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私温泉  作者: 青空文学
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温泉の歴史

 私は歴史が好きだ。かつて在った今は存在しない世界になら、生きづらい現実から逃げ込むことができる。

 温泉の歴史は人の歴史より古く、火山地帯においては数万年前から湧出していたと考えられている。実際に縄文時代の多くの集落は温泉の周囲に存在したことが確認されており、日本人は温泉と共に歴史を刻んできたと言えるだろう。

『一たびすすげばすなはち形容端正しく、再びゆあみすればすなはち万の病悉にいゆ。古より今に至るまで、験を得ずといふことなし。かれ、俗人、神の湯という』

 これは風土記に記された現在の玉造温泉に関する記述である。いささか大げさな気がしないでもないが、まともな医療もない当時の人々にとって温泉療養で体が回復することは神の御業とも感じられたものと想像できる。

 やがて江戸の世にもなると、温泉番付なるガイドが発行されるようになる。これは大関、関脇、小結、前頭と相撲の番付に見立てて温泉の効能をランク付けするものだ。

 当初こそ本草学に基づいた科学的な検証が行われていたものの、番付はやがて粗製濫造されることになり、中には実在するのか疑問符がつくような温泉の名も紙面に現れるようになる。どうも、誰も知らない夢のような効能を持つ温泉の名前を出すことで読者の購買意欲を誘う意図があったようだ。

 なるかみの湯もまたそうした存在自体が疑わしい温泉の一つであり確たる所在が分からないものの、不思議なことに複数の番付に顔を出していた。

 その温泉には、何とも不思議な云われがある。金色に輝く湯には神が宿り、湯に浸かったある者はご利益により病を癒やし、ある者は神と一つになり帰らぬ者となる。

 私が心惹かれたのは後者だ。煩わしい生を捨て去り、温泉の神と一つになる。そんなことができたらどれだけいいだろう。

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