信じてくれ
「今すぐ自動操縦を切ってください!目的地はもう過ぎてる!」
いきなり声を荒げた僕に、3人はキョトンとしていた。
「早く!運転席を確認して!」
不審な顔をしながらも、カイルさんは運転席に向かってくれた。
「どうしたんだよ?」
「シュウ君!僕はっ―」
時を巻き戻ってる!
ハッ、言えない!
まるで首を絞められたかのように、口から言葉を出せない……。
そうだ、確か前回も言えなかった!
「おい、大丈―」
「α!いつからだ?」
ブーシくんの心配な声を遮り、カイルさんが声を荒げた。
「いつから異変に気づいたんだ!」
カイルさんはハンドルを握り、急降下を始めた。
「お前ら舌噛むなよ!」
ほぼ直角に降下する飛空車の中、僕は思考を巡らす。
どうする?思い出せ!考えろ!
最初は目的地が違うことに気づかず、ゼンよりもさらに奥の地域まで進み、飛空車を落とされて脱出後数時間で死亡。
二度目は引き返して、魔物の大群と鉢合わせてまた墜落。
前回は…………カイルさんに……。
ガタン!
地面に一度車体は擦られ、低空飛行に入った。
「お前らシートベルを外して、頭上の棚を開けろ」
目の前の町に向かって、運転する彼はそう言った。
「敵が周りにいる可能性がある」
どうする?
カイルさんは何故、僕を殺したんだ?
思い出すんだ。
ハシゴを降りた後、部屋の中へ肩を借りて案内された。
その後部屋の中の感想や、これからの事について会話をしたのを覚えている。
そして確かあそこを見てくれと言われ視線を誘導され、何を見て欲しいか分からなかった僕は、少し身を乗り出したんだ。
その時肩に回していた手を払いのけられ、バランスを崩した時に僕は刺されたんだ。
そう、刺された。
カイルさんはあんな剣、持っていなかったはず。
地下で手に入れた?
銃で殺さなかったのは音を出さないため?
でも殺す機会なんて、それまでも多々あったは―
「おい、大丈夫か?」
「はっ」
何もせず座っていた僕に、声をかけてきたのはブーシ君だった。
「顔色が悪いぞ」
「ほらみろ。αだって引き返した方がいいと思ってんだ」
「いや!」
「え?」
「それはダメだよ。絶対に……」
「αも俺の意見に賛成らしいぞ?」
僕は車がゼンに入るのを、窓越しに確認した。
「それにもう遅い。町中だ。覚悟を決めてくれ。俺が責任を持ってお前らを守る。命に替えても」
このカイルさんが僕を殺す?
「βには悪いが、故郷を取り返すチャンス。我はもう」
いや、ありえない。ないと信じたい。
「……俺はまだ死にたくないぞ」
「俺がお前らを死なせない。絶対に。α、お前も突っ立ってないで早く装備をつけろ」
僕は一旦彼の言葉に従い、ヘルメットとベストを装着しつつ思考を巡らせる。
もう時間がない。
まずはあの建物に、また車を止めさせるべきかどうかだ。
止めたらきっと、またあの化け物と戦う事になる。
だけど戦わなければどうせ生き残れない。
むしろ今なら、居場所を知っているこっちが有利なんじゃ?
ああ、時間がない。
「なあ、本当に大丈―」
僕はシュウ君の心配を遮り声を出す。
「みんな、これからあの建物の中にいる化け物の情報を教えるから聞いて」
僕のその言葉に、皆キョトンとした顔をする。
「なに―」
「分かってる。僕はカイルさんがあの建物に車を止めることも。そこに敵がいることも」
切り出したはいいものの、どうすれば、どうすれば信用してもらえる?
……そうか。これならどうだ?
「僕には少し先の未来が見える」
シュウ君、そんなに怪訝そうに見ないでよ。
「嘘じゃないよ。さっき目的地を過ぎたのに気付いたのは偶然じゃない」
前を確認すると、建物は目前に迫っていた。
「だからカイルさんはそのまま、ビルのエントランスに侵入してください。思ってた通りに」
彼は僕の言葉の真偽を考えているのだろう、険しい顔つきをしながら前に向き直った。
頼む、信じてくれ!
そして思いは通じたようで、車はそのままエントランスに侵入して停車した。
よかった!ここからだ。
内心喜ぶ僕に対し彼は、運転席に座ったまま体を反身に向け、眉間に皺をつくりながら言ってきた。
「信じた。と言うよりこのまま走らせる気がなかったと言う方が正しいな。それより未来が見えるなら、どこまでどんな風に見える?」
今詳しく説明する時間はない。
「それよりも、少ししたら敵の攻撃が始まります。だから早く降りましょう」
「待て、俺はまだお前を信用していないぞ」
カイルさん!
「でもっ、車内でゆっくりはできない!敵は左側の5か6階の廊下から攻撃をしてくる。僕は見えた!」
「お前は本当にαか?」
な、何言ってんだ!
「それはどういう―」
「ほんの少しだ。ほんの少ししかお前とは行動していない。しかし俺の経験から、お前がさっきまでとは別人のように感じてならない」
「そんなっ」
「まずさっきまでお前は寝ていた。なのに急に叫んだかと思えば、目的地が過ぎていることを知っていた」
「それは―」
「未来が見えるなら、お前が俺に初めて会った時、あんなに驚いたりはしなかったはずだ。なあ、今俺はこう考えている」
そう言ったカイルさんはこちらに向かって歩いてきて、僕の目の前に立った。
「お前は俺の意見に同調するフリをして、この町にこの場所に、俺を誘導してたんじゃないかって」
なっ!
「何馬鹿なこと言ってんですか!なんで僕がそんなこと―」
「決まってる。お前が敵側なら俺を利用した方が都合がいいからだ」
「ちょっと待てよ。流石にそれは考え過ぎじゃないか?」
助け舟を出してくれたのはシュウ君。
「β、ブーシ。こいつがぼーっとしてたの見てたろ?」
カイルさんは振り返り2人に確認を取る。
2人はゆっくりと首を縦に振る。
「昔俺が戦った中に、仲間との連携にテレパシーを使う敵がいた」
「まさか、僕がそんなことするわけないでしょ!」
「なら証明して見せろ。お前が敵じゃないと」
「どうや―」
「俺は敵に背中を撃たせる気は―」
ドゴオオオオオォォォン!
轟音と共に車内が激しい揺れに襲われた。
あまりの揺れの激しさに、僕らは全員壁や床に叩きつけられる。
「いってえ」
「お前ら、大丈夫か?」
「ああ、なんとか」
「我も無事だ」
「僕も、大丈夫です」
一瞬何が起きたか理解できなかったが、敵の攻撃が始まったと僕はすぐに思い至る。
「ほら!攻撃が始まりました!僕のことを信じてください!」
「おい、随分嬉しそうだな?」
えっ?
「そんなこと」
言われて気づいたが、確かにそう見えるような感じで言った気もする。
「カイル。攻撃されたのは事実だろ?このままじゃ」
「確かにな」
シュウ君の言葉に同意したカイルさんは立ち上がる。すると意図せず僕を見下ろす形になった。
「だが俺はこうも考える。攻撃が始まったのはお前が疑われたから、誘導に失敗したからだと」
「いい加減にしろよカイル!」
シュウ君がカイルさんに突っかかり、壁まで押しやる。
「てめぇ、仲間を疑い過ぎだろ。さっきお前言ったよな。命に替えても守るって。このままだとお前のせいでみんな死ぬぞ」
「落ち着けよ。さっきバリアを起動させた。今ぐらいの攻撃なら、後2.3発は耐えられるだろう」
シュウ君を払い除けると、彼は僕を引っ張り立たせて言った。
「お前が敵を倒してこい」
僕は目を見開く。
「証明しろ。仲間であることを」




