エネスタにて
「どうだ?」
「ダメだな。残ってないぜ」
「すまぬ」
「気にすることじゃない。どちらにせよ取るべき行動だった」
僕らはブーシ君の案内で、近い方のエネスタに来ていた。
不幸中の幸いか、道中敵の攻撃はなく、無事ここまで辿り着くことができた。
さらにこのエネスタ中々大きく、三方を3m程の塀で囲んでおり、おかげで奥の角の方に駐車することで、射線を切りやすく視界の確保もできた。
しかし幸いもここまでで、肝心のエネルギーは貯蓄されてはいなかった。
「もう一つの方のエネスタに向かうか?」
「いや、ここに残っていなかったのなら、向こう側も可能性は低いだろう」
三人がエネルギーのことに気を取られている中、僕はあることに気が気じゃなくなっていた。
いつからだろう。
数字だ。
空の数字がいつの間にか変わっていた。
995。
現在僕の目には、空に刻印された数字がそう見えている。
何で減ってるんだ……?
「だけどよ、どちらにしろ他に試せることってなくないか?」
「……ブーシ、もう一つの方へはここからどのぐらいだ?」
「車で移動するなら、10分とかからない。近くの大きな公園を回り込めば最短で着く」
大きな公園!
「公園には、近づかない方がいい気がする」
「どうしてだ?まさか、何か見えたか?」
カイルさんに問われる。
「いえ、そういうわけでは……」
あそこに敵がいた確証はない。
でも僕を殺したカイルさんが、目の前のカイルさんだとも思えない。
なら、やっぱりあそこに敵がいて、カイルさんの姿に化けて僕を殺したと考えるのが妥当か……。
「α。考えがあるのなら言ってくれ。さっきの握手で、全てを水に流すのは無理だと思うが……お前のアイデアも必要だ」
カイルさん……。
「未来が見えた、とは違うんですが、その公園の中に、姿を変える魔物がいると思います」
「姿を変える?」
「それって、俺たちに化けれるってことか?」
「いや、姿を変えれるってのは予想の話で、その、えと」
ああ、どうしよう?
偽物のカイルさんに殺されたって言おうか?
でもそれだと、何で偽物って分かるんだって話になるよね。
そしたら確信的なことはやっぱり言えないし。
それによく考えたら、あのカイルさんは本物で、操られていたパターンもあるのか!
「……ほ、本当に詳しくは分からないんですけど、でも敵が―」
「分かった」
カイルさんはそう言うと、僕の肩に手を置いた。
「なら、まずは公園の敵を叩く」
「カイルさん!」
「とにかく敵がいるんだろ?」
「はい、それは確かです」
不思議と声が弾んだ。
「よし。問題は飛空車をどうするかだ」
「バリア張って、あそこのガレージに隠しとけばどうだ?」
シュウ君は向かいにある、一軒家のガレージを指差す。
「そうだな。あそこに一旦隠そう。もっとも、今敵に見られていたら意味ないがな」
「カイルって、何でそんなネガティブなんだ?」
「……慎重なだけだ。移動させるぞ」
カイルさんがそう言った時だった。
「あの、すいません」
エネスタの入り口。壁の角から、顔だけひょっこりと覗かせている、女性が声をかけてきた。
「助けて、ください。魔物に、襲われて」
おかしい。これは明らかにおかしい。
僕ら以外人間がいるわけない。
「……おい、おかしいぞ」
後ろ側にいるブーシ君が声に出す。
「ああ、人間が俺たち以外いるわけない」
僕の横でカイルさんがそう答える。
「いや違う!そんなことは分かりきっている。我はβの様子が変だと言っている!」
僕とカイルさんは軽く振り返り、ブーシ君の隣に立つシュウ君を見る。
彼の目は見開かれ、額からは尋常ではない汗が流れ、呼吸が浅く激しくなっている。
「β!」
「シュウ君!」
「な、何で……」
まるで僕たちの声は、彼には届いていないようだった。
それどころか、その視界にも僕たちはなく、壁の角にいる女性しか捉えていないように思えた。
「おい、どうした!」
「そんなわけないそんなわけない」
「落ち着けβ!」
「おい来てるぞ!」
後ろを向いていた僕とカイルさんに、ブーシ君が彼女の接近を知らせる。
ペタペタとコンクリを裸足で歩き、ゆったりとふらつきながらも、右手で僕らを求めるように歩いてくる。
「近づくな!」
「待て!」
銃を構えるカイルさんに、シュウ君が声を荒げる。
「安心しろ、あれは人間じゃない。仮に人間だったとしても俺が責任を―」
「違うそうじゃない!俺の母さんなんだ!」
苦しそうに吐いた彼の言葉に、僕らは驚く。
「な、何でお前の母親がここにいる!?いるわけないだろ!」
「いるわけない、いるわけないんだ!母さんは死んでる!」
カイルさんの言葉に被せるように、大きな声で喋った彼は、急に口に手を当て蹲ってしまう。
その様子に僕は咄嗟に駆け寄った。
「大丈夫!?」
「α。それどころではないぞ」
シュウ君の背中に手を当てている僕に、ブーシ君は緊張のこもった小さな声で言う。
「見ろ」
その言葉に振り向くと、エネスタの入り口の両角から、次々と女性がよたよたと歩きでてきていた。
しかしその人達はこちらに来ると言うより、入り口を塞ぎ立つように、綺麗に横一列に整列を始めている。
「β。悪いな」
そう言ったカイルさんは、迫ってきていたシュウ君の母親?に向け一発発砲した。
それは見事に胸の真ん中を撃ち抜き、血飛沫の代わりに泥を飛び散らせた。
「泥……だと」
その様子を四つん這いになって見ていたシュウ君が呟く。
「やめて、撃た―」
そう口を開いた彼女に、カイルさんは反動の少ない、小さな弾を撃ち込んでいく。
「うだ、うだないびえぇぇぇ!」
断末魔の叫びが終わる頃には、泥の水溜りが彼女のいた場所にできていた。
「……まずいな、入り口を塞がれた」
「それだけではない。数人こちらに来だしたぞ」
現状への対処が遅れたことを、二人の言動が物語っていた。
しかしそれをどうするか、議論する時間は無かった。
なぜならさっきまで意気消沈していたはずのシュウ君が、カイルさんの横を駆け抜け、迫ってくる敵に対し突っ込んでいったからだった。
「シュウ君!」
「お前らは俺が殺す俺が殺す!」
なんだ、どうしたんだよ!
「シュウくうぅん!」




