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短編

余命宣告されたので、婚約者とは先に別れておきました

作者: 九葉


「あなたの命は、残り一年です」


白い診察室に、老魔医オルガ先生の冷たい声が響いた。私は自分の耳を疑った。二十三年生きてきて、こんな言葉を聞くとは思っていなかった。


「リネア様、本当に申し訳ありません。私にはどうすることもできないのです」


オルガ先生の老いた手が震えていた。診察台に座る私の背中には、すでに青い花のような模様が浮かび始めているという。アズール紋——この国では死の宣告と同じ言葉だ。


「一年...」


私の声は、まるで他人のもののように聞こえた。三ヶ月後に控えていたのは、婚約者ヴェルナーとの結婚式。幼なじみでもある彼との幸せな未来を夢見ていたのに。


「病気が進むと、魔法の力が段々と制御できなくなります。最後には...」


オルガ先生は言葉を選びながら、「周りの人も危険になってしまいます」と付け加えた。


アズール紋は魔力が暴走し、やがて魔力の塊となり爆発してしまう病気である。


胸の中で何かが引き裂かれる感じがした。婚約指輪をはめた左手が震えた。

涙を流しながら、

頭の中に、一つの決心が浮かんだ。


「彼を不幸にするわけにはいかない」


--


「リネア、どうしたの?最近様子がおかしいわ」


マリエラの心配そうな声に、私は作り笑いを浮かべた。いとこであり親友でもある彼女には、本当のことを言えずにいた。


「何でもないわ。ちょっと疲れているだけ」


パーティーで、私はヴェルナーに冷たく接し続けていた。彼の困った表情を見るたびに、心は千切れそうになる。でも、これが彼のためだと思った。


あの日から二週間。「嫌われる作戦」は順調に進んでいた。他の貴族の男性たちに親しげに話しかけ、ヴェルナーの家族には意図的に失礼なことをした。彼のお母さんが大事にしているお茶会では、わざと遅刻し、持っていくはずだったお菓子も忘れたふりをした。


一番辛かったのは、彼のまっすぐな目が、日に日に悲しみを増していくことだった。


雨の日の午後、ついに決断の時が来た。ザッハ家の応接室。窓を叩く雨の音だけが、私たちの間の静けさを埋めていた。


「ヴェルナー、話があるの」


ゆっくりと左手の婚約指輪を外す。輝きを失った宝石が、灰色の光の中で寂しく光った。


「別れましょう。私...他に好きな人ができたの」


嘘の言葉は、舌に毒のように苦かった。ヴェルナーの青い目が一瞬だけ大きく見開かれ、すぐに深い悲しみに沈んだ。


「そうか...」


彼はそれだけ言って、私から指輪を受け取った。怒りも責める言葉もなかった。だからこそ、胸が引き裂かれるような痛みを感じた。


「幸せになってほしい」


彼の最後の言葉に、私は涙を我慢するのがやっとだった。部屋を出る時、背中の青い模様が痛んだ。これが私の選んだ道。愛する人を守るための、残酷な優しさ。


--


「療養」という名目で、私は家族の避暑地であるヴェルデの屋敷に移った。都から離れた森の中の小さな館。ここならば、最後の時が来ても、誰も傷つけずに済む。


母の形見である庭の手入れが、私の毎日の日課となった。バラの茂みを切り、ラベンダーの香りに包まれながら、残された時間を静かに過ごした。


ある朝、鏡で背中を確認すると、アズール紋は肩甲骨にまで広がっていた。青い花のような模様は、不思議と美しく見えた。死の印なのに。


「お嬢様、お茶の用意ができました」


執事のジョゼフがドアをノックする。彼だけが私に付き添うことを許された。父も姉も、私の意思を尊重してくれた。結婚式の中止は、「健康上の理由」という表向きの理由で片付けられた。


「ありがとう、ジョゼフ」


テラスに出ると、初夏の柔らかな光が庭を照らしていた。小鳥のさえずりが心地よい。しかし、突然の魔法の波が体を駆け巡り、触れていたバラの茂みが急に大きく育ち始めた。


「また始まった...」


お茶碗を落とし、私は膝をつく。制御できない魔法が指先から漏れ出し、周りの植物が変な具合に伸び始めた。空には不自然な雲がぐるぐると回っている。


「お嬢様!」


ジョゼフが駆け寄る前に、私は意識を失った。


--


目が覚めると、見知らぬ男性が私のベッドの傍らに座っていた。琥珀色の目と、肩にかかる茶色の髪。三十歳くらいだろうか。手に持った本から顔を上げると、彼は静かに微笑んだ。


「目が覚めましたか、リネアさん」


「あなたは...?」


「イーサン・ルミナスです。旅をしている錬金術師です」


彼の声は穏やかだったが、どこか威厳を感じさせた。


「ジョゼフが呼んだの?」


「いいえ。たまたま通りかかったところ、あなたの魔法の暴走を感じたのです。ジョセフさんに頼んで入れてもらいました。」


彼はそう言って、私の背中を見つめた。


「アズール紋ですね」


その言葉に、私は体を固くした。


「どうして...」


「私は長年この病気を研究しています。実は、アズール紋は元々『祝福』だったんですよ」


「祝福?」


私は耳を疑った。死の宣告である呪いが、祝福だったなどと。


「古の時代では、アズール紋は持ち主に人を癒す力や自然と話せる力を与えていました。その力を恐れた人々によって迫害され『呪い』に変わってしまったのです」


彼の話は続いた。昔の「蒼い模様の民」の歴史や、彼らが持っていた素晴らしい能力について。そして何故それが今では恐れられているのかを。


「あきらめるには早いですよ」


イーサンの言葉に、私の胸に小さな希望の光が灯った。


「私には『光の糸』という治療法があります。しばらくの間ですが、症状を楽にすることができるでしょう」


「本当に?」


「ただし、条件があります。私の研究に協力してほしい」


死の恐怖と絶望の中で生きてきた私には、もう失うものはなかった。


「もちろん、協力します」


イーサンの琥珀色の目が、一瞬だけ深い感情で揺れ動いた。


--


「痛くありませんか?」


イーサンの指が、私の背中のアズール紋をなぞる。彼の指先から金色の光が溢れ、「光の糸」と呼ばれる治療が始まった。背中に広がる温かさと共に、不思議な安心感が広がる。


「大丈夫...むしろ、心地いいわ」


一週間が過ぎ、イーサンの治療は確かに効いていた。魔法の暴走は減り、体の痛みも楽になった。彼は毎日、朝と夕方に治療をしてくれた。


「あなたの魔法は植物と特に相性がいいようですね」


庭で一緒に作業をしながら、イーサンは言った。彼の手にも土の香りが染みついている。


「母も植物の魔法が得意でした。この庭は母の形見なんです」


「そうですか。私の母も...」


言葉を濁すイーサン。私は不思議に思った。


「あなたのお母さんも?」


「はい、私の母も植物の魔法が得意でした。そして...アズール紋でした」


彼は悲しそうな表情を見せた。


「私が18歳の時に亡くなったんです」


「そうだったの...」


私は彼の手に自分の手を重ねた。同じ悲しみを持つ者同士の静かな共感。


会話は自然と、アズール紋の研究へと移った。イーサンが持ってきた古い本には、失われた歴史が書かれていた。


「蒼い模様の民は、自然の声を聞き、傷ついた人を癒す力を持っていました。しかし、その力を恐れた人たちによって、迫害されたのです」


イーサンの話を聞きながら、私は不思議な親しみを感じた。彼自身のことはあまり話さないが、時々見せる優しさや、強い使命感に心惹かれていた。


晴れた日の午後、二人で庭の果樹の手入れをしていると、空から小鳥が舞い降りてきた。驚いたことに、それは私の指にとまった。


「あら...」


「見てください。彼らはあなたの本当の姿を感じ取っているのでしょう」


イーサンの微笑みが、心地よい風のように私の心を撫でた。毎日を共に過ごすうちに、彼の存在は私にとって大切なものになっていた。


「リネア!」


突然の声に振り向くと、マリエラが庭の門から駆け寄ってきた。


「マリエラ?どうしてここに...」


「心配だったのよ。それに...」


彼女の目はイーサンに向けられ、警戒心を隠さなかった。


「この人は?」


「私の病気を治療してくれているの」


マリエラは半信半疑の表情を浮かべながらも、一晩泊まることになった。


「本当に大丈夫なの?あの人、怪しくない?」


夜、部屋で二人きりになった時、彼女は心配そうに尋ねた。


「イーサンは私を助けてくれているの。信頼できる人よ」


その言葉に、自分自身が驚いた。いつからか、イーサンへの信頼は揺るぎないものになっていた。


「それと...」


マリエラは言葉を選ぶように迷った。


「ヴェルナー様のことも心配しているわ。あなたが去った後、すっかり元気がないの」


胸が痛んだ。彼を傷つけたことは、今でも後悔している。


でも、治療で良くなってるとはいえ、

もうすぐ死ぬ運命。


「私のことは忘れて、前に進んでほしいわ」


言葉とは裏腹に、心の奥で小さなやきもちが芽生えた。自分が死んだ後、彼が他の女性と幸せになる姿を想像して。そんな気持ちを持つ自分が、情けなかった。


--


翌日、マリエラが帰った後、思いがけない来客があった。


「ヴェルナー...」


門に立つ彼の姿を見た瞬間、私の心臓は止まりそうになった。変わらない素敵な姿。けれど、以前より痩せて見える。


「話がしたい」


彼の声は静かだったが、強い決意を感じた。応接室に案内し、向かい合って座る。三ヶ月ぶりの再会だった。


「元気そうだな」


「ええ...」


言葉につまる私に、彼はまっすぐな目で訊いた。


「なぜ本当のことを言わなかった?」


「え?」


「病気のことだ。アズール紋のことを」


衝撃で声が出なかった。どうして彼が知っているのか。


「マリエラが話したの?」


「いや、オルガ先生だ。心配で尋ねに行ったら、教えてくれた」


私の沈黙に、彼は続けた。


「君を支えたかった。どんなことがあっても」


その言葉に、胸の奥が熱くなった。涙が頬を伝う。


「ごめんなさい...でも、あなたを不幸にしたくなかったの」


「君のそばにいることが、僕の幸せだったのに」


窓から差し込む光の中、彼の青い目は悲しみで濡れていた。しかし、そこには責める色はなく、ただ深い愛情だけがあった。


その時、背中に鋭い痛みが走った。魔法の暴走が始まる。


「ッ!」


苦しむ声をあげた私を、ヴェルナーが支えようとした瞬間、部屋の植物が急に大きくなり始めた。窓から突然の風が吹き込み、カーテンが激しく揺れる。


「リネア!」


彼の声が遠くなり、私は意識を失った。


--


目覚めると、ベッドの傍らにはイーサンとヴェルナーの二人がいた。緊張した空気が漂っている。


「目が覚めたか」


ヴェルナーが心配そうに私の手を握った。


「症状が悪くなっています」


イーサンの声は厳しかった。


「アズール紋が全身に広がり始めています。治療の効果も限界が近づいています。」


窓の外を見ると、不自然な暗さが広がっていた。今は真昼なのに。


「私の魔法?」


「ええ。もう、制御が効かなくなりつつあります」


イーサンの表情に、初めて焦りを見た。


「リネア...」


ヴェルナーが私の名を呼ぶ。その目には深い悲しみと、決意が浮かんでいた。


「リネアを救う方法はないのか?」


「今の私の力では...」


言葉を濁すイーサン。何か隠していることを感じた。


「本当のことを話して」


私は二人の間に視線を向けた。突然、雷の音が響き、屋敷が震えた。


「嵐です。リネアさんの魔法が引き起こしています」


イーサンは窓際に歩み寄り、暗い空を見上げた。


「実は...一つだけ方法があります。しかし...」


「何でもするわ」


私の言葉に、彼は振り向いた。


「『蒼の神託者』と『蒼の解放者』が揃えば、アズール紋は本来の祝福に戻ると言われています」


「何ですって?」


「しかし、その条件は...」


彼の説明を遮るように、強い雷が屋敷の近くに落ちた。大きな音と共に、私の体から青い光が溢れ始める。


「もう時間がない!」


イーサンが叫んだ瞬間、私の魔法が爆発した。青い光のうずが部屋中を包み、家具が宙に浮き、窓ガラスが割れた。


「リネア!」


ヴェルナーが私に駆け寄ろうとした時、イーサンが彼を押しとどめた。


「危険です!近づかないで!」


混乱の中、イーサンだけが冷静さを保っていた。彼は私に向かって歩き始めた。青い光の嵐の中を。


「イーサン、だめ!」


混乱の中、イーサンだけが冷静さを保っていた。彼は私に向かって歩き始めた。青い光の嵐の中を。


「イーサン、だめ!」


私の声も届かない。彼は決意に満ちた表情で、私に手を伸ばした。


「私は『蒼の神託者』です。あなたを救う使命を持っているのです」


その瞬間、天井の一部が崩れ落ちた。


「気をつけて!」


私の警告も空しく、落ちてきた梁がイーサンに当たった。彼は床に倒れ、血が流れ始めた。


「イーサン!」


絶望的な叫び声をあげた私の中で、何かが目覚めた。死の恐怖よりも強い、彼を救いたいという願い。


「もう少しだけ...生きたい」


私は古い魔法の本で読んだ「生命の譲渡」の術を思い出した。自分の命の力を分け与える危険な魔法。


「彼を救うために...」


私はイーサンのそばに這い寄り、彼の胸に手を置いた。古い魔法の本で読んだ「生命の譲渡」の術を思い出し、心の中で古代の言葉を唱えた。魔法の力を込めると、私の手から微かな光が漏れ出した。


「お願い...効いて」


しかし、光はすぐに消えてしまう。再び唱えるが、同じ結果。イーサンの呼吸は弱まり、顔色は青白くなっていく。


「イーサン!目を覚まして!」


必死に魔法を繰り返すが、効果はない。ヴェルナーが私の肩に手を置いた。


「リネア...」


彼の声には悲しみが滲んでいた。しかし、私は諦められなかった。


「だめ...こんなところで、あなたを失うわけにはいかないわ」


涙がイーサンの頬に落ちる。彼の顔は穏やかで、まるで眠っているようだった。


「私があなたを愛してるって、まだ言ってなかった...」


もう何も考えられなくなった私は、ただ本能のままに彼に身を寄せ、唇を重ねた。最後の別れのキス。


その瞬間、不思議なことが起きた。背中のアズール紋が熱を持ち、青から金色に変わり始めたのだ。温かく、優しい光が全身を包み込み、その光はイーサンの体へと流れ込んでいく。


部屋全体が金色に満たされ、窓から差し込む月の光さえも色づいたように見えた。


そして、奇跡が起きた。イーサンの目が開いたのだ。彼は私の変化を見て、微笑んだ。


「やはり...あなただった。蒼の解放者は」


嵐は急速におさまり始め、部屋の中の青い光も薄れていった。イーサンはゆっくりと上体を起こし、私の頬に触れた。


「魔法ではなく...愛だったんですね」


私は自分の体から溢れ出る新しい力に驚いていた。


「何が起きたの?」


私は混乱しながらも、体の中に新たな力が満ちていくのを感じていた。イーサンがゆっくりと起き上がり、不思議そうに自分の傷に触れる。傷は完全に癒えていた。


「真実の愛による奇跡...」


イーサンの声は感動に震えていた。


「私は長年、蒼の解放者を探していました。アズール紋の呪いを本来の祝福に戻せる唯一の存在を。しかし、その鍵が『真実の愛』だったとは...」


ヴェルナーは呆然と立ちすくんでいた。言葉も出ないほどの光景を目の当たりにしたのだ。


イーサンは優しく続けた。


「アズール紋の真実...それは愛によってのみ解き放たれる祝福。古代において、この紋様は持ち主に治癒能力と自然との共鳴能力を与えていました。しかし、人々の恐れと迫害によって、その力は歪み、呪いとなったのです」


彼は自分の正体を明かした。彼は古代の王家の末裔であり、アズール紋の秘密を守る「蒼の神託者」だったのだ。


「私の母も同じ紋様を持っていました。彼女は解放されることなく亡くなりました。だから私は『蒼の神託者』としての使命を受け継ぎました、


「そして私が...」


「あなたが『蒼の解放者』。『蒼の神託者』と『蒼の解放者』の真実の愛でアズール紋が本来の姿を取り戻したのです」


私の体はもう痛まなかった。代わりに、新たな力が満ちているのを感じる。傷ついた小鳥や植物を癒せる力。自然と交感できる感覚。


イーサンは私の手を取り、「これからどうするか」と目で問うた。


--


半壊した屋敷の一室。三人の間に静けさが流れていた。


「つまり...あなたがたは運命的な出会いだったということですか」


ヴェルナーの声は、悲しみを含んでいたが、冷静だった。


「私もわからないわ。でも、イーサンに出会わなければ、もう死んでいたかもしれない」


私の言葉に、イーサンが向き直った。


「私はリネアさんを救うためだけにここに来たわけではありません。最初はそうでしたが...」


彼は言葉を探すように、一瞬目を閉じた。


「あなたと過ごす日々の中で、私は...」


言葉が途切れた時、ヴェルナーが立ち上がった。


「わかりました」


彼は静かに言った。


「リネア、君が幸せであることが、僕の願いだ」


「ヴェルナー...」


「実は...」


彼は苦笑した。


「僕にも新しい出会いがあったんだ。君が去った後、ずっと落ち込んでいた僕を支えてくれた人が」


意外な告白に、私は驚いた。しかし、不思議と胸がすっと軽くなった。


「それは...良かった」


心からそう思えた。彼が幸せになることを願っていたのだから。


「彼女の名前はエレナ。君とは正反対のタイプだけど、優しい女性だよ」


ヴェルナーは微笑んだ。その表情にうそはなかった。


「でも、君の病気のことを知って、どうしても会いに来なければと思ったんだ」


「ありがとう」


言葉にできない感謝の気持ちが湧き上がった。


「それでは...」


彼は深々と頭を下げると、部屋を後にした。去り際、「幸せになれ」という彼の言葉が、柔らかく耳に残った。


--


ヴェルナーが去った後、イーサンは口を開いた。


「私は君を愛している、リネア」


シンプルな告白。けれど、その言葉の重みが、私の心の奥深くまで届いた。


「私も...あなたを愛しているわ、イーサン」


「これからどうするの?」


「私たちには使命がある。他のアズール紋に苦しむ人々を救う使命が」


彼の言葉に、私も頷いた。この奇跡を、自分たちだけのものにするわけにはいかない。


「一緒に行きましょう」


その夜、壊れた屋根から見える星空の下で、私たちは未来を語り合った。「光の治療院」を作り、アズール紋に苦しむ人々を救う計画。


「あなたが蒼の神託者で、私が蒼の解放者...運命って不思議ね」


「運命も大切だけど、それを選び取る勇気がもっと大切だ」


イーサンの言葉は、心に響いた。


--


3ヶ月後。修理された庭で、私たちは旅立ちの準備をしていた。背中のアズール紋は今も残っているが、もはや死の印ではなく、金色に輝く祝福の証となった。


「リネア、手紙だ」


マリエラからの便りだった。彼女は今、リュスク伯爵家の長男との婚約が決まり、とても幸せだという。そして、驚くことに、ヴェルナーとエレナの婚約も発表されたとあった。


「良かった...」


心からそう思えた。彼が本当の幸せを見つけたことを祝福したい。


「準備はいいか?」


イーサンの声に顔を上げると、彼は朝日を背に立っていた。金色の光に包まれた姿は、まるで英雄のようだった。


「ええ」


私は最後に、母の庭に別れを告げた。バラやラベンダーは、まるで私たちを祝福するかのように美しく咲いていた。


「また戻ってくるわ」


指先から優しい魔法を庭に注ぎ込む。植物たちが小さく揺れ、応えてくれているようだった。


金色に輝く模様を宿し、私たちは朝日と共に旅立った。これから出会う人々を救うために。そして、私たちの愛を証明するために。


世界は、新たな光に満ちていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

どう思われたか↓の★~★★★★★の段階で評価していただけると、励みにも参考にもなるので、

ぜひよろしくお願いいたします!

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