13人の救世主
黒い人がIDをかざし、開いた部屋の中へ。
さっきまで見てきた部屋にはドアが無かったため、この部屋が厳重に警備されているのが分かる。
部屋の中は子供が鬼ごっこ出来るぐらいには広いだろう真っ白な空間で、木でできた机が部屋の奥にポツンと置いてあるだけだ。
そんな部屋の中には2人の男がいた。
左の壁際に立っていた男は、こちらに気づくとあっという感じで口を開いた。
右側の壁にもたれて立っていた男は、こちらを一瞥してから、どこを見るわけでもなく視線を戻した。
左の男は黒髪でツンツン頭。白いTシャツに黒のジーンズ。右の男は黒く長い髪を結っていて、着物か?
あまり見慣れない格好をしていた。
俺と同じくここに連れてこられたんだろう。
つまり2人も―
「以上3名!お連れしました!」
部屋の中央に立つ黒い人がそう告げると、机の置いてある奥側の壁の一部が下側にスライドし、背の高いガタイのいい白い軍服を着た男が現れた。
そのまま机の前に歩くと、何もない空間に腰を掛けた。
「お前たちも座るといい」
と言われたものの、どこにだ?
……床でいいんだろうか?
「お前たち、机の前に移動しろ」
黒い人がそう告げた。
俺は左の男と視線を交わし、次に右の男を見ると、既に机の前に歩き出していた。
俺たちもそれに倣い、俺を真ん中に3人揃って机の前に立った。
「座れ」
「……床にですか?」
「いいから」
訝しむ俺をよそに、右隣の着物姿の男は腰を下ろす。
するとどうだろう。
空気椅子をやっているような体制で静止した。
男も驚いたのか、目を見開いている。
「お前らも早く座れ」
また左の男に目配せをし、俺たちは揃って腰を下ろした。
するとそこには椅子があった。
しかし依然、目視はできていない。
「この部屋は座ろうとすれば座れるんだ」
「どういうことですか?」
胸の高鳴りを感じながら、黒い人にそう尋ねる。
「磁石のようなものだ」
答えたのは目の前の軍人だった。
「床をS極としお前らのケツもS極とする。すると一定の距離以降は近づけない。それをちょうど足を楽に出来る高さに調整すればいい。そんな事はともかく、ようこそシェルダムへ。私が人類最高指揮官のリウラだ」
低い声でそう告げられる。
何となくは分かっていたが、この人が人類の頂点に立つ人か。思ったより若いな。40代くらいか?
でもやっぱり纏う空気というか、風格がある感じがする。
そんなことを考えていると、リウラが言った。
「ちなみに、1分半だ」
その言葉の意味が理解できず、黙っていると彼は続けた。
「お前たちが席に着くまでにかかった時間だ。……何だ?学校みたいか?」
そんな空気を出していたんだろう。
見事に心を読まれた。
「今まではいい。しかしこれからはダメだ。今日を持って精鋭部隊に配属するのだから。神に選別されし者たちよ」
「我らだけか?」
そう聞いたのは着物の男。
「今のところ、軍の方にコンタクトしてきたのは9人だけだ」
「えっ、9人もですか?」
今度は左の男が、少し驚き気味でそう聞いた。
「9人しかだ。神の話では13人いるはず。あと3人所在をつかめていない」
「3人?4人ではなく?」
今度は俺が口を挟む。
「3人だ。なぜなら私も選ばれた。驚いたか?神様も私の面子を考慮したのだろう。人類の最高指揮官が救世主じゃなくてどうするんだと。まぁそんなこと今はどうでもいい。残りの6名は既に任務に当たっている。君たち3人にも直ぐに、魔族との戦いに赴いてもらう」
「直ぐにですか?」
「そうだ。知っての通りAIの反乱と同時に魔族の侵攻が再び始まった。本来であれば、今攻め込んでいるのは我々だったはずなのだ」
そう言った彼は、目を閉じ深いため息を吐く。
「本来とは?」
気になった俺は、項垂れているような彼へ問いかける。
「我々が冷戦時に、ただ指を咥えていたわけでは無いのは分かるな?」
「はい。異星人と異世界人と同盟を結び、対魔族への研究と開発を続けていたと聞いています」
「そうだ。だがその開発にはAIも関わっていた。というよりAIを絡めたものが大多数を占めていた。もちろん今それは使用できない。ましてや一部は奪われ、敵対勢力と化し領地まで奪われた」
徐々に語気が強くなっていく。
彼からは今にも立ち上がり、前線へ出向いてしまうのではないか?と思うほどの気迫を感じる。
「しかも反乱は、我々が侵攻する予定の数時間前に起きた。最前線へはすでに、攻撃の準備の兵を送っていた。しかし反乱により兵は立ち往生。その混乱の最中魔族は攻めてきた。結果、我々は4割の選りすぐりの兵を失った……」
4割……。
「AIは魔族と組んだんですか?」
「明確なことは分からん。しかし十中八九そうだろう」
「我らの方に残ったAIは信用できるのか?」
「信用はしていない。しかし長年人類と歩んできた物を簡単に捨て、生きることができないのが今の人類だ」
皆何か思うことがあるのだろう。
少しの静寂のあと、また彼は話し出した。
「話がそれてすまなかった。この後直ぐにお前たちにはそこに居るカイルと共にドゥエンダに向かってもらう」
「ドゥエンダだと。なぜ?」
ドゥエンダという街に馴染みがあるのだろうか?
着物の男は少し身を乗り出していた。
「最重要拠点だからだ」
そう言ったリウラの後ろの壁が、デジタルの地図を映し出した。
「前線が押され、周辺の町や村は既に魔族に落とされた。次に魔族が攻め込んでくるのは間違いなくドゥエンダだろう。ここを落とされれば前線は大きく後退し、その結果我々が攻め返すのは非常に困難となる。反面魔族は逆に大きな拠点を手に入れる形になり、戦局はさらに悪化することになる」
地図はリウラの言葉に反応して、矢印やら色で分かりやすく、現在の状況を示していく。
確かにドゥエンダの周辺には大きな街はなく、1番近くの村も地図で見ても遠く感じる距離にあった。
「お前たちにはドゥエンダの警備の強化、そしてそこから前線へ出向き、魔族の侵攻を防ぐ役割を担ってもらう。つまり敵への圧力になってもらいたい。軍人ではないお前たちにこんな事を頼むのは―」
言葉を区切り彼は立ち上がる。
「恥知らずと思ってくれて構わない。だが人類の為に、我々に力を貸してほしい。神に選ばれた者たちよ。頼む」
頭を深々と下げられ、俺たちは驚いていた。
人類最高指揮官が、俺たちのような一般市民に、頭を下げてお願いをするなんて。
「我でよければ」
「ぼ、僕もやります」
2人とも簡単に決めすぎでは?と思ったが、そもそもここにきた時点で腹も決まっていて当然か。
俺にも復讐しなきゃならない奴がいるしな。
……必ず見つけ出してやる。
「俺にもやらせてください」
ああ、でも……やっぱり怖いな。
リウラは俺たちの声を聞くと感謝を述べ、机の前に出てきて一人一人と固い握手を交わした。
そして俺たち4人はドゥエンダへ向かい、シェルダムを後にした。




