前回の命
「お前は馬鹿な奴だあああああ!」
奴は両腕に飛空車に向け構えた。
「ふみゃは構えなくてもチャージできんだよおお!あの車をぶっ飛ばしてやるうう!」
奴の言葉は、僕を焦らすには充分だった。
今回はまだ飛空車を破壊されていない。
つまり最終的な撤退が、現実味があるということだ。
仮にこの町の中の敵を全滅させれても、敵の増援や助けが来ないなどの展開を考慮したら、そもそも飛空車が命綱なのは明白。
ここまでどれだけ繋いできたと思ってるんだ!
それだけは阻止しなければならない!
僕は一気に距離を詰めつつ、銃で奴の両腕を数発撃ち抜く。
そのまま蹴りを入れ奴を壁に追いやり、銃で足から蜂の巣にしていく。
せっかくここまできたんだ!
同じことをなぞるように!
「おみゃえは、ふみゃの体より青いな」
「なにっ?」
「ふみゃはチャージなんてしてみゃいよバーカ」
奴は僕が体を壊し切るタイミングを見計らい、嘲りを含んだセリフを吐いた。
飛び散った破片が今度は壁や床をつたい、四方八方に動いていく。
しまった!
……まさか、まさかこれは!
「逃げる気か!」
その予感は的中したようで、奴はその後僕らの前で蘇生することはなかった。
もちろん逃げる破片を更に撃ったが、破片がさらに細かい破片になるだけで、まるで効果は無かった。
「アイツはどこいった?」
スラリムの開けた穴を覗く感じで、シュウ君が上から声をかけてきた。
「ごめん、逃した」
「マジか?」
「ごめん。せっかく作戦を立てたのに」
そう、一度やられたからこそ立てれた作戦。
正直この後のことが何も考えられない。
同じ行動や言動をなぞる作業なんて、何度もしたくない!
すごい疲れるんだ、これは……。
そもそも、これ以上死にたくない。
「まぁ、しょうがないだろ。それより俺を迎えにきてくれ。こっからじゃ降りられない」
「分かった」
僕はひとっ飛びで、シュウ君の居る階の手すりに手をかけよじ登る。
「やっぱすごいな」
「そう?」
「と言うか、冷静に考えると、お前ここから飛べって言ってんだよな」
「まぁ、そうなるね」
「無理じゃね?」
「大丈夫だと思う。衝撃は僕と、奴の衝撃を逃しそうな体が抑えてくれると思うから。多分」
「多分じゃねぇよ!」
スラリムの体は、かなりプルルンとしていたからいけると思うんだけどな。
「それより、上の敵はどうなったかな?」
「そう言えば、なんか死体が降ってきてたな。あの二人がやってくれたのか?」
「うん。さっきから静かだし、敵の姿もここからじゃもう確認できない。とりあえず飛空車の近くに戻ろう。アレがないと敵を倒しても帰れないよ」
「ああ、そうだな。だけど、ひとつ聞いていいか?」
「ん?」
「何で奴の行動をこんなに予測できたんだ?」
「それは未来を―」
「じゃあ何で逃した?」
僕は言葉に詰まった。
戦いの最中、僕はほとんど攻撃のダメージを最小限にしていた。
落下するのだって、思いついた作戦のための演出で、今回はシュウ君を優しく投げ入れたし、僕自身は受け身も取れた。
これだけ細かくやっていながら逃した。
まて、これって見方によったら、見逃したと思われてもおかしくないないんじゃないか?
もしシュウ君まで僕を疑い出したら……。
僕が黙っているとシュウ君は急に、皺の寄った眉間にデコピンをかましてきた。
「イタッ」
「まぁ、いいや。お前の言った通り敵はいたし、作戦も途中までは上手くいってたってことだもんな」
「シュウ君」
「俺はお前が敵だなんて思わない。きっと俺には説明しずらい能力なんだろ?ん?」
彼は笑顔で小首をかしげる。
ああ。この人は。
「ほら、早く俺を抱えろ。降りるぞ」
「うん」
飛空車の近くに立っていた僕たちの元に、カイルさんとブーシ君が合流した。
「もう終わったんですか?」
「ああ」
「何で天井があるのに、アイツらは現れたんだ?」
「あいつら、丁寧に部屋のドアを開けて出てきていたぞ」
「は?」
シュウ君と声がハモった。
「すごくシュールな光景だったな」
そりゃ確かにシュールだ。
「さて、一時は難を逃れた形だが。α、俺はまだお前を信じれることはできない」
「おいお前―」
掴みかかろうとするシュウ君をブーシ君が手で制す。
「だが、これも俺の勘だが、敵ではないとも今は思う。ただしやはりお前には違和感を何か感じる。何と言うか事前の資料やイメージが、今のお前の戦闘や先程の言動とそぐわない。しかしこれは俺の感性の話だ」
そう言った彼は握手を求めてくる。
「さっきの言動はお前を侮辱する行為だった。すまない」
「いや、僕のほうこそ、無茶苦茶な言い方だったと思います」
いざこうして謝られると、なんか胸がくすぐったい。
「そういえば何で二人は上にいたんだ?」
「とりあえず戦況を見るためだ。たまたま上に敵が出てきた時には驚いたがな。α、お前はあとどこまで見えてる?」
う。
「ごめんなさい……ここから先は分かりません」
「そうか?何か条件があるのか?」
「多分……もしかしたら寝ることが条件かも知れません」
和解の握手をした直後に嘘をつくのは、少しくるものがある。
しかし死んで過去に戻ってやり直してる、とは言えない以上しょうがない。
「なるほどな。まぁ今はそのことについてはいいか。それよりこれからどうするかだ」
「あの、カイルさん」
「何だ?」
「バリアが張れるなら、バリアを張ったまま走らせられないんですか?」
素朴な疑問を彼に投げかける。
「出来なくはない。が、飛行高度は低くなりスピードも遅くなる。だから張りながらの運用は短距離に限られる。エネルギーもかかるしな。現状ではその行動はよろしくないだろう」
「なるほど」
まぁ、張りながら飛行できるならとっくにやってるか。
「しかもさっきの攻撃でエネルギーはかなり消耗した。エネルギーをチャージしなければ、普通にここから帰ることもできないだろう」
「そんなっ」
「そのエネルギーってのは、何か特殊なものなのか?」
シュウ君が問いかける。
「いや、一般的な車両と同じく電力で動いている」
「なら、この町にもエネスタぐらいあるんじゃないか?そこに行けば」
「いや、仮にあったとしても、この町への電力供給は今はしていない」
「なら蓄えらてる分とかは」
僕も考えを発言する。
確かエネスタ。エネルギースタンドには、車両や機械類に電力を、一気に供給できるように、ある程度電力が蓄えられていたはず。
「……それがどれだけ残っているかか……。ブーシ、この町のエネスタはどこにある?」
「二箇所。ここの近くと、町の正反対に」
カイルさんは少し俯き、顎に手を添える。
「そもそもエネスタ自体が壊されている可能性もある。今は、無駄骨になるようなことは、避けなければならない、が……」
「我はこの町から、退避する時の景色を覚えている。ここに来るまでに、車内から少し確認できた感じでは、窓が割れていたり、ヒビの入っている建物や道路も見えた。ゴーストタウン特有の雰囲気のようなものも感じた。だが、同時に懐かしい景色でもあった」
僕ら三人を見渡しながら話していたブーシ君。今度はカイルさんの目を見ながら、さらに続ける。
「町の向こう側は分からないが、この付近なら、魔物も手を加えていないのではないかと。現にこの大きな建物すら、崩されていなかった」
「……」
「敵を撃退した今、動くなら今ではないか?」
「……ここからどれだけかかる?」
「10分ほど」
少しの沈黙の後、カイルさんは決断した。
「分かった。皆飛空車に乗り込め。エネスタを目指す。どのみちコイツを動かさないことには、帰れないしな」




