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第十話 かの国の、足音

第一王女として、輝かしい未来が待っていたフィリーネを、無慈悲に魔境へと捨てた"ティフセリア王国"。


「……ラヌフ領より、不作につき、食糧給付の請願が届いております」


「またか……最近の状況はどうなっている?」


「王都周辺も例外ではありません。魔物の活性化に加え、ここ数年、不作が続いております」


「隣国は? 同じような被害か?」


「……いえ。こうした事態は、どうやら我がティフセリア王国だけのようです」


「なに……?」


「原因は不明です。学者たちも、未だ結論を出せず……」


「ふざけるな! それを調べるのが、お前たちの仕事だろう!」


「……申し訳ございません」


「……民の様子は?」


「麦が採れず、芋などで凌いでおりますが、長くはもちません。正直に申し上げて、民衆の不満も高まりつつあります」


「くそ……なぜだ。

とにかく、王都周辺の領地には、国庫から食糧を送れ。その分、貴族から税を徴収しろ」


「かしこまりました」


「……他には?」


「ひとつ、気になる話がございます。

隣国・ラティスティア王国に、“癒しの奇跡”と噂される薬師がいると……」


「薬師? ただの噂だろう」


「ですが、重傷の騎士さえ回復させたと。

通常のポーションではあり得ぬ効果です。

――我が軍も被害が続いております。その者の力が本物なら、放ってはおけません」


「…………」


「確認だけでも、いかがかと」


「……よい。確認しろ。

もし本物なら、どんな手段を使ってでも連れてこい。少々手荒でも構わん」



全く、なぜこんなことに。

王、レオルド三世は眉間に深く皺を刻んでいた。



ふと、彼の頭にあの“予言”がよぎる。


──かの子が哭く夜、空は紅に染まる。

──されどその涙は、世界を赦す雫。

──愚者たちよ、己が血により、滅びを迎えよ。

──王の家に生まれしもの、やがて世界の均衡を崩すべし。


「……あのとき、あの子を捨てたことは正しかったのだろうか…?」


最近は、なぜかその疑問に悩まされることが多かった。

もし、万が一。あの時の選択が誤りだったとしたら、あの予言は…。




ーー

街外れの薬屋《空の森》では、今日も穏やかな時間が流れていた。


「ユオくん、薬草の乾燥は任せていい?」

「おう!任されとけ!」


フィリーネとユオは、のんびり薬の仕込み中。

だがその静けさを破るように、外から重い足音が近づいてきた。


「失礼。ここに、重症の騎士をポーションで治すほどの、腕の良い薬師がいると聞いて来ました。ぜひ、お話を伺いたく」


扉を開けると、全身の服装を黒で統一した男が立っていた。

カイは今夕ご飯の買い出しに行っており、少し心細さを感じる。


「癒しの力…たぶん、私のことかと思います。ここで売っている薬のほとんどは、私が作っています…」


「ほう!まだ小さいのに、大したものですね。

………?失礼、貴方の瞳は…青…いや、空のような…ッ!

あなたの血縁に、ティフセリア王国の縁者は…?」


男はフィリーネの肩を強く掴み、必死で問う。


「いた…いいえ、初めて聞く名前…っあ、でも私、昔拾われて」


「お前!フィリーネに何してるんだ!離れろ!!」

二人の様子に気がついたユオが、急いで二人を引き離す。


「お前おかしいぞ!フィリーネが怖がってる、帰れ!」


「ッ、いえ、ただ私は話をーー」


その時、再びドアが開き。買い出しの籠を持ったカイが帰って来た。


「騒がしい。…何があったか知らないが、そのような客は受け付けていないのでね。悪いが帰ってもらえるか」


カイが威圧を込めて話すと、男は怯んだ様子で、しぶしぶ店を後にした。


「…し、失礼。それでは日をまた改めて」



「それで、なにがあった?」

男が帰ってから、カイは二人に尋ねる。


「うーん、なんか、"ティフセリア王国"に縁者はいるか?って聞かれたよ。わたし、カイに拾われる前のこと結局知らないから答えられなかったけど…

少し、怖い感じだった…。」


「あいつ!!フィリーネの肩を強く掴んでたんだ!…すぐに、…上手く守れなくてごめんな」


「えっ!そんなことないよ、間に入ってくれて本当に助かったよ…!ありがとう!カイも、助けてくれてありがとう!」


「ティフセリア王国…そう言ったのか?」


「う、うん…聞き間違いじゃなければ」


「そうか…あの国は今、不作に魔物にきな臭い部分が多くてな。私は少し、調べ物がある。店は臨時休業にして…」


「…っ、そんなのダメだよ!マルスさんや、村の人たちもせっかく頼りにして来てくれるのに…」


「あの男がまた来たら危険だ。わかってくれ」


「そんなの…」


「カイ!俺が守るよ…!カイがいない時は、俺がいつもいるから!」


「だが…」


二人がどうにも折れないのを見て、カイは深いため息をついた。


「はぁ、………わかった。

そのかわり、二人とも、この魔道具を。何かあればこれを床に思い切り叩きつけろ。一秒で駆けつける。

…調べ物が終わったら返してもらうが、助けが必要な時は躊躇うな」


カイは、小さなイヤリングのようなものを、一つずつフィリーネ、ユオに手渡したのだった。


この魔道具にも、実は"フロストドラゴン"以上のとんでもなく希少な素材が使われていることなどフィリーネとユオは知る由もなく、

二人はただ、呑気に喜んでいたのだった。

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