まだ死にたくない
さっきまで俺の中にあった母親に対する罪の意識を、復讐という沸騰した血の騒ぎが
掻き消していく。
そして体は目の前の敵に対して、自ずと走り出していた。
「シュウくうぅん!」
αの言葉に足を止めることなく、俺は目の前の髪の長い女の腕に触れ発火させる。
「いやあああ!アツいいい!」
彼女は暴れるように、腕や足を俺に向かって振ってくる。
が、なんの武術の心得もないような動きは、容易にかわすことができた。
そしてその際に、さらに体に触れ発火をさせていく。
「ぬぅわあああああ!」
全身に炎が回った敵を見ていると、近くのもう一人が俺に向かって突っ込んできた。
「助けでえええ!」
が、そいつの体は急に縦に二つに割れ
、泥になり崩れ落ちた。
「うがあ」
それ以外のこちらに接近してきていた敵も、銃撃を受けているのが窺えた。
「うびぇ」
「どわうふ」
そのどれもが、ある程度体を損傷すると泥になって崩れていく。
しかし俺の燃やした女は違った。
体がある程度縮まるように小さくなり、硬く固まって液状になることはなかった。
何故かは気になったが、深く考えるほど俺は冷静ではなかった。
近くに敵がいなくなった俺は、入り口を塞いでいる奴らを一人一人燃やすことに決めた。
コイツらは雑魚だ。
本体、本体はどこだ?
殺してやる!
「待って!」
俺の目の前に両腕を広げ、立ち塞がったのはαだった。
「どけ」
「一旦冷静になってよ!」
「俺は冷静だろ。敵を殺してるだけだ」
自分でもわかるほど、俺の声は冷たさを感じさせた。
「戻ってこいα!β!塀の上にも敵が登ってきている!」
カイルの言う通り塀の上を見ると、何人かの女性が立っていた。
「一旦この場を離れよう」
「だから俺だろ。俺が道を切り開いてやる」
「……」
「どけ」
αの肩に手をかけた時、その手を彼は強く握ってきた。
「分かった」
そう一言言った彼は、次にカイルたちにも聞こえる声量で続けた。
「僕たちが道を作ります!その間に飛空車の移動をお願いします!」
「な、何言ってん―」
動揺するカイルの言葉を遮り彼は続ける。
「大丈夫です。さっきも僕たちは生き残った。カイルさんが僕たちを、守り抜かなければいけないことは分かっています」
「なら―」
「だからこそ!だからこそ今飛空車を失うわけにはいかない。思い出したことがあります。公園の地下、そこに電気が通っている」
αの言葉に俺たちは戸惑う。
「今は僕の言葉を全面的に信じてください!」
「早く行動を起こすべきだ!数がどんどん増えている!」
ブーシが自分たちの近くの塀の上にいる敵を、見えない斬撃で倒しながら言った。
「僕は公園の地下への道を知っている!だからそちらは飛空車を隠した後、ブーシ君に案内してもらってください!そこで落ち合いましょう!」
そう言ったαは入り口の方に振り返り、銃を撃ち始めた。
「援護するから、シュウ君は近づいてやっつけて」
「……ああ」
俺は入り口を塞ぐ敵の列を、端から倒すことに決めた。
とりあえず飛空車を逃がす道を、作りやすいと思ったからだ。
コイツらの動きは鈍い。
あっちの端にいる奴が、こっちに来るのに時間がかかるだろうと俺は踏んだ。
だから端からだ!
「待て!」
カイルの制止を振り切り、走り出した俺は大声で言ってやった。
「テメェが早くしないと俺らが死ぬぞ!」
俺は一番端の敵に突っ込む。
すると敵は俺の動きに反応し、右の拳を放ってきた。
俺はそれをタックルの要領で避けつつ、右足、右脇腹、背中と順に触れ発火させていき、最後に喚く面を掴み倒し発火させ沈黙させた。
さらに近づいてきたもう一人も、同じ容量で複数回に分け触れ沈黙させる。
その間αは俺が一対一の状況を作れるように、敵を自らに引きつけたり、銃でこちらのアシストをしてくれていた。
ブッブウ!
音の方に目をやると、飛空車がライトを点滅させていた。
準備OKってことか。
同時に飛空車に近寄る敵を、ブーシが応戦していることも確認した。
塀の上から来た奴らは、ブーシだけで十分だな。
俺はさらにギアを上げ、一体二体とツッパリの連打で発火させ倒していく。
「シュウ君!」
αの声に目をやると、俺の後方を指刺していた。
気づくと飛空車が通れるほどの幅は、十分に確保できていたようだ。
ブッブウ!
先ほどと同じくクラクションの音が響くと、飛空車は急発進し、俺の後方を抜けエネスタを出て行った。
よし、これでうるさいのが一人減った。
「僕らも行くよ!」
俺の方に駆け寄ってきたαはそう言ったが、俺は無視して残っている敵を殲滅するため横を抜ける。
しかし強い力で腕を掴まれ、引き止められた。
「離せよ、痛いだろ」
「嫌だよ、退散するよ」
「邪魔するならお前でも―」
俺の言葉を無視して俺を抱え上げたαは、エネスタから見えていた、道路の向こう側の細い歩道に移動した。
「ある程度敵を引きつけつつ、飛空車を追われないように逃げるよ」
「テメェ―」
「敵の本体がどこにいるか分からないけど、コイツらを近くにいなきゃ操らないなら、少なくともコイツらに飛空車は追えない」
「だったら全部倒せばいいだろ!」
俺はαの肩の上で子供のように暴れる。
「暴れないでよ。僕はまだ死にたくない」
俺はその言葉に目を見開く。
「シュウ君がなんで暴走してるかは分からないけれど、あれの親玉を倒したいのなら、あんな周りの雑魚相手にしてても意味がない。だから冷静になって態勢を立て直さないとダメだよ。じゃないとやられる」
「……」
「僕の言ってることが分からないほど、周りが見えてないわけじゃないでしょ?」
α……あーもう。
「分かったよ」
死にたくないか……俺もそう言ったっけな。
「分かってくれた?」
「ああ……だから降ろせ」
「それはダメ。この方が対処しやすいから」
「おい!俺は足手纏いか?」
「少なくとも逃げるってことにおいてはね」
「……やっぱ全滅させに行くわ」
「ごめん。冗談だよ、えっへへ」
なんなんだコイツ。
最初はナヨナヨしてると思ってたのに、今じゃなんかおんぶに抱っこって感じだ。
「助けでええ!」
「とりあえず、コイツらを引きつけつつ適当なとこで撒く。それから公園で二人と合流しよう」
俺たちは敵をを引きつけつつ移動を開始する。
後方は抱えられている俺が確認していくことになった。
体の向き的に。
「なぁ」
「何?」
「何で公園の地下に電気があるって分かったんだ?」
「……見えたんだ。蛍光灯の点滅が」
「ふーん」
変わったものも見えるんだな。
「僕も聞いていい?」
「何を?」
「さっきの取り乱した理由」
「……」
「いや、別に無理にとは―」
「いいよ。別に隠すほどじゃない。けど…」
「けど?」
「気持ちのいい話じゃないぜ」
さっきより少しは冷静になった頭で、俺は自分の過去をαに打ち明けた。




