留守番
焦りすぎた。
どこか得意になっていたんだろう。
もう少し敵の動きを観察するべきだった。
「すごいな。まだ息があるのか?」
誰だ……?
確かめるために、思いっきり目を開こうとする。しかし、通常よりも視界は狭くぼやけていて、声の主を確認できない。
「スラリムがさっき言ってたヤバい奴ってお前だろ?そうだろ?でも、俺には勝てなかったってことだ!クケェ!」
きっとこの声の主が、シュウ君の復讐したい相手なんだろう。
見たい。でも、首を動かせない。
どうなってるんだ?僕の体。
腕は、足は……ついてる。
下を向き気味の視界に、腕や足が確認できた。
そこから自分が多分、爆風で木か何かに叩きつけられ、もたれて座っている状態なんじゃないかと推測できた。
ハハ……僕ってこんな時でも冷静なんだな。
「お前を泥人形にしたら、結構強いのできそうだな?ん?でも女じゃないからなー。微妙か?んー?まぁ、いいや」
何か、何かコイツを倒すためのヒントはないか?
ん……これは?
「死ねよ」
視界にベチョっと何かが付着した。
掌に感じた感触を確かめながら、僕の意識は途絶えた。
スラリムをやっとの思いで倒した僕とシュウ君。
しかし思った以上に僕の手は火傷し、かなり爛れていた。
さらに脳内麻薬が切れてきたのか、めちゃくちゃ痛くなってきた。
そのため飛空車内で、シュウ君とカイルさんに手の治療をしてもらいつつ、僕は電力の話と泥の奴のことを二人に話すことにした。
ちなみにブーシ君には、外で警戒してもらっている。
順を追って電力の話を終え、次に泥の奴の情報を話し始める。
すると案の定、シュウ君の目つきが鋭くなってきた。
それに気づいた僕は釘を指す。
「シュウ君。1人で突っ込むのはやめてほしい」
「……なんで俺がそんなことすんだよ?」
「うーん、まるで復讐する相手を見つけた時みたいな顔してたから」
僕の言葉に彼は驚く。
「もし僕の予想が当たっているなら、約束してほしい」
「……何だよ?」
「1人で倒そうとしないで。僕らに頼って、僕らで倒すんだ。仲間なんだから」
「……ああ」
どうだろうか?
僕の言葉は届いただろうか?
でも過去を話していない今のシュウ君には、これぐらいの言葉しか投げられない。
「何だかよく分からないが、αの言う通りだ。まぁ、さっきまでαを疑ってた俺が言えたことではないが」
首から上だけスーツをオフにしているカイルさんが、バツの悪そうな感じで頭を掻く。
「それよりαの情報が確かならかなり厄介だな」
「はい。敵の本体は常に隠れて行動して、表立って攻撃してくるのは、泥で作られた人形です」
「泥が材料なら、敵は無限に湧くのか?しかも爆発もするんだろ?……α、お前が見えた未来に倒す手がかりはないのか?」
僕は一つ、倒すヒントかもしれないものを掴んでいる。
しかし伝え方を間違えると、シュウ君が一人で突っ込む可能性がより上がる。
でもこれは彼にしか出来ない。
伝えないわけにもいかない。
仮に伝えなくても、自ら気づいたら先頭に立って、突っ込んでいくだろうから。
なら今伝えて、彼が突っ走る可能性を考慮した立ち回りを常にする方が、結果彼を孤立させないことが、できるのではないだろうか?
「……」
「おい、大丈夫か?」
相当難しい顔をしていたのか、シュウ君に心配された。
「ああ、うん……」
「何か策があるのか?」
「……明確ではないんですが、僕が見た未来では、シュウ君の能力で泥が硬く固まったんですよ」
「俺の?」
「うん。そして固まった泥は爆発しなかった」
僕が前回死んだ際、最後に手に握っていたのは固まった泥だった。
つまりあの時、固まった部分を奴は爆発させれなかった可能性が高い。
もちろん爆発させなかった可能性もあるが、固まった部分だけを残す理由が僕には思いつかない。
なら固まった泥は爆発させれない、この可能性に賭けるのが、今の僕らには1番いいのではないかと思う。
「つまり、俺の能力が奴を殺す天敵ってことだな」
そう言ったシュウ君の口元は少し吊り上がっており、目は真っ直ぐに自分の両手を見ていた。
「……あ―」
「だからこそ分かるなβ。お前には、いざという時まで後ろに控えていてもらう」
僕と同じく彼の表情に、何かヤバいものを感じたであろうカイルさんが、彼の肩に手を置きながらそう言った。
そして言われた彼はカイルさんと目を合わせながら、ああと呟いた。
僕はその様子を見ながら、他にも色々言いたいことがあるはずなんだけど、言葉にできないでいた。
「はぁ、はぁ」
「呼吸が荒いな」
カイルさんが僕の額に手を当てる。
「熱がありそうだな」
「いや、大丈夫ですよ」
そう言って無理やり立ち上がった僕は、よろけてしまう。
「ほらみろ。座ってろ」
カイルさんは僕を座らせると、薬を黒いバックから取り出し、水と一緒に渡してきた。
「飲め。熱が抑えれるはずだ」
「ありがとうございます」
僕は貰った薬を水で胃に流し込む。
「あと、これを打つ。腕をかせ」
「それは?」
「鎮静剤の類だ。楽になる」
えっ。
「今寝るわけには―」
「今寝ないでいつ寝るんだ?」
「僕も一緒に戦います」
「もうお前は十分戦った。今は休め」
「でも―」
「その状態で着いてこられても迷惑だ」
その言葉に僕は黙ってしまう。
確かにこの手じゃ箸も掴めない。
「泥の奴は俺たちに任せろ」
「僕が回復するまで待つと言うのは?」
「俺たちには時間がない。分かってるだろ?」
何を言い返すべきか分からず、僕は押し黙る。
正直この手の状況じゃ、足手纏いになると思う。
けど、けどこれだけチャンスの場面で自分だけ安静にしてろっていうのは、それはそれであんまりではないか?
「何か、何か後方支援とか―」
「俺はお前の地下の電力の話、そして泥の奴の話も信じる。その上でこの先の行動を決める。だからお前も俺たちを信じて休め。もしこれ以上何か言うなら、それは俺たちを信頼していないのと同義だ。分かるな?」
そんな風に言われたら、何も言い返せないよ。
「……分かりました。打ってください。ただ、僕が寝てる間も見張りとかはつけなくていいです。ちゃんと3人で行ってください」
「……分かった」
カイルさんのことだ、ブーシ君を見張りに置いていく気だったのだろう。
確かにその方が心強いが、最悪僕は逃げればいい。
今は全力であの敵を倒すことだけを、考えてくれた方がありがたい。
そしてブーシ君を混ぜた4人での話し合いの結果、飛空車は近くの建物へ移動することになり、その中で僕は鎮静剤を打たれ休むことになった。
「ブーシ君、カイルさん。シュウ君を頼みます」
「ああ」
「分かった」
二人が先に飛空車を出ていく。
「シュウ君」
「……」
「無茶はしないでよ」
彼は僕の言葉に足を止めず、背中を向けたまま、手を振って答えた。
それはあまりいい答えではない気がして、もう一言声をかけようかと思った。
けどやめた。
なんか、恋人を呼び止めるみたいな感じがして、小っ恥ずかしくなったから。
そして3人を見送った僕は、寝るには少し硬い椅子の上に横になり、次はスラリムを負傷せずに倒さないとな。火傷は避けないと。など色々考えながら、眠りに落ちていった。




