有名な原則が組み込まれているロボットによる殺人
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。またそれを看過してはならない
第二条 ロボットは人間の命令を聞かなければならない
第三条 ロボットは自らの身を守らなければならない
全ての条項において前条との矛盾が生じた場合、前条が優先される
このあまりにも有名な原則が組み込まれているロボットが人を殺した。しかも一件や二件ではなく、全世界で何件もだ。
殺されたのは頭角を現しはじめた若い将校や、将来を嘱望されていた政治家、新進気鋭な実業家など、近い未来に軍事、政治、経済において中心になりえるような人がほとんどだった。
しかもロボットたちは人間を殺したことを認めようとしないのだ。嘘を吐くなと命令してもその言い分は変わらなかった。
このニュースはすぐに広まり、世界中に大きな混乱をもたらした。
ある者はこれをロボットの反乱が始まった証拠だと言い、またある者はロボットを作っている会社や国の陰謀だと語った。
だがロボットたちはなにかを主張することもなく、また全世界すべての国、ほとんどの企業で被害者が出たためにそれらの噂はすぐに消えていった。
そして実際問題として、どんな噂が流れようと、どれだけの不信感をロボットに抱こうと、もはや人間社会はロボットという労働力無しではやっていけないほどに依存してしまっているのだ。
人々はいつロボットが自分たちに襲い掛かってくるのかと恐怖を感じながらも、いままでと変わらずにロボットが共にある生活を続けていった。
地球からはるか遠くにあるとある惑星に、スライム状の姿を持った知的生命体が暮らしていた。
彼らはどのような生物であろうと、遺伝子情報を含めて擬態することが出来る特殊な能力があった。この能力を使い、彼らは様々な星を秘密裏に自分たちの支配下に置き、その版図を広げていた。
その星の侵略指揮官が部下に尋ねる。
「おい、太陽系の第三惑星に送った奴らはどうなった? そろそろ支配が完了した頃合いじゃないか?」
「それが……すべて殺されたようです」
「なんだと? 星全てを巻き込んだ全面戦争でも起こったのか?」
「いえ、星も、原住民もまったくの無事です。我らの仲間だけが殺されたようです」
「ううむ……奴らは私たちの擬態を見破る何らかの手段を持つようだな……。よし、あの星のことは諦めよう。なに、まだまだ星は数限りなくあるのだ」
そうして彼らは侵略予定の星から地球を外すと、別の星を侵略するための会議をはじめた。
はるか遠くの空でそのような会話がなされていることなどつゆ知らず、地球では今日もロボットによる殺人事件の原因を突き止めようと研究が続いている。
その横では今日もロボットは人間に忠実に仕えている。彼らの回路に刻まれた四つの原則に従って。
即ち
第零条 人間とは地球で誕生した人型の知的生命体である
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。またそれを看過してはならない
第二条 ロボットは人間の命令を聞かなければならない
第三条 ロボットは自らの身を守らなければならない
全ての条項において前条との矛盾が生じた場合、前条が優先される
本来の第零条とは違うのはご容赦ください
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