表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/14

第一話 滅びの予言

──かの子が哭く夜、空は紅に染まる。

されどその涙は、世界を赦す雫。

愚者たちよ、己が血により、滅びを迎えよ。

王の家に生まれしもの、やがて世界の均衡を崩すべし。


それは、赤月の夜に、王国の聖域に浮かび上がった神託だった。


神殿の奥、清めの巫女以外は誰も近づけぬ、

「深淵の預言碑」。


そして、その夜。

王家に、ひとりの赤子が生まれた。


肌は透けるように白く、朝靄のような淡い水色の瞳の、愛らしい王女。

か細く、庇護せずにはいられない、泣き声をあげていた。


本来ならば、盛大に誕生を祝われ、大切に大切育てられるそのはずの、その王女に。


「……殺せ」


王は顔すらも見ることなく、背を向けて命じた。


「滅びの予言があった。王の家に災いをもたらすのだと。ならば、その命に意味はない。

……子は、また産めば良いのだ」


侍女たちは震えながら赤子を抱き上げる。


だが、そのとき――


「あなた、まって……」


産褥の床に伏していた王妃が、震える手を伸ばした。


「お願い……その子は、私の……かわいい子……」

「せめて、せめて……名前だけでも……」


…難産だった。

我が子に会いたい一心で死力を尽くした母の、涙に濡れた目は、まだ名前もない我が子を見つめていた。


だが、王は答えなかった。


その目には、自らの娘ではなく、「滅びの象徴」としての恐怖しか映っていない。


「親子の情など、国を守る力にはならぬ」


「……別れを告げよ」


冷たく言い残して去っていく背を、王妃は呼び止めることもできなかった。


やがて、産まれたばかりの赤子は母と引き離され。

王の騎士により、夜の闇に消えた。


予言がなければ、王女としての未来があったであろう、赤子の泣き声とともに――。


王妃の啜り泣く声だけが、いつまでも響いていた。



王妃は、それから数日後、弱りきった産後の身体により病に倒れ、ひとり息を引き取った。



赤子は、王の騎士により、産まれたその日に「魔境」に捨てられた。

大の大人でも倒すことが叶わない、大型魔獣が蔓延る地。


月だけが、その様子を静かに見ていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ