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退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたりする話  作者: 菊池 快晴@書籍化決定


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38話 閑話SS、普通のおじさん、優柔不断すぎる。

これはまだ、エヴァと出会う前のククリとシガ――。



 私は悩んでいる。


 いや、誰もが経験したことがあるだろう。


 セール中と書かれたNyamazonの文字を凝視しながら、クリックしようかと悩んでいた。


「シガ様、また悩んでるんですか?」

「ああ……。今日の日付が変わるとセールが終わるのだ。お気に入りリストに入れてるが、勇気が出ない」

「そうなんですね。よくわからないけど、欲しいものは買ったほうが良くないですか?」

「そうかもしれないな。精神衛生上わかっているが、やはり……」


 悩んでいる。


 いつも悩んでいるといえばそうなのだが、タイムリミットは人の思考を狂わせる。


 私の冷静沈着、並列思考はなぜかこういう時には発動してくれない。


 いや、むしろ発動しているからこそ手が止まっているのかもしれない。


「どうしようか……買うべきか、買わないべきか」

「そもそも、これ(・・)って何をするものなんですか?」

「何を……するものか」


 そう言われると答えられなかった。


 いや、言ってしまえば特に今の旅に必要がないからだ。


 じゃあ、いらないですよね、と言われるのが怖い。


 もちろんククリなら、シガ様が欲しいなら買ったほうがいいですよ、と言ってくれるだろう。


 しかしそれは甘えているだけだ。


 本当に必要か、それとも不必要か、自身で見極める必要がある。


 それはそうとして、ククリの質問には答えねば。


「そうだな、食べ物ではない」

「は、はあ。だったら飲み物ですか?」

「飲み物でもない」

「は、はあ、そうなんですか」


 何をまどろっこしい答えをしているんだ、と言われてそうな溜息だが、結論を後回しにしている。

 許してほしいククリ、これが私の嘘をつかないで済む最大限の譲歩なのである。


 いやむしろ、買う必要がないと言っているようなものだ。


 ただ私は、それを認めたくないだけかもしれない。


「ああ、どうしようか…‥」

「ふふふ、シガ様って子供っぽいところありますよね」

「そうか?」

「はい、私も幼い頃、父と母に欲しい物をねだったころがあります。それを思い出しました。といっても、シガ様は自分で買うか悩んでいるのでまた違うかもしれませんが」

「そうなのか。だが私はもう大人だからな、我慢すべきだとわかっているのだが」

「たまにはいいんじゃないですかね、シガ様はいつも他人の事を考えすぎです。たまには自分へのご褒美もいいんじゃないでしょうか?」

「ご褒美か……」


 確かにククリと出会ってからビールもあまり飲んでいない。

 酒臭いおじさんと思われるのは嫌だし、怠惰になっている気がして控えていたのだ。


 しかし言われてみれば、私は自分にご褒美を与えていない気がする。

 

 自分の機嫌は自分で取ろう、という言葉も聞いたことがある。


 よし、そうだな。


 ククリのおかげで覚悟が決まった。


 私は、決めた。


 これを買おう。


「よし! ん、なんだこれは……ハッ、ククリ、今何時だ!?」

「え? 時間はちょっとわかりませんけど、月夜からしたら22時くらいですかね?」


 おかしい、まだ二時間ある。


 いやまてよ――そうか、これは現地時間と異なるのだ。

 つまり時差……。


「終わった……」


 タイムセールが終了し、値段が跳ね上がっている。

 もはや購入するのが許されない値段だ。


 私の優柔不断が、この結果を招いた。


「ど、どうしたんですか? 大丈夫ですか?」

「ああ……」


 いや、これで良かったのだ。

 運命、というものがある。


 これが、神の御心なのだ。


「シガ様、よしよし」


 ククリが私の頭を撫でてくれている。

 ああ、これがご褒美だな。


 そうだな、元気を出そう。


「ありがとうククリ、さて寝ようか」

「はい! 元気出してくれてよかったです」

「ククリのおかげだ」


 ――――

 ――

 ―


「ああ、どうしよう、やっぱりほしい」


 しかしセールが終わったにもかかわらず、私はずっとお気に入りリストを眺めていた。

 また安くならないものか、それともこのまま買ってしまおうか。


 わからない、どうしたらいいのかわからない。


 私は、どうしたらいい。


「シガ様、もう寝たほうがいいですよ。明日も早いので」

「はい……」

「Nyamazonは一日一時間、わかりましたか?」

「はい……」


 ごめんなさい、ククリお母さん。


 そして私は、そっとNyamazonを閉じると、目を瞑った。


 朝目を覚ますと、嬉しい通知が視えていた。


 『緊急タイムセール』


 だがまだ一日一時間の制限がある。ククリの目を盗み呼び出すと、何と欲しい物が安くなっていた。

 もう買うしかない。今しかない。バレないようにこっそりと――。


「シガ様?」

「な、なんだい!?」

「にゃおーんって聞こえたような……」

「き、気のせいだ」

「そうですか?」


 結局、使用を許可された時間になった時、タイムセールは終わっていた。


「ああ……」


 しかし私は、また夜な夜な、お気に入りリストを見ているのだった。


「買おうかな、やめとこうかな……」

【大事なお願いです】


仕事をしながら合間で執筆をしています!

『面白かった!』『次も楽しみ!』

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