第3話: 目覚め
イーサンは謎の少女に助けられ、異世界の村で目覚める。言葉が通じず、疑われる中、彼は新たな一歩を踏み出す。過去の罪は許されるのか?
悪夢が続いた。狭く暗い路地裏で、あの恐ろしい獣の叫び声が背後から追いかけてきた。決して俺に追いつかなかったが、その存在がすぐ近くにあるのが怖かった。
何が起こっているのかわからないまま、目を開ける衝動に駆られた。瞼をこじ開けると、部屋の中にいた。目には目やにやゴミがたまっていたが、木製の簡素な家具が並ぶ小さな部屋が見えた。
体を起こそうとしたが、全身が痛んだ。肋骨が肺を圧迫し、息をするのもつらく、骨は鉛の棒のように重かった。首を動かして周囲を見回すのがやっとだった。
埃だらけの窓から陽の光が差し込み、ガラスがないため風が吹き込んでいた。外からバラや花の香りが漂ってきた。
横には傷だらけの木の椅子。ついさっきまで誰かがいたようだ。
その証拠に、ベッドのそばのナイトテーブルには水が入ったボウルと、床に滴を落とす濡れた布があった。
地獄のような痛みと、胴体や腕を覆う包帯から、あの奇妙な獣との遭遇を生き延びたことがわかった。どうやって助かったのかはわからない。
生きているのが本当にいいことなのか、わからない。俺は全てを失った。もし世話をしてくれた人に金を払えと言われたら、完全に詰む。体がまともなら、夜にこっそり逃げ出すのに。もう誰かに借りを作るのは嫌だ。
いや…何を馬鹿なことを考えてる? 体のあざ以外に、頭も打ったらしい。
今考えるべきは、どこにいるのか知ることだ。もう謎や秘密はうんざりだ。
考えに沈んでいると、部屋の向こうから足音が響いた。ドアの枠に、オリーブ色の肌と茶色の髪の若い女が現れた。
「やあ、目が覚めたのじゃ!」 俺が意識を取り戻したことに驚き、彼女は近づいてきた。
*何を言ってる…?*
ベッドの端に腰掛け、彼女は俺の額に手を当てた。
「熱が下がった、よかったぞ。で、どう感じる?」
首を傾げた。彼女の言葉が全くわからなかった。ヨーロッパの言語か? いや、聞いたことのない響きだ。
最悪だ。助けてくれて金も払えないのに、言葉も通じないなんて。
どうすればいい? 質問しても理解できない。
彼女は俺をじっと見つめ、答えを待っているようだった。
「な、名前は…? ここはどこだ?」 とりあえず聞いてみた。
「え? 何を言ってるのじゃ?」
彼女は肩をすくめた。
話しても時間の無駄だと悟った。他の方法を考えなきゃ。でも、何だ?
理解できないことを伝えたくて、眉を上げ、首を振った。
彼女はさらに近づき、俺の頭を丁寧に調べた。
「う…頭を強く打ったのかの? たんこぶはないぞ…」
神よ、彼女の言葉がわからず苛立つ。
数分間、そんなやり取りが続いた。会話が無理だと気づき、彼女は手でジェスチャーを始めた。
慎重に、彼女は俺を起こし、包帯を優しく外した。乾いた血で汚れた布が、粘着テープのようにはがれた。ナイトテーブルの濡れた布で顔と胴を拭いてくれた。
正直、気まずかった。女に触られるのは初めてじゃないが、場違いな感じがした。知らない家で、言葉の通じない若い女に世話されるなんて。
状況が理解できない。
拭き終わると、彼女は俺をベッドに寝かせた。動くたびに骨が軋む。折れてはいないが、痛みはひどい。
彼女は何か言って去った。当然、わからなかった。
ただ微笑んで感謝を示した。
時間が過ぎ、天井の埃を数えながら、眠りに落ちた。
幸い、悪夢は見なかった。やっと穏やかな休息が得られた。
夜になった。
目を開けると、彼女がロウソクを灯して部屋を照らしていた。電気が通っていない村なのか?
「こんばんは、腹減ったか?」
肩をすくめた。
気まずく笑い、頭をかいて、彼女は質問が無意味だったと気づいた。
口元に手をやり、ちょっと面白いジェスチャーで意思を伝えようとした。
俺はうなずき、ようやく食べられると喜んだ。
彼女は部屋を出て、すぐに食べ物の入ったボウルを持って戻ってきた。
また俺を起こしてくれた。彼女はスプーンで食べさせようとしたが、断った。悪い気がしたし、過剰な優しさに戸惑った。こんな人がいるなんて信じられないが、度が過ぎる。
今までこんな扱いを受けたことがなく、変な感じだ。
自分でやらなきゃ。彼女より若いかもしれないのに、全部やってもらうのは嫌だ。
ボウルを手に持った。熱くて、素晴らしい匂い。肉、ジャガイモ、野菜のスープ。普段は怪しい中華やハンバーガー、ビールしか食べられなかったから、こんな食事は慣れていない。
スプーンでスープを飲んだ。まるで天国の味。ピリッとした甘さ、説明できないスパイスが舌を刺激した。
肉も食べた。鶏や牛とは違う、独特で美味しい味。
ボウルの全てを平らげ、残りのスープを水のよう飲み干した。彼女が見ているのに気づき、恥ずかしかったが、彼女は喜んでくれたようだ。
ボウルを返し、彼女は去った。
小さな虫と冷たい風が窓から入ってきた。よく見ると、ガラスがない窓は木の板で塞がれ、棒で支えられていた。
蚊が頭の周りでブンブン飛び、窓を閉めた。
風が止むと、下の階から声が聞こえた。彼女だけじゃなく、男たちの話し声。唾を飲み込んだ。今度は何が待ってる? 追い出されたらどうする?
彼女のような優しさは期待できない。
冷静でいられるのが不思議だ。誰も見返りなしで助けない。
油断しすぎた。借りが増える前に逃げるべきだ。
服がないので、彼女が戻るのを待って聞くしかない。ジェスチャーで何とか。
彼女が二人の男と戻ってきた。髭の生えた屈強な男と、俺と同い年くらいの若者。
父と兄だろう。
「ようやく目が覚めたか。」 男がため息をついた。
「うん…でも、言葉が通じない。変な言葉で話してきた。」 彼女が答えた。
「外人か? 見た目からここじゃねえってわかったぜ。」 若者が腕を組んだ。
くそ…どうすればいい?
何かについて議論してるみたいだ。
「こいつをどうする? 俺たちの言葉がわからねえ。知らねえ奴を世話できねえよ。」
「何かやらかして、土の精霊に食われかけたんだろ。」
「置いていくわけにもいかねえよ。」 彼女が口を挟んだ。
くそ、俺をどうするかで揉めてる。言葉がわからなくても、考えてることは読める。ここから出なきゃ。
先生に話したいと手を挙げる生徒のよう、俺は手を上げた。
彼女を見て、ジェスチャーで服の場所を聞こうとした。誰もわからなかった。兄は笑い、父は不機嫌そうに口を曲げ、すぐ去った。
視線を下げた。
*最悪だ。* と思った。
最初は助けてくれる人を探したが、今は逃げたい。どこにいるかわからないし、聞くこともできない。本当に最悪だ。
夜は議論で終わった。彼女は俺をベッドに寝かせ、気まずく笑って去った。
その後、眠れなかった。暗くなるのを待ち、皆が寝たら逃げようとしたが、立ち上がって数秒で膝をついた。声を抑え、じっとした。
また起きようとしたが、難しかった。あきらめてベッドに戻った。
小さく悪態をつき、立てるようになったらすぐ逃げると誓った。
我慢するしかない。
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数日が過ぎ、体が驚くほど回復した。彼女の世話のおかげだが、特に飲まされた不思議な液体のおかげだ。説明しにくいが、魔法のような輝きを放ち、粘り気のある質感だった。飲むと、喉に小さな粒が流れる感じ。子供の頃好きだった、舌を色づけるフルーツ味の粉を思い出した。
その液体を飲むと、いつも眠くなり、目覚めると体が軽く、傷が減っていた。
回復はさておき、気になることがある…
最初に目覚めた時、彼女たちの言葉が全くわからなかった。一言も。
なのに、最近、彼女の言うことが少しずつ理解できるようになった。怖いくらいだ。
突然、彼女の言葉が頭に響き始めた。最初は挨拶や別れの言葉だけだったが、すぐに完全な文になった。
これまでジェスチャーでやり取りしてきた。彼女は俺が理解できるようになったと知らない。
リマラという名の彼女は、決まった時間に食事を運んできたり、部屋を掃除したり、花瓶の花を替えたりする。
今は歩けるほど回復した。まだ手足が痛むが、最初に感じたコンクリートの壁のような痛みに比べればマシだ。
そろそろ立ち上がり、家族に感謝し、恩を返すために何かできるか聞く時だ。
リマラが来る。彼女は父と兄が一日中働いているから、ほとんど一人だ。今日、二人とも家にいるから、感謝を伝えられる。
「やあ、元気?」 ドアに現れ、リマラは元気に挨拶した。
俺がわからないふりをしても、彼女は自然に話しかけてくる。
今、それを変える。
唾を飲み、声帯を準備した。初めてこの言葉を話すが、昔から知っていたかのような感覚。
「え、元気…ありがとう。」 ぎこちなく呟いた。
リマラは驚き、叫び声を上げた。
「え、なに? 喋れるの?」 手を口に当て、目を大きく見開いた。
「うん…たぶん。」
シーツをどけ、ベッドの端に座った。
「世話してくれて、ありがとう。」
「いつから俺たちの言葉を話せるようになったの?」
「数日前から…でも、ちゃんと話せるか自信なかった。」
問題は、なぜ突然話せるようになったか説明することだ。
「マジ? いきなり答えたからびっくりしたよ。」
「ごめん。」 笑いながら立ち上がった。「そういえば、俺の服、返してもらえる?」
「うん、すぐ持ってくる!」
素早く行って戻り、布の袋からジーンズと古いブーツを出した。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう。」
よく見ると、ズボンは革で補修されていた。ポケットには小銭と地下鉄のカードが残っていた。
何か足りない気がするが、思い出せない。
「ねえ…もしかして、どっかの貴族?」
「は? なんで?」
「そのズボン、見たことない生地だし、靴もすごいよ。」
何? このボロ服が高級だっていうのか? どうかしてる。
貴族って呼ばれたのも意味わかんない。
「いや…ニューヨーク出身だ。」
「ニューヨークって何?」 彼女は眉を上げた。
ますます変だ。ヨーロッパかアジアの辺鄙な国だと思ったが、ニューヨークを知らない。俺の服が驚くほどだなんて。こんな格好、他の場所なら浮浪者扱いだ。
彼女の服も時代遅れに見える。
どう答える?
「えっと…俺の故郷の街。」 視線を逸らした。混乱した顔を見られたくなかった。
「へえ、ほんと? その街、ビューフィアス王国にあるの?」
*ビューフィアスってどこだよ?* と思った。
神よ、この子、質問攻めだ。どう答えたらいい?
頭が痛くなってきた。質問に答えるのが面倒だ。状況が手に負えない。
「ねえ…服着替えて、君の父さんと話したい。いい?」
「うん、もちろん!」 彼女は手を振った。「ごめん、すぐ出るね。」
完全に去る前に、彼女は立ち止まった。
「そういえば、シャツは破れて直せなかった。新品持ってくるね。」
やっと一人になれた。
難しい…森の真ん中に現れたなんて言えない。信じない。死んだと思った夢の話もできない。
何も話せない。狂ってると思われる。
俺の持ち物を調べたはずだ。小銭やカードを見て、変だと思っただろう。別の時代にいるなら、そりゃおかしい。
頭がぐちゃぐちゃ。質問ばかりで、答えがない。
神よ、導くか消すかしてくれ。
*どうすりゃいい? どうすりゃいい?* と自問した。
信じられる嘘を考えなきゃ。
リマラが柔らかい布のシャツを持ってきた。初めての素材だが、着心地はいい。
彼女と一緒に階段を慎重に下り、居間に着いた。ダイニングテーブル、小さな家具、木の棚。石のオーブンと鉄の鍋が火の上にあり、煮える料理の匂いが広がった。
リマラがドアを開け、強い光が目をくらませた。
手で目を覆い、慣れるのを待った。
やっと見えた時、驚くべき景色が広がった。
広大な谷、雲に届く山のシルエット。小さな家と麦畑の村。人々が明るい顔で行き交う。
口が開いた。こんな光景、想像もできなかった。
この場所の穏やかさは別格だ。俺の故郷とは違い、みじめな顔やうつむく人々はいない。ここでは皆、まっすぐ自信を持って歩く。
「ねえ…」 リマラが腕を振って、俺を現実に引き戻した。
「あ、ごめん。行こう。」
家から離れると、庭に花とバラに囲まれた小さな木があった。朝の香りの元だ。
空気には説明できない香り。ゴミや車の排気の臭いと違い、ここで息をするのは心地いい。
リマラの家を囲む石の壁を越え、村を歩き、人々に挨拶した。無意識に笑顔が浮かんだ。こんな気分、初めてだ。生きてるって感じで、世界を食ってやる気になった。
だが、畑で働く男の背中を見ると、その感覚は消えた。頭を働かせないと、この問題を乗り切れない。
「やあ、パパ。見て、誰か一緒。」
振り返った男は、俺を見てほとんど反応しなかった。
「死ななかったんだな。」
「はい…命を救ってくれてありがとう。」 軽く頭を下げ、握手を求めた。
彼の無表情が驚きと不安に変わった。俺が話すのを初めて聞いたからだ。
「まあ、元気でよかった。」 ためらいながら、握手に応じた。
「何か手伝えることがあれば…金はないけど。」
「正直、金で払ってくれる方がいいな。」 彼はため息をついた。
「パパ!」
「落ち着け、冗談だよ。」 くすっと笑った。「とりあえず、名前を教えてくれ。」
「うわ! 本当だ! 名前聞いてなかった!」 リマラは頭を叩いた。
俺も名乗らなかったから、どっちも悪い。
「イーサンだ。」
「アンドレ、よろしく。」
遠くから、麦畑からシルエットが近づいてきた。
「でも、変な小銭持ってたよな。金がないってどういうこと?」
家族の息子が面倒な質問を投げてきた。
「黙れ、ダレル。あの小銭、ここのじゃないよ。」 リマラがたしなめた。
「でも、価値あるだろ。めっちゃ精巧だぜ。」 土だらけの手を払いながら言った。
「本当だ。どこから来た? 森で何してた? 死にたかったのか?」 アンドレが腕を組んだ。
くそ…時間だ。あのバカのせいで。
どんな言い訳を考えよう? 彼らは俺を疑ってる。信じられる嘘が必要だ。
リマラとダレルは俺を外人と勘違いした。その線で行くか?
「俺は…別の大陸、遠くから来た。」 親指で背後を指した。
「ニューヨークって街。」 リマラが補足した。「そう言ってた。」
「どの大陸だ?」
「北アメリカ…」
「それどこだ? なんでここに来た?」
「それは…」 拳を握り、唾を飲み込んだ。
「その変な物は何だ? 折り曲がる、妙な絵のついたやつ。」
くそ、このガキの質問は最悪だ。リマラの質問の方がマシだ。
「ダレル、黙れよ。質問しすぎだ。」 アンドレが止めた。
「知りたいだけだよ。」
「人のプライバシーを尊重しろって習わなかったか?」 リマラが眉をひそめ、対抗した。
「もういい!」 アンドレが叫んだ。「喋らせろ。」
何を言っても嘘だと思われる。この時点で何でもいい気がする。嘘が下手なのもある。
「仕事で旅してたけど、盗賊に全部奪われた。そしたら森でその化け物が現れた。それだけ。」
嘘だとしても、狂った話よりマシだ。本当のことを話すほどバカじゃない。
冷や汗が頬を伝った。
「それだけ?」 ダレルが肩をすくめた。
「うん。」 ため息で答えた。
「信じねえよ。」 ダレルが舌打ちした。
「俺もだ。正直、怪しい奴として衛兵に突き出したい、イーサン。でも、街は遠いし、変な話をする奴のために誰も来ねえよ。」
議論で注目を集め、周囲の人がじっと見つめてきた。
嘘でも、こんな扱いは不公平だ。ダレルのせいで悪化した。あいつがいなけりゃ、上手くやれたのに。
くそ、ムカつく。
「どうした、黙ったか?」 ダレルがニヤつき、挑発した。
答えが欲しい? ならやるよ、クソガキ。
「おお、ばれたか!」 声を大げさに変え、驚いたふりをした。「実は、別の世界から来た。森に突然現れて、何も覚えてねえ。なんでここにいるか、俺もわからねえよ。」 眉をひそめた。
全員が数秒、俺を見つめた。永遠に感じる数秒。
ダレルは笑い出した。
「はは! そっちの方が信じられるぜ!」
「話にならん。」 アンドレは視線を逸らし、ため息をついた。「仕事に戻る。」
父と息子は去った。リマラと、よそ者の視線と、馬鹿みたいに感じる俺だけが残った。
首を振って考えた。軽率だった。怪しまれてたのが、もっと悪くなった。
この美しい場所から今すぐ去りたい。でも、残っても邪魔者だ。外で生きる術がない。誰も知らない。飢えるか、またクソみたいな怪物に殺されるだけだ。
「兄貴、ごめんね。」 リマラが同情の声で肩に手を置いた。「時々、やりすぎるの。」
*ちゃんと教育しろよ。* と心で呟いた。
「大丈夫、もういいよ。で、君が姉貴?」
「ううん、兄貴の方が年上。」
なのに、あんなガキっぽい。信じられん。
まあいい。
少し休んで、さっきの空気を冷ました。驚いたことに、彼らは麦だけでなく豆類や家畜も育てていた。出身の話は避け、改めて自己紹介し、アンドレの信頼を得ようと丁寧に話した。彼は俺を危険視してるかもしれないが、従順に振る舞い、指示に従った。
助けてくれた恩と泊めてくれたことへの報酬として、畑や他の仕事の手伝いを任された。
予想通り、農作業の知識はゼロだった。アンドレの指示はわかりにくく、すぐ理解できなかった。幸い、リマラが助けてくれて、失敗しないようアドバイスしてくれた。
ここから、より良い未来への第一歩を踏み出す。




