シェルダム
巨大なドーム状の鉄の防壁。
俺はその前に立っていた。
ここは戦争における人類の最重要拠点、シェルダム。
防壁の中は全長963mある細長い建物があり、その周りを兵器、兵器を製造する工場、討論館、そして居住エリアが存在する。
「シュウだな」
初めて見るシェルダムに圧倒されている俺に、声をかけてきたのは真っ黒い人型の存在だった。これは比喩ではなく、頭の先から手や足の先まで本当に真っ黒なのだ。
俺は内心ビクッとしながらも、はいと返した。
「IDを」
俺は右耳を相手に傾ける。
すると黒い人は手のひらサイズの機械を耳に近づけ、俺の耳からIDを読み取った。
実は数十年前から人類は右耳たぶに、小さなマイクロチップを入れることを義務付けられている。
そこには生年月日や現在の住所、出身地、どんな仕事をしてきて今どんな仕事をしているかまで登録されていて、一言メモみたいなIDを確認した相手への、自ら入力するメッセージ機能もある。
「よし確認した。異星人の友達が欲しいか?」
「はい、そうです」
俺のメッセージを見たのだろう。
「無理だな。異星人とはビジネスパートナーみたいなものだ。今は友好的だが、いつ敵に回るか分からない」
「でも、やらないと分からないです」
「……まぁそれはお前の自由だ。しかしどんな相手であれ情報の漏洩は許されない。気をつけろ」
「はい」
黒い人は踵を返すとついてこいと言い歩き出した。
目の前には鉄の壁があるが、黒い人はそのまま壁を貫通していった。
かなり驚いたが声には出さず、ゆっくりと俺も壁に体を通していく。
5秒ほどゆっくりと暗い空間を真っ直ぐ歩くと、眩しいほど光に照らされた場所に出た。
その光に目が慣れてくると、複数の大きなライトがこちらを向いていることに気づいた。
「行くぞ」
すごそこで立ち止まっていた黒い人の先導で、また歩き始める。
「すごい数のライトですね」
「ライトだけじゃない。通ってきた暗い道にはID認証や温度を観測するセンサーなどが備え付けられている。もし侵入者がいればあの空間に閉じ込め、複数の兵器で始末する。仮に抜けてきても蜂の巣か細切れにする」
黒い人が指差し示した方向には、複数の兵士が確認できた。
というか入口を円になり取り囲むように、兵がかなりの数配置されている。
そしてその兵たちの中にも数名、真っ黒な人が混ざっていた。
「AIが反乱を起こす前は人員をここまで割く必要はなかった」
「AIはどれだけこちら側に残っているんですか?」
「正確な数は分からんが、約2割だと聞いている。今は殆ど、警備や武器の開発には携わらせていない」
「じゃあ何を?」
「反乱したAIへの対策だ」
「え、それは―」
「危険だな。しかしAIの対策はAIでするしかないのが今の現状だ。電子の世界に我々は介入できないのだからな」
「着いたぞ」
約10分程歩いただろうか。
ずっと視界に入っていた、一際大きな細長い建物の入り口にたどり着いた。
ここが人類の拠点マザー。
シェルダムの大部分を占めている軍事施設だ。
「あそこにIDをかざせ」
言われた通りIDをかざすと、人1人が通れるサイズのシャッターが開いた。
隣のシャッターから、黒い人が入っていったので俺も続く。
中に入ると長い廊下があり、色々な部屋があることが伺えた。
ぼけっと立っている俺を置いて、黒い人が何も言わず歩き出したので、俺も着いていく。
その間に通った廊下から部屋を覗くぶんには、普通の格好をした人たちしかいなかった。
詳しく言えば多種多様でTシャツやらジャケット、ズボンやスカートなど統一性がない格好が伺えた。
そのまま町に繰り出しても、後ろ指を刺されないだろう普通の格好。
なんか学校みたいだな。
そんなことを思いつつ観察するよう、目だけをキョロキョロさせながら歩いていると、小さなエレベーターにたどり着いた。
乗るとドアは閉まり、ボタンなどはなくすぐに動き出した。
中には階数表記もなく本当に箱に入った感じで、少し息苦しさを覚えた。
少しすると乗る時とは逆方向のドアが開き、先にはまた長い廊下が続いていた。
しかし今度は行き止まりにしか部屋はなく、左右は窓になっていて光が差し込んできている。
窓の外は中々の高さから、工場や兵器を見下ろすことができる。
というかこの光は人工的なものなのか?ドーム状の鉄の中に日光は入ってこないだろうし。
少し緊張がほぐれてきて、そんなことを考えていた俺に、黒い人が静かにこう言ってきた。
「この先の部屋に人類の最高指揮官がおられる。無礼のないように」
俺の気の緩みを察したのか?
とにかく俺は気を引き締め直し、ここにきた理由を思い出す。
発言した能力を使い、魔族と戦う事。
そして必ず復讐すること。




