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おまじない

恥ずかしい思いをした朝食後、家族は何故泣いていたかを聞いてくることはなかった。

きっと気を使ってくれたのだと思う。

本日は建国祭3日目だというが、どうやらアーテル公爵家が皇宮を訪れたところまでは現実であった。

建国祭3日目は基本的に街の催しが一番の盛り上がりを見せる。

僕もアクアと行こうと話をしていたがそんな気分には到底なれなかった。また、朝の朝食の場でこの後アーテル公爵家の告げたことについて話し合いを皇王、皇妃、それに4家で行うと父上が言っていた。とても参加したいところだったがもちろん参加などできるはずがなかった。部屋でひとりでいるのはやはり怖いため、イニ兄様の部屋を訪れた。


「おや、ファーブラどうしたの?珍しいね」


部屋をノックしてドアを開けるとイニ兄様だけではなく、ウィル姉様とエテル兄様がお茶をしていた。


「兄様方がいらっしゃるのもかなり珍しいのでは?」


「そうかしら?わたくしたちは割とお茶をよくするのよ?」


「ファーブラがいつも部屋にこもってるから知らないだけだぞ」


「……僕も参加してもよろしいですか?」


「「「もちろん!!」」」


ウィル姉様はよくお茶をすると言ったが本当なのかは僕には分からなかった。僕があまり外に目を向けないから知らないことも大いにありうるし、実はそんなにしていないのかもしれない。

ウィル姉様はティーポットを傾けお茶を入れる。

普通は皇族がお茶を入れることなどあるはずがないが、そんなことのために使用人を呼ぶのは面倒くさいという姉様は自分で習得された。実は使用人が入れるよりもとても美味だったりするが、それを知るのは家族だけだ。



「ファーブラも今日の会議の行方が気になるんだね?」

「兄様方も?」

「当たり前だろ?この国の運命が決まるんだぞ?でも難しいとこだろではあるよな」

「そうだね、父上も判断に困っていたよ。証拠がないものだけど何しろアーテル公爵家だから」



様子を見るに兄様方も本当に何も知らない様子だった。


「では、兄様方は行方はどこに落ち着くと思われますか?」


「うーん……」「……」「……」


3人が返答に詰まり、沈黙が続く。

信じたくない気持ちと信じられない気持ち半分と言ったところか。そして僕の質問も良くなかった。あくまでも決定するのは皇王であるためこれを聞くのは良いことでは無い。


「でもこれだけは言えるね」


窓から優しい冬の風が吹き、イニ兄様の黄金の髪がキラキラと輝く。風に乗り甘い甘い香りがどこからともなく香ってくる。

何故かその匂いを知っている気がしたが思い出せない。


「この先の未来必ずファーブラは幸せになる」

「何が起ころうとも大丈夫ですよ」

「そうだぞ!俺たちが守ってやるからな!」


その言葉を聞いて思わず笑みがこぼれる。

なんと頼りになる兄様たちなのだろう。


「じゃぁ、、安心ですね」


ウィル姉様が入れてくださったお茶を口に含む。

いつも通りの優しく深い味わいのある風味でおいしい。


「そんなファーブラに私たちから些細なまじないをあげよう」


「おまじないですか?」


「そうね。ファーブラは泣き虫だから!」


「むっっ!今日だけですウィル姉様!」


朝のこと……僕も恥ずかしいのにそれを盛り返さなくても、、。

そう思い少しムキになって言い返す。

そんな光景がおかしかったのかイニ兄様とエテル兄様は笑い出す。


「分かっているよファーブラ!でもね怖い夢は見たくないだろ?」


「僕もう13歳です」


「"まだ"13歳だし泣き虫だからな!」


「そうですよ!貰えるものは貰っとくのです!」


イニ兄様は優しく言ってくれるがどこか面白そうにしているし、、エテル兄様に至っては完璧にバカにしている……。ウィル姉様は相変わらず逞しい考えを持っている。だけど意外とその考えが後の人生を左右したりするのだから侮れない。


「じゃぁまずは私から。私からはあなたの"始まり"をあげます。私の"特異"の事は知っていますね?」


イニ兄様の特異ーーーそれは"始まり"。

全ての事柄には始まりと終わりがある。

兄様は願った相手に"始まり"を授けることが出来る。つまり(終わり)を迎えたものにあらたな(始まり)を与えることが出来る強力な特異だった。


「兄様!!これはだめです!受け取れません!これは3回しか使えない貴重な特異です!しかもあと残り1回しか使えないではありませんか!」


そう。僕が知る限りでは1回目は傍付きの騎士を助けた時。2回目は父様が殺されかけた時だった。3回までしか使えないということは残り1回ーーー。そんなものを受け取ればしない。


「ファーブラ落ち着いて?確かに(始まり)を与えることもできるけど実はおまじない程度のことも出来るんだよ。ファーブラもよく知っているはずだ。楽しい夢の"始まり"をかけてあげていただろ?」


「あっっ!!だから兄様に頭を撫でてもらうと!!!」



そんな話は聞いたことはなかったから驚いた。

でも不可能ではないことを僕は知っていた。

なぜなら兄様に頭を撫でて貰えた日の夜は夢見が良い。それを幼いころから知っていたからよく頭を撫でてもらっていた。それはこのようなカラクリがあったのか……。


「ほらこちらへ来て?最近は頭を撫でさせてくれないじゃないか。私は寂しいんだけどね」


白くて綺麗な手が僕の頭の上へと置かれる。優しくよしよしと慈愛の満ちた顔でやられるのは少々気恥しいが、やはり兄様に頭を撫でてもらうのは嬉しい。恥ずかしくて下を向いていた顔をちらりと兄様の方へと向ける。満足気に笑みを浮かべながらも悲しそうな顔をするのは何故だろう。


「ファーブラも大きくなったね……」


「っっっ!!兄様!長いです!!!」


「おや?ファーブラも存外嫌いじゃないだろ?」


ダメだ見透かされている……


「じゃぁ次はわたくしからね!私のからはもちろん"幸福"を!あなたの夢で"幸福"な夢の"始まり"をあげるわ!」


ウィル姉様の特異は"幸福"だった。

願ったものに些細な幸せを運ぶことが出来る、誰もを笑顔にする姉様にピッタリな特異だ。茶柱が立ったり、好きな人に話しかけてもらたり、好きな料理が出たりなど。姉様風に言えば「日常の中に"幸せ"が溢れることは誰にでも平等にあるべきだけど、少しぐらい"特異"ズルしてもいいですわよね?」ってことだ。姉様はその言葉通り使用人や街にお忍びに出ては特異を惜しむことなく使っていたのを僕は知っている。

実に姉様らしい。


「兄様と姉様の力があれば悪い夢なんて一生見ないでしょうね!」


「当たり前よ!怖い夢なんて私と兄様にかかればゴミクズよ!ほら手を出して!」


姉様……言葉が悪いございます。


「あなたが赤ん坊の時もこうやって手を握って特異をかけたわ!ふふっ懐かしい!」


姉様はそう言って僕の手を強く握る。

女性らしい細くてすらりとした指は宝石細工のようだった。


「あなたのこの先の未来に必ず幸福は訪れるわ!」


もう僕はこんなに暖かい家族に囲まれて幸せですよ、なんて恥ずかしくて口が裂けても言えなかったのでこくりと静かにうなずいた。


「じゃぁ最後は俺から!ウィル姉様の言葉に続くと"ずっと""幸福"な夢の"始まり"を!って感じだな」


エテル兄様の特異は"永久"。

実は兄弟の中で一番危険な特異だったりする。

人間にとって終わりがあるからこそ、その時間を大切にできる。その反面でその時間が永久に続けばいいのにと考える人間は多い。

エテル兄様は無機物に限り永久を付与することが出来る。もちろん1度にかなりの体力が消耗されるため半年に1度というペースでしか使えない。


「兄様いいのですか?そんなことをしたら半年は力が……」


「ファーブラも知ってるだろ?俺はこの力が嫌いなんだ。だから滅多に使わない。だからいいんだよ!ファーブラの夢が幸せであることぐらい永久で!」


そう言うと兄様は僕の額にキスをする。

そんな貴重な力をたかが夢ごときで使わせる訳にはいかないと僕が言うことが目に見えていたからだ。



「っっっ!エテル兄様!!!勝手にそんな!」


「もう付与したからいいだろ?貰っとけ!」


「もー……でも、ありがとうございます」


改めて3人の家族を見つめる。

満足そうに3人のが僕を見るため文句なんて言えなかった。

こんなに貴重な力を僕になんか使ってーーーーーー



「ファーブラだから使ったんだよ。愛しい弟の幸せを願わない兄姉なんて居ないだろ?」




口になんて出していないのに全てお見通しだと言わんばかりにイニ兄様が誇った顔で言葉を投げかける。

本当に最高に優秀で優しい兄様達だ。

ほんとうに家族って暖かいんだな。

















その日の夜。

僕はある夢を見た。

皇国のいちばん大きな神殿で僕が白いタキシードを着て、周りには兄様達が祝福してくれて、父上が号泣していて、隣で母上が背中をさすっている。民の拍手が鳴り止まない。

そんな光景を横目に僕は


「愛してる」


と、隣を歩く黒髪の女の子になげかけた。

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