飛空車
下を適度に確認しながら、我はハシゴを降り切った。
振り向くとあの頃と変わらず5.6歩ぐらいの距離に扉が一つあり、壁には大小のバルブが多く目に入った。
懐かしい。
べちゃ、べちゃ。
昔この公園が噴水やらミストを多用していた名残がこの部屋だと、友達から聞いたのを思い出した。
そして部屋の中は使われなくなった計器類やモニターなどが完備され、公園の水量や様子を確認できる場所になっているはず。
子供の頃よく忍び込んでは、お菓子を食べたり、オペレーターごっこをやったな。
我はそんな思い出に浸りつつ扉を開けた。
「何だ。もう降りてきたのか」
切れかけの電光が射す薄暗い部屋の中、背を向けたままそう言ってきたのはカイルだった。
そしてその彼の肩越しに、αの顔を確認した。
その目は見開かれ瞬きをしていない。
何かが体の中で信号を発した。
「α、どうした?」
自分でも分かる恐怖を含んだ声を出す。
背筋がゾクゾクし、心拍数が上がる。
足を怪我したαが自分より背の高い彼の肩越しに、なぜ首まではっきり確認できるのか?
そしてカイルは両手で何をしているのか?
我の中の想像が、恐怖を増幅させていく。
「おい!」
ぬちゃあ。
ねちっこい音を出しながら、カイルは両手をだらんとした。
すると解放されたのか、αは床の泥の上にびちゃんと人形のように落ちた。
「なあ。俺、降りてこいって言ったっけ?」
両手をだらんとしたまま、ゆっくりと彼は顔から振り返ってくる。
なぜか顔の部分だけスーツを解除していた彼の顔は、あまりにも無表情で不気味に思えた。
その右手には血の滴る剣が握られていた。
我の想像は現実だと実感した。
「カイルゥゥ!」
自分を鼓舞する為に短く叫び残刀を構える。
「どうした?」
「どうしたではない!何をやっている!」
「何って?ねぇ?分かるだろ?なあ!?」
一気に間合いを詰めて剣を振ってきたカイルに、我は応戦する。
鍔迫り合い。
「なぜこんなことを!」
「うーん。趣味?」
すごい力だ。
押し負けるっ。
キンっと剣を何とか弾き、一旦距離を取る。
「俺さ、好きなんだよ。人殺すの」
後ろは廊下。
下がれば袋小路。
もう下がれん。
「お前もさ、死んでくれよ」
我は刀を鞘に収め、体勢を少し低くする。
すー、はー。
「死ね」
突っ込んでくるカイルに、我は刀を一閃引き抜いた。
「なん……だと」
驚いた顔で固まったカイルは、腰から肩にかけて斜めに切り裂かれた。
しかし彼以上に我は驚いてた。
なぜなら床に落ちた彼の上半身が、泥となり崩れ落ちたからだ。
それから立っていた下半身も、どろどろと泥になり床に広がった。
「……どういうことだ?」
思考を巡らせようとした時、背後にドサっと何かが落下する音が聞こえた。
ビクッと振り返る。
それはお腹に大きな穴を開けたβだった。
「あ、ああ、ベーターあああ!」
そして続けざまにまた何か降ってきた。
それは先ほどの青い化け物だった。
「ふみゃふみゃってか〜?」
笑みのように空いた口から、少し間の抜けた声を出して、我に手を向けてきた。
あれはっ―。
バーン!
咄嗟に身をかわし、頭から床に伏せた。
手から玉を打つのは、さっきの戦闘で確認していた。
危なかった!
「いいや、もうお前終わってるよ」
身を伏せていた我の耳元でそう声がする。
咄嗟に振り返ると、見覚えのない顔がそこにはあった。
「ばーん」
慌てて立ちあがろうとした次の瞬間、我の右半身は弾け飛んだ。
な、んだ?
耳をついた爆音と体の芯にまで響いた衝撃が、自分の体が爆発したものからくるものだと気づいた時には、我の魂はすでに体を離れる寸前だった。
「おいスラリム、危ないだろ。俺に当たったらどうするつもりだったんだ?」
「だからふみゃっただろぅ。本気出したらもうここ崩れてるって」
「まぁいいや。にしても久しぶりに人間殺せて楽しかったぜ。まぁでも、女がいなかったのは残念だ。あぁでも、あの足無しはいい顔で死んだな。また作って殺すかな。暇つぶしに……クケェ!」
我が最後に聞いたのは、そんな青と茶色の化け物同士の会話だった。
そして最後に我の目前に広がっていたのは、目の見開かれたαの顔だった。
意識が戻ってきた。
嘘だろ。
またか!
「寝ちゃダメだ!!」
僕は吐き気をもよおしながら、飛空車の中で産声を上げた。
なんなんだ!
頭が痛い!
でも、やっぱりそう言うことなのか?
本当に!?
ループしてるのか!?
僕は!!!




