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2 いつもより遅い目覚めといつもはいない相手といつもはない連絡と

「遅くなったな……」


 宴は遅くまで続いた。

 別にまだお酒を飲むわけでもないが、発見者の私が勝手に抜けることも出来ずに夜更かしをしてしまった。

 雑魚寝から起きれば、周りの多くは眠っていてその中には哨戒任務をあてがわれていたはずの奴もいた。

 そう言うやつについては自分のことを棚に上げて軽く蹴飛ばしてから、食堂を後にして、駆け足で塔までやってきた。

 見上げる。

 旧時代のビルディング。

 この地域は昔オフィス街という場所であったらしい。

 建築技術の高さがあって生み出された多くの建造物が所狭しと建てられていた。

 だが、今では私が見上げ、私たちが塔と呼ぶ場所くらいしか残っていない。

 他の建物は崩れて倒れてしまっている。

 この地域は超高層な建築物の残骸で出来た要塞とでも言える場所だった。

 

「さて、行くか」


 私は塔に足を踏み入れる。

 建っているのだが、残念ながらここは無事であるということではない。

 風化しつつある内部は決して安全ではない。

 比較的問題無いことを確認している中央階段の一つを昇っていく。

 目的地は屋上。

 フロアとしては89階分をこれから昇っていくことになる。

 それでも階段で行けるのは46階まで。


「アゲハ……」

「何だ?」


 無線からの連絡。

 いつもはかけてこない声の主に私は訝しんで答えた。

 相手は長であるイチロウだった。

 そして自分にとってみれば父でもある。


「……大丈夫か?」

「心配はない。もう、慣れた」

 

 装備を必要最低限にしてからは駆け足で階段を登り切れるようになった。

 毎日昇っているのだから正直足腰については誰にも負けないだろうとも思っている。

 自分でもトレーニングだと思うようになってからは、日々の進歩を小さくても感じるようになって楽しいし、そろそろ荷重を増やしても良いかと思う程度には余裕が出てきていた。

 もちろん、それでも体力を取られる部分でもあるのだからキツイはキツイ。

 そこを心配されているわけでもないとはいえ、自分的にはまだまだこの辺りで心配されるのは面白くないから微妙に不機嫌な口調を返してしまっていた。


「そうか」

「あぁ、おっと……」

「うん?」


 無線連絡のタイミングがちょうどよかった。

 まさに階段を登り切った以上、ここからは心配されても仕方ない場所に突入する。

 気を引き締めるように軽くジャンプしつつ辺りを見回していたら、いつもはここにいない厄介者を見つけてしまった。


「鳥がいる」

「群れか?」

「いや、単体」


 距離があるので無線とのやり取りでは気付かれなかった。

 無線は静かになる。

 見つかっていない以上、黙ってくれているのは助かるくらいにしか思わないが別に鳥なら群れでも面倒なくらいの相手でしかない。

 だから話を続けてもいいと思う部分もあるし、驕りが過ぎると思う気持ちもある。

 ナイフポーチには投擲用の物が5本。

 一応、銃もあるが発砲音を出すと群れを呼び寄せるだろうと自然とナイフへと手を伸ばした。 

 隠れる場所はない。

 ナイフを投擲するために構える。

 慣れたもので戦闘への意識と同時に別のことを考えてしまう。

 向かっていく先。

 47階から上は戦闘が有ったのか崩落している。

 だから上に行くには抜けた床を通って上に行くしかない。

 足場として残っているフロアもあれば、足場とするには心もとない鉄筋しかない場所もある。

 そして厄介なのは場所だけではない。

 モンスターの存在だ。

 231年前に起こった混乱。

 スターダスト・インパクト

 星屑の衝撃という安直なネーミングだが端的に事情を伝えている。 

 巨大隕石が地球に迫った。

 直撃すれば地球は木っ端微塵となるかもしれないと専門家は恐れたが、隕石の軌道は地球とぶつかるものではなかった。

 人々は安心し、そしてそれを天体ショーとして楽しむ程度には気を抜いていた。

 それも直ぐに楽しむなどということを考えられなくなった。

 隕石はどういうわけか地球に近づく最中に欠けた。

 隕石から零れるように欠けた小隕石が地球にぶつかるとなった時、人々は一気に平静さを失った。

 そうして人々が平静さを失うと同時に質量を無くさずに小隕石は地表へと降ってきた。

 悲しいかな、一つの塊であった小隕石は大気圏を通り抜ける際に熱と衝撃が加わって割れた。

 一番大きな塊で一つの都市が半壊する程の威力があって、割れた破片の大きさと比べてもほとんど変わらなかった。

 そして割れた数は数百はあったらしい。

 世界が崩壊するのは当然だ。

 そうやって壊れた世界は平和さというものを無くした。

 生きるために他者を退ける必要を選んだ国が他国へと侵略の路を取ることに時間はかからなかった。

 戦争が始まった。

 発展した科学技術があったのだから戦争は洒落にならない方向へ進みかけた。

 最初に始めたものが一番悪いとして、いや、始めたくて始めたのかも今では分からない。

 分かるのはすべての人が幸福で安らかでいられることはないという話は昔からあった。

 世界は平等になんか出来てない。

 だからこそ、少しずつ人は足並みを揃えて進歩してきたのだろう。

 不平等こそ争いの元だと薄っすらと気付いていたからこそ。

 でも、進歩しない人間もいる。

 自分では何もしないのに誰かが先へ行くと戻そうとする人間だっている。

 戦争という物が始まって世界がおかしくなった時に現れた一人の狂者が編み出した物が本当の意味で世界を変えた。

 どういう名前だったのかは知らない。 

 ただ、生物兵器として出来上がったそれの効果は知っている。

 動物を植物を人間を変えてしまう兵器。

 世界にモンスターが溢れるほどに使われた兵器が戦争を激しくさせた。

 

「クェエエ……」

「……」


 気付かれた。

 でも、もう遅い。

 考え事をしていたが身体は問題なく動いている。

 息を潜め、集中し投擲したナイフ。

 距離はあったがそんな距離は問題にならない。

 自分ほどの大きさの黒い鳥の頭へとナイフが吸い込まれていく。


「クヘェ!」


 即死だったかは分からない。

 だが、断末魔としては小さく鳴いてどさりと床へ沈む。

 近づいてナイフを抜く。

 近づけて反応がないことで倒したことを感じる。


「……終わった」

「処理をしろ」

「重いんだけどな」


 指示の通りにする。

 鳥をズリズリと引っ張って動かし、塔の外へと投げ捨てる。

 いや、投げれる重さではないから最後は蹴り落とした。

 

「バードを落とした回収よろしく」

「……はいよぉ」


 起きていたので良かった。

 回収班にそう告げ、返事を貰ったので屋上へと歩みを進める。


「……それで何かよう?」

「……あぁ」


 喧嘩をした。

 数年前だ。

 同じ年頃だった少女たちが外へ出ていく時に。


「まだ、外へ行きたいか?」


 父の言葉に私は歩みを止めさせられた。

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