第2話: 知られざる世界での生存
イーサンは死の記憶をたどり、謎の森で目覚める。生存を賭けた戦いが始まるが、恐ろしい獣が彼を追う。希望はまだあるのか?
目が見えないのに、見える。耳が聞こえないのに、聞こえる。死んだはずなのに、感じる。アルマンドの手で桟橋で死んだ時、奇妙な感覚が俺を包んだ。説明するのは難しいが、心地よかった。酔いしれるような感覚だ。恐怖も不安も感じず、ただ…存在していた。体の感覚はなかったが、俺の意識はどこか奇妙な場所にあると気づいていた。
全てが純白だった。周囲から聞こえる声は、まるで知らない言語で囁き合っていた。言葉を発しようとしたが、唇は固く閉ざされていた。
理解できない言葉だったが、声には議論の響きがあった。
叫び声が洞窟の奥で反響するように響いた。その声はどんどん激しくなり、失望と苛立ちが混じっているのが伝わってきた。
*何を話してる? 何が起きてるんだ?* と心の中で思った。
目の前に、奇妙なシルエットが現れ、じっと俺を見つめた。ここには色がないはずなのに、彼らの存在をはっきりと感じ取れた。
反応する暇もなく、強烈な力が俺を引き寄せた。混乱の中、俺は引きずられた。
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雨音とともに、ガソリンと濡れた土の匂いが鼻をついた。アスファルトのひび割れた地面を踏む足音がドラムのように響き、ネオンの光が濡れたガラス越しにぼやけて消えた。聞き覚えのある声が、楽しげに話していた。この場面、どこかで経験したことがある。でも、はっきりと思い出せなかった。
「今日、何を食べたい?」 女性の声が聞こえた。
その女性は、ウェーブのかかった髪を持ち、声には控えめな優しさが込められていた。だが、その声には安心感を与える力強さもあった。その温かさが、懐かしさと安らぎを呼び起こした。
中年男性が運転席に座り、慎重にハンドルを握っていた。痩せた体、茶色の髪に白髪が混じり、背中は少し曲がっていた。なぜかその姿に守られていると感じた。尊敬し、信頼できる存在。
「チキンのシチューがいいな、君の作るのが好きだよ。」 彼は疲れた、かすれた声で答えた。
「じゃあ、シチューにしよう。トマトと玉ねぎがなくなったから、市場に寄らないとね。」
夫婦の何気ない会話が数分続いた。説明できないが、この人たち…どこかで会ったことがある気がする。
彼らの声を聞くと、心が締め付けられる。巨大なハンマーで胸を叩かれ、抵抗できないような痛み。
「イーサン、クッキー買ってあげる?」
アイスがいい! ママ、アイス買って!」
「じゃあ、アイスね。」
この場面を思い出すと、懐かしさが胸を締め付け、涙がこぼれそうだった。
両親だ。長い時間が経ち、顔や話し方をほとんど忘れていた。あの頃の俺は小さすぎて、今の自分を当時の俺が見たら、きっと失望して泣くだろう…
家族との再会に一瞬喜びを感じたが、記憶の断片が灰の中の火のように蘇り、恐怖が押し寄せた。
全てがどう終わったかを思い出した瞬間、恐怖が俺を飲み込んだ。
突然、横から眩しい光が現れ、タイヤの軋む音とけたたましいクラクションが響いた。
父は俺たちを救おうと急ハンドルを切ったが…車は激しく横転した。
その恐ろしい場面を二度と見たくなくて、目を強く閉じた。
目を開けると、頭に誰かの足が押し付けられていた。引き起こされると、路地裏で覆面の男を逮捕する警察官が見えた。
麻薬を売っていた時に逮捕されたあの時だ。
警官の一人が俺の顔を殴り、目を開けると、今度は家の中にいた。
目の前で男が泣きながら手を上げていた。気づいた時には遅すぎた。俺の指は引き金を引いていた。
瞬きすると、アルマンドとその仲間たちが銃を向けて桟橋に立っていた。
振り返って走り出したが、背中に弾丸が突き刺さる耐え難い痛みが襲った。肺を貫き、肋骨を砕く感覚。
その場面が頭の中で何度も繰り返され、俺の心は完全な混乱に陥った。
まるで罰を受けているようだった。
もう耐えきれず、目が急に開いた。
地面に横たわり、巨大な木々に囲まれていた。輝く太陽が空高く、風が葉を揺らす音が聞こえた。
汗でびっしょりになり、筋肉が硬直したまま、なんとか立ち上がった。頭がガンガンし、荒い呼吸でまっすぐ立つのが難しかった。信じられない思いで周囲を見渡し、何かを探した。
何を求めているのか、正確にはわからない。もしかしたら、この奇妙な場所の答えかもしれない。
自分の人生が目の前で再生された。あれはただの噂だと思っていたが、本当だった。
これまでの選択に満足しているとは言えないが、今はそんなことどうでもいい。
どこにいるのか、何をすべきか、知る必要がある。
混乱していた。本当に混乱していた。桟橋で倒れ、死にかけていたはずだ。それなのに、奇妙なシルエットが現れ、今ここにいる。
一体何だ…?
頭の中はカオスだった。説明を試みたが、どんな答えも馬鹿げているように思えた。
*楽園…*
その言葉が壊れたレコードのように頭の中で繰り返された。あの全てを見た後、これが唯一の論理的な答えだった。でも…こんな俺がそんな幸運に恵まれるはずがない。
馬鹿げた考えを振り払った。
これまでの行いを考えると、天国に行けるなんてありえない。悔い改めただけで一生の罪が許されるなんて。
何か他に理由があるはずだ。夢かもしれない。めっちゃリアルな夢だけど。
テレビで見たように、頬をつねって目を覚まそうとした。
ダメだった。痛み以外、何も変わらなかった。
顔を両手で覆い、ため息をついた。
ここにいる以上、助けを探すしかない。空想にふけって立ち止まっていても何も解決しない。
一歩踏み出した瞬間、足が岩のように硬いものに当たった。すぐに立ち止まり、視線を下げた。そこには錆びた金属の物体があった。
恐怖で後ずさりし、心臓が喉に詰まった。
トーマスの殺害のフラッシュバックが突然襲ってきた。銃声、頭を貫く弾丸の恐ろしい音が一瞬響いた。
歯を強く食いしばり、痛みを感じるまで震える手を抑えた。
深呼吸しながら膝に手をつき、落ち着こうとした。
一瞬でもここが楽園だと思ったなら、その考えは消えた。あの銃が死後も俺を追いかけてきたのだから。
この銃がここにある限り、平和はありえない。
怒りに曇った判断で、銃を掴み、近くの木に力いっぱい投げつけた。茂みに消えた。
「くそくらえ!」 怒りに叫んだ。
*なんでこんなゴミがここにあるんだ? ちくしょう!* と心の中で呪った。
すぐにその場を離れ、この奇妙な土地での旅を始めた。
失望した。いや、侮辱された気分かもしれない。言葉にできないが、あの銃が俺の一部のようにそこにあるのが腹立たしかった。あの囁くシルエットが原因だ。もし会ったら、絶対に文句を言ってやる。
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どれだけ時間が経ったかわからないが、かなり歩いた。険しい地形を越え、車ほどの岩を避けながら進んだが、見たのは木と膝まで届く草だけだ。
生き延びる戦略を考えないと、ただ歩き回るのは馬鹿らしい。
立ち止まり、腕を組んで考え込んだ。
週末に放送されていたサバイバル番組を思い出した。暇な時に見ていた番組だ。今は関係ないが、その番組で過酷な環境でのサバイバル術を教えていた。今、役に立つかもしれない。
司会者の言葉を思い出さなきゃ…
「えっと…まず方角を把握する。こういう時は北に向かうのが一番だ…」
独り言を呟きながら、空を見上げ、太陽の出る方と沈む方を思い出そうとした。
太陽は雲一つない空で輝き、まるで巨大な電球のようだった。正午くらいだろう。でも、それだと困る。真上にある太陽でどうやって方角を知るんだ? 動くのを待つのか?
それには何時間もかかる。
落ち着いて、呼吸を整えないと…
太陽で方角がわからないなら、食べ物と水を探す。時間を有効に使うのが大事だ。
獲物を考えながら歩き続けた。
鹿みたいな大きな動物を狩る武器はない。あのクソ銃は論外だ。アルマンドとその手下から逃げる時に役に立たなかったんだから。
戻って探す価値もない。
だから、ウサギみたいな小さい動物が現実的だ。
でも、どうやって見つけるんだ?
ため息をついた。
落ち込むな。前向きに考えろ。なんとかなる。
道端で小さな石を拾い、飛び道具にしようと思った。ウサギか何か小さな動物を見つけたら、これで仕留められる。
感覚を研ぎ澄ませ、慎重に進んだ。怪しい動きや気配に目を光らせた。
だが、何も見つからず、目が疲れてきた。あきらめかけた時、目の前の茂みでガサガサと音がした。
葉が激しく揺れた。
急に立ち止まり、草の中に身を隠した。
じっと待った。
茂みから小さな動物が出てきた。妙なやつだった。耳は長く尖り、頭に小さな角のようなものがあった。
何を見ているのかわからなかったが、そんなことはどうでもいい。チャンスだ。見た目を気にしている場合じゃない。
手に持った石を握り、背中を向けるのを待った。
今だ。
息を止め、腕を引いて狙いを定めた。
松の香り、そよ風に揺れる葉と草。この環境は狩りに最適だった。まるで熟練のハンターのように、優雅に、繊細に、効率的に獲物を仕留める自信があった。
石を投げようとした瞬間、近くで枝が折れる音がした。腕が止まり、獲物が警戒した。
振り返ると、同じような奇妙なリスが突然現れた。
その騒ぎで、動物は驚いて逃げ出した。
慌てて石を投げたが、間に合わなかった。食料が森に消えるのを、悲しみと怒りで見つめた。
「くそくらえ…」 苛立ちを呟いた。
持っていた石を地面に落とした。今日は何も食べられない。
がっかりしながら引き返し、歯の間で悪態をついた。
彷徨い続け、太陽が肌を焼き、汗でびしょ濡れになった。突然、鼻をつく悪臭。見下ろすと、シャツが血だらけだった。
すぐに誰の血か分かった。
背中も同じだろう。弾丸が俺を貫いた場所だ。
新たな心配事が増えた。誰かに会った時、なんて言い訳しよう?
血まみれで森から出てきたら、怪しまれる。最悪だと思われるだろう。
時間が過ぎ、太陽が沈み始め、やっと方角がわかった。北だと思う方向に進んだ。でも、ひどく空腹だった。もう歩く力もほとんどない。
食べ物や水が見つからないなら、次は避難所と火だ。
涙目で頭を振って思考を整理した。崩壊寸前だった。
「クソくらえ…」 風に呟き、涙を拭った。
木の間を漁り、乾燥した枝と石を集めた。夜が近づいている。急がないと。昼間でも森で迷うのは最悪だ。夜ならもっとひどい。
十分な材料を集め、平らな場所を探して火をおこそうとした。
「どうやるんだっけ…?」
地面に座り、石で円を作り、細い棒を両手で擦り始めた。
空が深いオレンジに染まり、星と銀色の月が黒い雲の間から現れた。
必死に擦り続けたが、焦りと苛立ちが募った。
夜になり、火花一つ出なかった。
手の痛みと赤みが増し、歯を食いしばり、眉をひそめた。
「頼む…頼む…」 不安が声に出た。「お願いだ! お願い!」
擦り傷と時間の無駄以外、何も得られなかった。
「うああ!」 怒りに叫び、物を投げつけた。
火すら起こせない自分の無能さに信じられなかった。
顔を両手で覆い、悔しさで涙を流した。
胃がひどく痛み、喉は乾いて口に埃の味がした。これが地獄で、罰を受けているなら、今すぐ終わってほしい。
銃弾で死ぬのは一瞬だが、飢えや渇きで死ぬのは別の拷問だ。もう限界だった。
どこにいるのかわからないが、もうここから出たい。
月が淡く輝き、冷たい風が俺を震わせた。
木の葉が落ち、遠くでフクロウが鳴き、虫の音が響く。埃っぽい地面に体を投げ出し、寝る準備をした。鉄の匂いが鼻をつき、不快だった。
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新しい日が始まった。金色の光が木々の枝と葉の間を通り抜け、鳥が元気に飛び立った。
草と松の香りが漂う。
腹の痛みと苛立ちで身を起こし、地獄のような場所を見た。
別の場所にいることを願ったが、残念ながらそうじゃなかった。
敗北感を背負い、気力を振り絞って立ち上がり、適当に歩き始めた。目をこすり、夜の間にたまった汚れを拭った。
昨日は最悪だった。でも、どこかで聞いた言葉、「朝日とともに希望が戻る」。どうでもいいけど。
今日も昨日と同じか、もっとひどいかもしれない。でも、希望はある。
昨日、呪いながら考えついた暗いアイデア。食べ物や水が見つからなければ、あの投げ捨てた銃で死ぬ方がマシだ。こんな場所で苦しむより自殺の方がいい。
でも、その行動に踏み切る自信はない。時間が決めるとしか言えない。
とりあえず、しばらく彷徨う。もし何も見つからなければ、戻って…やる。神に誓ってやる。
歩きながら、混乱した思考が押し寄せた。
*誰も会えなかったら? 今死んだら、次はどこに行く?*
そんな質問が時間とともに重くのしかかり、腹の唸りが食べ物を求めた。
大きく息を吐き、歩みを速めた。
肉だけが食料じゃない、果物もあることを思い出した。
興奮して木の枝を見上げ、禁断の果実を探した。茂みを漁り、甘いベリーを探した。狩りだけを考えていたのは間違いだった。
その考えは成果を上げた。赤と青の小さなベリーを見つけた。我慢できず、茂みに飛び込んだ。
耳から耳まで笑った。果物の甘さが楽園の味だった。
本当にこの発見に喜んだ。
数分間、夢中で食べ続けた。腹は満たされなかったが、力を取り戻した。
間違っていた。今日、物事が良くなるかもしれない。ただのベリーで生きられないが、エネルギーとやる気を与えてくれた。
まだ希望がある。ポジティブに考えろ。
気分を良くして旅を再開し、道中でベリーを摘んだ。腹に何か入った今、問題の解決策を考えよう。
北に進み続ければ、いつか森を出られる。確信していた。
何時間も彷徨い、食料は尽きたが、気力は残っていた。森にはベリーがたくさんあると知り、必要ならまた探せばいい。自分が大げさだったと気づき、馬鹿らしく思えた。
足が疲れ、息を整えるために立ち止まった。半信半疑で周囲を見ると、短い光が目に飛び込んできた。一瞬だったが、どこから来たか分かった。
不思議に思い、その光を追った。近づくほど輝きが増した。
目を見開き、瞳が輝いた。奇跡を目の当たりにし、頭が処理しきれなかった。興奮して、頭を透明な水に突っ込んだ。
この荒れ地に小さな湖があった。水は鏡のように透き通り、信じられなかった。
頭を水につけ、飲めるだけ飲んだ。味はないが、今まで味わった何よりも美味しかった。
息が切れるまで水をかぶり、顔を上げた。
喜びを言葉にできなかった。運が味方してくれた。
しばらくして服を脱ぎ、風呂に入ることにした。体臭で気絶しそうだった。湖の流れに身を任せ、雲を見ながら考えた。こんな目に遭って、まだ生きているなんて信じられない。
疑問が山ほどある。一ページ全部埋まるくらいだ。
笑えるが、昨夜、病院で昏睡状態の夢を見た。奇跡的に生き延びたのかもしれない。
それなら、俺はヤバい。目覚めたら、治療費を払う金がない。借金を逃れるために窓から飛び降りて死ぬしかない。
そんな馬鹿げた想像に笑い、目を閉じた。かつてない安らぎが俺を包んだ。
過去の悪い選択ばかり考える。でも、この奇妙な場所への旅が新しい機会なら、受け入れる。生き延びられれば。
昨日は落ち込んでいたのに、今は生き生きしてる。馬鹿みたいに笑ってる。
結局、物事は良くなった。良い兆候だ。
運が尽きる前にここを出なきゃ。
水から出て、服を着た。臭い服だが、これしかない。
シャツを着終えた瞬間、遠くで鳥の群れが驚いて飛び立った。何かに怯えたようだ。続いて、近くで鋭い叫び声が響いた。
説明できないが、その叫びを聞いて森の奥へ進んだ。逃げるのが賢明なのに、足が勝手に動いた。
怯えながら、茂みの間を慎重に進んだ。音を立てないように注意した。
叫び声が止み、代わりに強烈な咆哮が響いた。引き返そうとしたが遅かった。目の前に現れたのは、この世のものではない獣だった。恐ろしい姿、四本脚でトラックほどの大きさ。
まるで木が命を得て怪物に変わったようだった。
その怪物はまだ俺に気づいていなかった。何であれ、動物を食らうのに夢中だった。
冷や汗が背中を流れ、息が詰まった。
絶対に逃げなきゃ。次は俺が食われる。
一歩下がったが、枝が折れる音で心臓が止まりそうになった。本能的に木の後ろに隠れ、神と全ての聖人に祈った。あの怪物に見つからないように。
息を止め、空を見上げた。恐怖で胸がドンドン鳴った。
その…ものが俺を見た気がした。引きずる音が近づいてきた。
*お願い! お願い! お願い!* と心の中で叫んだ。
静寂が支配した。十分時間が経ったと思い、目を開けた。だが、間違っていた。怪物はまだそこにいた。すぐ横で、俺を見つめていた。
目があるはずの場所は、ただの黒い穴。魂のない闇だった。
恐怖で叫び、地面に倒れた。足が動かなかった。恐怖で麻痺していた。
食われると思った瞬間、怪物が咆哮し、ショックから覚めた。必死に走り出したが、すぐに獣に追いつかれた。強烈な一撃で体が宙を舞った。
岩だらけの地面に叩きつけられ、肺の空気が抜けた。息ができなかった。
骨が折れ、意識が薄れる中、殺意に満ちた獣が近づいてきた。
「助けて! 助けて!」
酸素を求めて胸が異様に膨らんだ。
視界が二重になり、音が歪んだ。また死にかけている。
信じられなかった。運が俺を見捨て、呪った。こんな恐ろしい結末になるなんて。
全ての苦しみを経て、何のため? 理解できない存在の笑いものだったのか?
周囲が静まり、瞼が重くなった。もう奇跡は起こらない。




