プロローグ
「私花言葉好きなんだよね」
病院の一室で彼女はそう言いながら一口サイズに切られたりんごを口に放り込む。
「あんなに綺麗な花なのに、花言葉は怖い意味だったりしてギャップ? が好きなんだよね」
もさもさと咀嚼しながら話す。やめてほしい。
「でも、普段意識して花って見ることなくない? 皆んな綺麗だとか良い色とか言ってるけど、やっぱり見かけだけで満足してそのほかの事、それこそ花言葉みたいなそのもの自体にある意味とか考えてないと思うんだ」
彼女は二つ目のりんごを口にする。まだ一つ目も飲み込んでないのに。
「ねえ、君はどう思う? 君は普段花を見てどんなこと考えるの?」
突然質問するのはやめてほしい。少ない付き合いだがこれが彼女の癖だということは分かってきた。
「特に何も思わないよ、強いて言うなら生きづらそうと思うかな」
りんごをの皮を剥きなが答えた。
「ふーん」
彼女は何も言わずに背を向けてベッドに寝転んだ。
なんだか不服そうだ。
「君って友達少ないでしょ」
背を向けたまま彼女は言った。なんなんだ。
「友達くらいいるよ、そう呼べるかはわからないけど」
「ふーん」
彼女は興味なさそうに答えるこれも彼女の癖だ。
「じゃあさ、私が新しい友達になってあげる。」
少しこちを見ながら彼女が言った。
「それはどうも」
僕は相変わらず手元から視線を離さずに答える。
「興味なさそうだね。 傷つくよ」
「君の真似をしてみたんだ、上手だと思うよ」
「まったく、君というやつは素直じゃないな」
「素直じゃなくても困らないからね、人と話すことがないから素直である必要もないんだ」
「なんだ、やっぱり友達いないんじゃん」
「……」
彼女は口の両端を吊り上げた。
「じゃあ私が君の唯一の友達ってことか」
「……はあ、それでいいよ」
「ふふん、じゃあ友達となった君に一つお願いがあるんだけど……」
彼女はその「お願い」とやらを話し始めた。
「……ということなんだけど良いかな?」
僕は今日初めて彼女の目を見た。
彼女の目はまっすぐこちらを見つめていた。
「……いいよ」
僕は渋々承諾した。
それが僕に取って、そして彼女にとっても最適解な気がしたからだ。
僕はその日いつもより早めに家に帰った。
その時だけは彼女と同じ空間にいるのが辛いと感じたから。