第十一話 王命の環が告げるもの
「…陛下。“癒しの力”を持つ薬師のもとに行って参りました。まずは確認を…と思っていたのですが、邪魔が入りまして。数名、部下を貸していただければと」
「……ふむ。それで?」
「恐れながら、その薬師なのですが……王家に伝わる、“陛下と同じ”瞳の色を有しておりました」
「……!まさか、その薬師は女か? 年は? ──あの時の娘なのか……?」
「おそらく一致するかと。念のため、“王族の血にのみ反応する魔道具《王命の環》”をお借りしてもよろしいでしょうか? 貴重な品とは重々承知しておりますが……」
「許可する。すぐに調べてこい。
……もし、“そう”なら……あの時、魔境に捨てた娘が、生きていたということだ……」
「近年の不作、魔物の活性化……すべてに関係しているのかもしれん。
あの娘が原因だとするならば──息の根を止めねばならんな」
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ラティスティア王国、街外れの薬屋《空の森》。
朝の柔らかな光が差し込む中、フィリーネはユオと並んで、棚に薬草を並べていた。
「今日もたくさんお客さんが来てくれてよかったね。あんなに喜んでもらえると、嬉しいなあ。もっともっと、頑張りたいな」
「ああ。フィリーネの薬は本当に効くからな。……誰かを助けられるって、すごいことだよ」
その時──扉が強くノックされた。
フィリーネとユオの間に、緊張が走る。
現れたのは、黒装束の男たち数名。
彼らは素早く店内に入り込むと、言葉も交わさず、王家に伝わる魔道具《王命の環》をフィリーネに近づけた。
──次の瞬間。
魔道具は白銀に輝き、澄んだ鈴の音のような音色を放った。
「……反応……ッ!……やはり……!」
男たちは迷いなく、フィリーネの腕を掴み、連れて行こうとする。
「ま、待って……!」
掴まれた腕が痛い。フィリーネはよろけながらも声をあげた。
「やめろッ!!」
ユオが剣を抜き、飛び込む。
「連れていかせるもんか! 俺が、フィリーネを守るんだ!!」
男の一人が魔術を放つ。
ユオは光の玉を一つ、二つと避けるが──三つ目の光が直撃した。
「……ぐっ……!」
吹き飛ばされ、地面に倒れ込むユオ。
それでも、なお立ち上がろうとする姿に、フィリーネの目に涙がにじむ。
「ユオくん……っ!」
震える手で、フィリーネはカイから託された魔道具を、床に叩きつけた。
──刹那。
「……やはり、来たか」
低く静かな声とともに、空間が揺れる。
カイが現れた。
黒衣の男たちは構えるが──遅い。
カイが手を一振りすると、空間がねじれ、魔術師たちは次々と地面に崩れ落ち、意識を失っていく。わずか数秒の出来事だった。
「カイ……フィリーネを、守れなくて……ごめん……」
ユオが悔しげに唇をかむ。
「いや、よく持ち堪えた。フィリーネも、よく呼んでくれたな」
カイは周囲を確認しながら、静かに告げる。
「私はこの者たちを連れ、“主”と大人の話をしてくる。……さすがに、もう来ないとは思うが、何かあれば魔道具を使え。ユオ、フィリーネを頼む」
しかしフィリーネは、すがるように声をかけた。
「カイ……あの人たち、私を無理やり連れて行こうとしてたの。前にもこんなことがあって……。もしかして、私の“生まれ”と関係あるの……?」
しばし沈黙ののち、カイは──小さく微笑む。
「……いいや、フィリーネ。
お前はただの、私の家族だよ。今までも、これからも。
──すぐに戻る。ユオと待っていてくれ」
そう言い残して、カイは男たちを引き連れ、再び転移した。