対面する (レオナルド)
私は極度の栄養失調と診断され、1ヶ月程ベッドの住人となるそうだ。
朝、令嬢は起きると私の様子を見に訪れる。
見上げ続けるのは首が疲れるのか、しばらく私の顔を眺めてから手を伸ばしてくる。その手を伸ばしてるのも疲れたら、ダランと腕をおろしてションボリとする。
これを1日に何度か繰り返し、気が向いたときにだけ抱き上げてやる。
私の足の上に乗りキャッキャッしてる。倒れそうになれば支えてやるが、私は今病人だ。正直に言うと重いのだ。
なんだか無性にに腹立たしくなり、「重い」と口に出てしまった。
傷ついた顔をして出て行ってしまった。
それが10日前。それからは1度も顔を出さなくなってしまった。
トントンとノックがあり、夫人が食事を運んでくれる。
「も~。この屋敷の中はどこもかしこも辛気くさくてイヤだわ。ほらあーん」
「もう自分で食べられる」
「ダメよ。この屋敷ではコレがルールなの。病人はベッドから出ても良いと許可がおりるまで食べさせてもらうのよ。はい、あーん。あの子達は2人と離れた事がないから気分が落ち込んできちゃってるし。
あなたは婚約者の事を令嬢なんて呼び続けるし」
「令嬢だって私の事は第1王子と呼ぶ」
「ふふっ、張り合ってるの?だいぶ年上のくせに」
「・・・むっ」
「あの子はねぇ、ぷぷっ、レオナルドと言えないのよ!レオニャルドになってしまうの、ぶっ」
「・・・」
「まだ4歳よ?」
「・・・」
「それにねえ、ジョーとクリスが居ないのはシャンディの為でもあるけどあなたの為でもあるの。」
「・・・私のせいにするな」
「あなたのせいではないのあなたのためと言ってるのよ」
「別に頼んでないが?」
「なにをそんなにひねくれているの?ジョーにあなたに話すなとは言われてないから、私の独断で話すけど、ここから4つ国を跨いだ場所に行ってるの。あちらの国の情勢もよく分からないのに、あなたと婚約すると決めた娘と将来の息子のために。無事に着くか、無事に帰ってくるかそれすらわからないわ。でも私も腹を決めて送り出したの。
あなたは納得いかないなら、父親に王命取り消してもらうように頼み込みなさいよ。こちらからは、断る事なんてできないのだから。そうすればあの2人を追いかけて連れ戻すわ。」
「・・・」
「何がイヤなの?娘が4歳だから気にくわないの?侯爵家がイヤなの?私があなたと同じくらい王妃様に嫌われてるから私のせいだと思ってるの?
こっちだって勝手に人の婚約者に恋して奪えなかったからってもう何年も嫌がらせされ続けてるのよ?それともあなたが来た翌日に居なくなったジョーが気にくわないの?」
「・・・」
「レオナルド、だんまりしてないで、何か言いなさいよ。ジョーとクリスに何かあったら許さないわよ!バカぁぁ・・ううっ・・・」
服を掴まれ、ぐわんぐわんされる。
頭がごちゃごちゃする。何なんだ・・・もうっ!!
「わ・・・私だってこの状況に混乱している。毎日毒の心配をして、は・・は、母上の次男ふ・・ふれ・・フレデリックをたらし込めとイザベラ様に言われてここに連れてこらた。王宮から出る寸前で宰相にマーロン侯爵なら任せられると言われたんだ!そしたら目が覚めたら居ないだと?!突然婚約者だなんて、しかも4歳だなんて、平民?また笑いモノに、さらし者にされるのか?陛下に頼め?何度面会を求めても会ってもくださらぬ。状況を理解してもらおうとも手紙すら陛下に届かない!同じ王宮にいるのにもう何年も会えないし、手紙も届かないのだぞ?どうすればいいのか私だって分からないんだよぉっっ!!
・・・あぁ・・・感情に任せて声を荒げてしまった。王族失格だな。あ、もう王族でもないのか・・・ははは・・・すまなかった・・・」
がばっと抱きしめられた。
・・・・いつぶりだろう・・・。
・・温もりを感じたのは・・・。
「うっ・・・うっ・・・」
泣くのもいつぶりだ?
「そうよ、それでいいのよ。グスっ・・なに溜め込んでるのよ。
それにどさくさに紛れて・・グスっ・・私の事、母上と呼んだわね?
これからはそう呼び続けなさいな。いずれ息子になるんだもの。」
「・・・」
「シャンディに令嬢教育を今後させるつもりはないの。あの子の夢は平凡でいいから長生きすることなの。
私達はあの子の意見を尊重すると決めたの。いずれあの子が何か話すかもしれないし話さないかもしれない。でも、ムリに聞き出さないで。
あなたとうまく行くならそれでよし。行かなくてもあの子が望んでるのは身分より自由なの。それだけは忘れないで。」
「・・・分かった」
「沢山食べて早く元気になりなさいな。あの子を甘やかす事が大好きな2人が今不在なの。次男が頑張って抱っこしてるけど、もう3回も落としたわ」
がばっ
「・・・大丈夫なのか?」
「ふふっ、今はおでこにたんこぶが出来てるわ。それで恥ずかしくてここに来られないのよ。次男も責任を感じてしょぼくれ中よ」
「・・は・・は母上ご飯を食べさせてくれ。早く元気になりたい・・・」
「ふっ、どもらなくちゃ呼べないの?かわいいわね。ほらあーん」
なぜがこの日は一口食べるたびに頭を撫でられながらだった